
このエントリーでは、AIディベートで鍛えられるスキルについて説明します。その過程で、どのようにAIディベートに取り組むべきかも考えましょう。
なお、シリーズものなので、以下のエントリーを先に読んで、最低でも1度はAIディベートを体験してから読んでください。
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AIディベートで鍛えられるスキル
AIディベートで鍛えられるスキル(力)は、大別すると以下の2つです。
- 文章力
- 思考力
順に説明します。
AIディベートで鍛えられるスキル①:文章力
AIディベートで鍛えられるスキルその①は、文章力です。なお、ここでの「文章力」とは単に「自分の伝えたいことが、そのまま相手に伝わる文章を書ける力」のことで、内容面でのニュアンスは含まないこととします。
文章力:自分の伝えたいことが、そのまま相手に伝わる文章を書ける力(内容とは無関係)
AIディベートで文章力が上がることは明らかでしょう。前回体験してもらったとおり、AIディベートではひたすら文章を書いて、その後にAIからフィードバックを受けます。これで文章力が上がらないわけがありません。
まずは「文章力の向上」を最初のマイルストーンにする
後述するようにAIディベートでは思考力も鍛えられますが、最初のマイルストーン(達成すべきゴール)は「文章力の向上」にすることをオススメします。理由は以下の3点です。
- 文章力は「思考」と「AI利用」の両方において重要
- それにも関わらず、おそらくあなたの文章力は低い
- 文章力は上げやすいし、上がったことが明確にわかる
順に説明します。
まずは文章力の向上を目指すべき理由①:文章力は重要
まず、文章力がないと、まともに考えることも、AIを使いこなすこともできません。この点に関しては以下のエントリーで詳しく解説しています。
これからのAI時代においては、文章力は「すべての根幹をなすスキル」と言っても過言ではないでしょう。
まずは文章力の向上を目指すべき理由②:おそらく、あなたの文章力は低い
それにも関わらず、おそらく、あなたの文章力は低いです。
根本的な問題として、日本では大学卒業に至るまで、「論説文(自分の主張の正しさを根拠で説得する文)を書いて、フィードバックを受ける」という機会がほとんどありません1。明確にそのような機会と呼んでいいのは、それこそ卒論くらいではないでしょうか(人・学校による違いはあるにせよ)。
つまり、書くトレーニングが絶対的に不足しているのです。結果として、意味が取れない(取りにくい)か、文法的におかしな点がある文を書く人がほとんどです。私の経験上、これは一流大学を出ていようが、一流企業に勤めていようが変わりません。特に多いのは以下の3つでしょうか。
- 主語や目的語がわからない
- 一文が長すぎる
- 小難しい言葉・言い回しを使うことに傾倒しすぎている
AIディベートは、このような悪い癖を一掃する絶好の機会です。あらかじめAIに「文章に問題があったら教えて」と指示を出しておき(具体的な指示の出し方は次エントリーで説明)、試合が終わった後で文章を改善しましょう。
まずは文章力の向上を目指すべき理由③:文章力は上げやすい
意識的に取り組めば、早いタイミングであなたの文章力は劇的に改善するはずです。AIは「どこが悪いか」、「どうすれば改善するか」を具体的に指摘してくれます。それを覚えて、同じ過ちを繰り返さないようにするだけなので、試験勉強に近い感覚で取り組んでください。よく指摘を受けることはリスト化して保存するのもオススメです。
おそらく、適切な指示を出したAIとのディベートを10回もこなせば、文章力が上がったことを実感できるはずです。というより、「10回AIディベートをしても文章力が上がった実感がないなら、AIディベートのやり方を間違えている」くらいに考えてください。
最終的には、「文章面でのフィードバックをほとんど受けないようになる」レベルを目指しましょう。誤字・脱字はどうしても出てしまうものですが、それ以外の問題は試合を繰り返すほど減っていくはずです。
AIディベートでは、まず文章力を鍛えよう
「ディベートがうまくなる」をゴールにしない
これは重要なポイントなので、逆からも言い直しておきます。AIディベートでは、「ディベートがうまくなること」をゴールにしてはいけません。あなたがディベート部員でもないかぎり、そんなゴール設定に意味はありません。
もし「ディベートがうまくなること」や「AIに勝つこと」をゴールにすると、自分でロジックを組むのではなく、AIに以下の質問をするのが最適解になります。
「XXX?」という論題でディベートをしています。肯定側立論のベストな例を教えてください。 こんなことを繰り返しても、あなたの文章力は上がりません。もっと根本的な問題として、あなたは自分で考えられなくなります。なんのためにAIディベートをするのかを、常に意識しましょう。
AIディベートで鍛えられるスキル②:思考力
AIディベートで鍛えられるスキルその②は、思考力です。以下のスライドを見てください。

前回説明したとおり、ディベートとは「固定された主張の正しさを支える根拠を、いかに構築するか」を競うゲームです。屋根ありきで、いかに屋根を支える構造物を作るかを競うわけですね。
ここでは、この「根拠を構築する能力」をまとめて「思考力」と呼んでいます。ただ、これでは大雑把すぎるので、以下の3つに分けましょう。
- 発想力・知識:自分の立論の材料(柱)を集めてくる力
- 論理的思考力:柱を組み上げてロジックを作る力
- 批判的思考力:相手の立論の弱点を探す力(正しさを疑う力)
順に説明します。
AIディベートで鍛えられる思考力①:発想力・知識
まず、何を根拠にして自分の主張を支えるかを思いつく必要があります。上のスライドにおける、柱を集めるわけですね。毎回「根拠の材料」だとわかりにくいので、この「柱」をディベート用語として使うことにしましょう2。
(ディベート用語としての)柱:自分の立論における根拠の材料
柱を用意するには、思いつく(発想力)か、知っている(知識)しかありません。よって、AIディベートをするには「発想力・知識」が必須だし、繰り返すほどこの力は上がっていきます。
発想力・知識は鍛えない|柱はAIに出してもらう
ただ、最初は発想力・知識を鍛えようとしないことをオススメします。
なぜなら、柱を用意することがAIディベートの中でダントツに難しいからです。そして、ここで躓いてしまうと、文章を書き始められません。それでは「文章力を鍛える」という最初のマイルストーンが遠ざかってしまいます。
とりあえず、慣れるまで、柱はAIに教えてもらえばいいというのが私の意見です。まずは柱ありきでAIディベートをこなせば、以下のことが理解できるでしょう。
- 柱にはどのようなパターンがあるのか
- 柱の切り口はパターン化できる(公平性、自由、安全、効率、費用など)
- 立論や最終弁論をどのように書くのか
自分で柱を用意するのは、それからでも遅くありません。まずは「論説文を書く」という行為を繰り返すことを重視してください。
AIディベートにおける柱の数
なお、AIディベートにおける立論では、「柱は2本、多くても3本まで」と考えましょう。1本ではその柱を切り崩されたときに勝ち目が残らないし、文章量も物足りません。逆に、4本以上では話が散らかるし、ひとつの文章として書き切るのに時間がかかりすぎます。よって、2-3本がベストです。
AIディベートでは、柱は2本か3本にする
AIディベートで鍛えられる思考力②:論理的思考力
次に、集めた柱を組み上げて、主張を支える必要があります。これが「論理的思考力」と呼ばれるものですね。
これは「ディベートでは、数学の証明問題でやることを自然言語(普通の言葉)で行う」と言い換えてもいいでしょう。数学の証明問題では、与えられた命題(=主張)の正しさを証明しますよね。同じように、ディベートでは固定された主張の正しさを支えます。使う言語が違うだけで(数理言語 or 自然言語)、脳みその使い方は同じです。
ただ、最初のうちは「AIディベートで論理的思考力を鍛える」というのは言いすぎで、「自然言語における論理的思考の型を覚える」くらいが適切でしょう。先述のとおり、柱はAIに教えてもらって、文章もテンプレートを使って型にはめるだけですからね。
数学の証明問題と違うこと
なお、ディベートと数学の証明問題では、決定的に異なる点がひとつあります。それはディベートでは完全な正しさを証明することは絶対にできないということです。
理由はシンプルで、どちらかのサイドが完全な正しさを証明できるような論題では、ゲームとして成立しないからです。たとえば、「人間は水を飲まないと死ぬか?」は、ディベートの論題にはなりません。肯定側が勝つことが確定しているからです。
この制約があるため、ディベートの論題は必ず、肯定側にも否定側にも勝ち目がある、言い換えると、「議論の余地がある」ものになります。数学の証明問題は、それが問題として問われる時点で「証明できる(=議論の余地なく正しい)」ことが確定しているので3、ここが明確に違うわけですね。
AIディベートを始めると、最初は自分のロジックの脆弱さにうんざりするかもしれません。いわゆる試験勉強(=完全な正解が存在する)では、そんなことはありませんからね。ただ、ディベートとはそういうものなので気にしないでください。
繰り返しになりますが、私たちのゴールはディベートがうまくなることではありません。「ディベートというゲームを通じて、論説文を書く機会を強引に作り出している」くらいに考えてください。
ディベートの論題は必ず議論の余地があるため、完全な正しさを証明することはできない
AIディベートで鍛えられる思考力③:批判的思考力
最後に、批判的思考力も鍛えられます。これは要するに「疑う力」ですね。以下のスライドを見てください。

AIディベートでは、何度も以下の問いを発することになります。
- この立論で勝てそうか?
- AIの立論の弱点はどこか?
これがそのまま「批判する」という行為です。自分・相手のロジックを疑うわけですね。特に、最終弁論ではAIの立論の弱点をなんとしても探す必要があります。それができなければ、最終弁論は書けません。
つまり、AIディベートでは批判するしかないので、批判的思考力の向上も期待できるのです。
なお、上のスライドの詳しい解説は以下のエントリーで行っています。時間があるときに読んでおいてください。
AIディベートの最大の意義
このように、AIディベートではAIを疑うしかありません。言い換えると、AIディベートでは建て付けとして、AIが「正解を教わる対象」ではなく、「対等の目線で、議論をする相手」になっています。
個人的に、これがAIディベートの最大の意義だと考えています。AIディベートをすれば、AIが自分の中で神様になりません。
調べものなどでAIを使っていると、自分の中でAIがどんどん「絶対的に正しい存在」になっていきますよね。近年の進化スピードを考えると、近い将来、AIは「正解があることなら、必ず正解を教えてくれる存在」になるでしょう。
それ自体はとても便利で素敵なことですが、そういう用途だけでAIを使っていれば、いつの間にか私たちはAIの言いなりになるかもしれません。
もちろん、「正しいAIの言いなりになって、何が悪いのか?」という問いはありえるし、それこそディベートの論題にしても面白いでしょう。ただ、その方向に突き進めば、自分で考えられる人間がいなくなるのは確実です。
自分で考えられる人間でありたい人は、AIを「正しいことを教えてくれる存在」として扱わない用途をひとつは持つべきだ、というのが私の意見です。ただ、そういう用途を見つけるのは難しい人もいるでしょう。誰でも取り組めるのがAIディベートなので、私としてはこれを強くオススメします。
自分の中でAIを神様にしないためにも、AIディベートに取り組むべき
なぜ最初から審判もすべきなのか
これが前回のエントリーで「最初から審判もやるべきだ」と主張した理由でもあります。
せっかくディベートをしたのに、肝心な「どちらが勝ったか(=正しかったか)」をAI任せにしていては、AIを神様扱いしているのと変わりません。あなたもAIと同じ土俵に立って、勝敗を判断しましょう。
もちろん、しばらくの間は「AIの判定が正しい」と認めるしかないことは事実です。あなたはおそらく、「根拠の妥当性」がどういうものかを理解していませんよね。それではディベートの審判はできません。ただ、それは後からどうにでもなることです。
本当に重要なのは、「正しさを決めるのはAIではなく、人間である私だ」という意識を持つことです。そのためにAIディベートをすると言っても過言ではありません。
あなたが勝ったか負けたかは、あなたが決めましょう。AIの意見を聞くのはそれからでも遅くありません。
以上、AIディベートで鍛えられるスキルを説明しました。次回は、ここまで考えた「AIディベートの進め方」を効率的に実践するための方法を紹介します。
なお、AI関連のエントリーは以下にまとめています。