このエントリーでは、実用文における語句の選び方を説明します。
文章は語句の選び方で決まると言っても過言ではありません。結局のところ、文章というのは連続する語句だからです。
分かりやすく、簡潔な実用文を書くためには、どのような語句を選ぶべきなのでしょう?
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語句とは
まず、本エントリーにおける「語句」とは、文より小さい言葉の単位をひっくるめたものだと考えてください。具体的には以下のことです。
- 単語
- 単語の選び方だけでなく、表記(ひらがな・カタカナ・漢字・アルファベットのどれで書くか)も含む
- 文節
文や段落をどう書くべきかについては、別エントリーで説明します。
実用文における語句の選び方:全体像
準備ができたので、以下のスライドを見てください。実用文における語句の選び方をまとめました。
実用文のゴールから、使うべき語句の指針が導けます。なお、このエントリーでは「実用文」の意味やそのゴールは説明しません。スライドの左側がピンとこない場合は、以下のエントリーから順に読んでください。
使うべき語句
では、上のスライドを掘り下げましょう。
まず、使うべき語句は以下の3タイプです。
- 読み手が知っている語句
- 明瞭な語句
- 読みやすい語句・表記
順に説明します。
使うべき語句①:読み手が知っている語句
まず、読み手が知っている語句だけを使います。これがもっとも重要です。
当たり前ですが、知らない語句は読めないうえに意味も取れません。そのような語句が頻出する文章は、読み手からすると「分からない」ため、実用文のゴールを達成できません。
読み手が知っている語句だけを使う
読み手を想像する
どうすれば、読み手が知っている語句が分かるのでしょう?
答えはシンプルで、読み手を想像するしかありません。以下のスライドを見てください。
このように、「(想定している)読み手が知っているであろう語句」を想像し、そこに属する語句だけで文章を書きます。
そこに属していない語句(「危険ゾーン」の語句)は、必ず定義・説明しましょう。文中で定義・説明するほどではないと思うなら、脚注で補足する形でも構いません。
なお、自分と読み手で意味が揃っていないと文章全体に悪影響がある語句は、たとえ受け手が知っていそうであっても定義しておくのが安全です。
たとえば、このエントリーにおける「語句」がそうです。私が冒頭でこの単語を定義したのは、この単語の意味をあなたと揃えておかないと、どこまでの話をしているのかが曖昧になるからです。あなたが「語句」という単語を知らないと思っているわけではありません。
使うべき語句②:明瞭な語句
次に、明瞭な語句を使います。
ここでの「明瞭」とは「意味が1つに定まる」という意味です。対義語は「曖昧」ですね。以下のスライドでイメージを掴んでください。
以下の2点において、実用文で曖昧な語句を使う理由はありません。
- 読み手が誤解するリスクが高まる
- 文章が雑に書かれている印象を与え、説得力が下がる
常に、明瞭な語句を選びましょう。
明瞭な語句を使う
このポイントに関しては、上のスライドの詳細も含めて次エントリーで解説します。
使うべき語句③:読みやすい語句・表記
最後に、読みやすい語句・表記を優先します。
理由は自明でしょう。同じ意味を伝えられるなら、読みやすいに越したことはありません。
具体的には、以下のポイントを意識しましょう。
- ひらがなで問題ない語句はひらがなで書く(専門用語で「漢字をひらく」)
- 漢字を連続させすぎない(目安としては4文字までに抑える)
- 同じ意味の語句なら、短いものを優先する(短いほうが読みやすい)
日本語にはひらがな・カタカナ・漢字という3種の文字があり、このうち読みやすいのはひらがなとカタカナです。全体のバランスを意識しつつ、漢字を使いすぎないようにしましょう。
読みやすい語句・表記を優先する
難しい語句の扱い
ここまでの条件をすべて満たそうとすると、専門用語などの難しい語句の扱いが問題になります。以下の表を見てください。
簡単な語句 | 難しい語句 | |
---|---|---|
読みやすさ | ◯:間違いなく読める | △:知っていれば読める |
明瞭さ | ×:広義で曖昧なものが多い | ◯:狭義で明瞭なものが多い |
伝える意味の量 | ×:単純な意味しか伝えられない(=説明が長くなる) | ◯:複雑な意味をまとめて伝えられる(=簡潔に説明できる) |
このように、難しい語句のほうが明瞭で、かつ、複雑な意味を伝えられます。つまり、読み手が知っているのであれば、難しい語句を使ったほうが簡潔で分かりやすい文章になるのです。
例を見てみましょう。
簡単な語句による説明 | 難しい語句による説明 |
---|---|
最初は少しずつしか増えないが、時間が経つにつれ、ものすごい勢いで増える | 指数関数的に増える |
このように、難しい語句(この例だと「指数関数」)を使ったほうが、それを知っている人には簡潔で分かりやすくなります1。
読み手が知っているなら、難しい語句を使ったほうが簡潔で分かりやすくなる
むやみに難しい語句を使う必要はない
ただ、むやみに難しい語句を使う必要はありません。
難しい語句が機能するのは、読み手が知っている場合だけです。読み手が知っている語句を完全に把握することはできない以上、むやみに難しい語句を使ったところで、文章が「分からない」ものになるリスクを高めているにすぎません。
日本で教育を受けた場合、どこかに「難しい語句が使われている文章ほど品位が高く、素晴らしいものだ」という感覚を持ってしまうものではないでしょうか。入試で読むことになる評論文が、暗号と呼んで差し支えないレベルの難解さだからです。
そのせいか、「読み手が知っているのか」をよく考えず、難しい語句を使うことが目的化している文章をよく見かけます。そのような文章は実用文としては失格なので注意してください。
先述のメリットはあるにせよ、難しい語句は実用文において「積極的に」使うようなものではありません。難しい語句を使うのは、以下の2つの条件を満たせるときだけです。
- その語句を読み手が知っていると確信できる(もしくは、知っている読み手しか対象としたくない)
- その語句を使うことで、簡単な語句を使うケースと比べて簡潔で分かりやすくなる
特に、2番目の条件を忘れないようにしましょう。同じ意味を簡潔に伝えられるなら、簡単な語句で十分です。
難しい語句を積極的に使う必要はない
語句を一貫する
ここまでは使うべき語句の話でした。使う語句が決まったら、それを一貫します。具体的には、以下の2つを意識しましょう。
- 同じことを意味する語句は1つだけにする
- 表記を揃える
順に説明します。
語句を一貫する①:同じことを意味する語句は1つだけにする
まず、同じことを意味する語句は1つだけにします。読み手からすると、語句が違えば意味も違うように見えるからです。
たとえば、同じ文章中に「社員」と「従業員」という言葉が出てきたら、読み手としては「ひょっとして、この2つは違う意味で使っているのかな?」と不安になりますよね。そのような気持ちにさせないよう、使う語句はどちらか1つに絞ります2。
語句を一貫する②:表記を揃える
次に、同じ意味で使う語句は、同じように表記します。異なる文字で書くケースが混ざってはいけません(専門用語で「表記ゆれ」)。これも同じ理由で、表記が違うことに何か意味があるように見えるからです。
たとえば、「ハリー・ポッター」と「Harry Potter」はどちらでも正しいですが、同じ文章中に両方の表記が登場するのはNGです。表記は統一しましょう。
パソコンで文章を書くとSpaceキーを叩くだけで変換できるため、表記ゆれは簡単に起こります。表記ゆれを起こしやすい語句はリストにして、最後に検索(Ctrl + F)をかけると安全です。
以上、実用文の語句の選び方を説明しました。次は、本エントリーでも触れた「明瞭な語句」を掘り下げましょう。以下のエントリーに進んでください。
また、文章力に関する全エントリーは以下のリンクにまとめてあります。