このエントリーでは、明瞭な言葉を選ぶトレーニングを紹介します。これは同時に、ものごとを客観的に考える(客観視する)トレーニングでもあります。
なお、「明瞭」という言葉について詳しくは説明しないので、時間に余裕のある人は以下のエントリーから順に読んでください。
では始めましょう。
toc
例題
次の文を、数字を使って明瞭な表現に言い換えなさい。カッコ内の言葉を使い、数字は適当なものを自分で設定すること。
変更前 | 変更後 |
---|---|
このテストはとても難しい。(合格率) |
以下の解答欄に答えを書いてから進んでください。
変更前 | 変更後 |
---|---|
このテストはとても難しい。(合格率) | このテストの合格率は3%だ。 |
意味がハッキリして、誤解の余地が小さくなったことを確認してください。
解説
このように、形容詞(形容動詞も含む)・副詞を数字で言い換えることで、より明瞭な(誤解の余地のない)表現になります。
なぜでしょう?
形容詞と副詞は観察できない
まず、ほとんどの形容詞と副詞は観察できません。以下の例を見てください。
- 形容詞
- 大きい
- 多い
- ヤバい
- 副詞
- とても
- ほとんど
- 滅多に
これらはすべて観察できません。言い換えると、これらは主観的な判断であり、意味が他者と揃いにくいのです。
ほかにも、自分で思いつく形容詞や副詞をチェックしてみてください。観察できないことに気づくでしょう。例外は「赤い」、「青い」といった色を表す形容詞くらいです1。
つまり、形容詞・副詞が多い文は、主観的で曖昧な印象を与えます。論説文では形容詞と副詞は「やむを得ないときに使う」という位置付けのもので、「積極的に使う」ものではありません。
対策:形容詞と副詞をカットして、数字を使う
では、どのような言葉を選べばよいのでしょう? 覚えておくことは以下の2つです。
- なくても意味がとおる形容詞や副詞はカットする
- 数字で言い換える
まず、不要な形容詞や副詞はカットします。あっても主観的な印象を与えるだけですからね。特に、副詞はカットできるケースがとても多いです。
しかし、カットできるケースばかりではありません。その場合は、数字に置き換えられないか検討しましょう。数字が出てくるほど、その文章は客観的な印象を与えます。
数字が客観的な印象を与える理由は、観察しなければ、数字は述べられないからです。先ほどの例題で確認しましょう。
変更前 | 変更後 |
---|---|
このテストはとても難しい。(合格率) | このテストの合格率は3%だ。 |
「合格率は3%だ」と述べるためには、実際に合格者をカウントするか、カウントした人の発表を調べる必要があります。このように、数字の背後には観察があるため、言葉が与える印象が客観的になるのです2。形容詞や副詞を使いたくなったら、それを数字に変換できないか考える癖をつけましょう。
数字の背後には観察があるので、印象が客観的になる
また、数字のほうが内容が具体的になります。変更後の文では「合格率」という言葉を足していることから分かるように、何についての数字かを明示する必要が生じるからです。
形容詞を使った「このテストはとても難しい」だと、「このテストは(内容が)とても難しい」という意味にもとれてしまい、意味がハッキリしません。しかし、この曖昧さは「このテストはとても難しい」という文だと気づきにくいですよね。
一方、「このテストは3%だ」と言われたら、誰でも「いや、何が3%なんだよ」とツッコミを入れます。その意味で、数字は曖昧さのスクリーニング装置としても機能します。
練習問題
ここからは練習問題です。
レベル1
次の文から副詞をカットしなさい。
変更前 | 変更後 |
---|---|
彼はとても大きい。 | |
賛成している人が若干多い。 | |
X社はY社よりずっと安い。 | |
この病気はすごく恐ろしい。 |
変更前 | 変更後 |
---|---|
彼はとても大きい。 | 彼は大きい。 |
賛成している人が若干多い。 | 賛成している人が多い。 |
X社はY社よりずっと安い。 | X社はY社より安い。 |
この病気はすごく恐ろしい。 | この病気は恐ろしい。 |
レベル2
次の文を、数字を使った表現に言い換えなさい。カッコ内の言葉を使い、数字は適当なものを自分で設定すること。
変更前 | 変更後 |
---|---|
彼はとても大きい。(身長) | |
賛成している人が若干多い。(割合) | |
X社はY社よりずっと安い。(料金) | |
この病気はすごく恐ろしい。(死亡率) |
変更前 | 変更後 |
---|---|
彼はとても大きい。(身長) | 彼の身長は2mだ。 |
賛成している人が若干多い。(割合) | 賛成している人の割合が60%だ。 |
X社はY社よりずっと安い。(料金) | X社の料金は、Y社の料金の半額(50%)だ。 |
この病気はとても恐ろしい。(死亡率) | この病気に感染した際の死亡率は25%だ。 |
このように、形容詞・副詞を数字で置き換えると意味が明瞭になります。実用文を書くときには常に意識してください。
さらに学習を進めたい人は
ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。これ以外の文章力トレーニングは、以下のリンクにまとめてあります。