
このエントリーでは、AIとディベートする方法を説明します(以下、「AIディベート」と表記)。ただ、目的は「ディベートがうまくなること」ではなく、「ディベートという行為を通じて、思考力や文章力を鍛えること」なので、その点は誤解しないでください。
私の知るかぎり、「一定量の文章を書き切る機会を創出し、思考力・文章力を鍛えられる」という点において、AIディベートは最高レベルに有意義なAIの使い方です。学生なら1000回は繰り返す意味があるし、社会人でも100回はやる意味があるでしょう。しかも、AIは無料プランで十分です。
ただ、内容的に重たいので、シリーズものとして3回に分けて説明します。このエントリーでは細かいことは抜きにして、「AIディベートを1回体験する」ことをゴールにしましょう。メリットや意義は、次エントリーで説明します。
このエントリーのゴール:AIディベートを体験する
なお、あなたは完全なディベート初心者であるという前提で話を進めます。ディベート経験者の方は、ルール説明などは読み飛ばしてください。
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ディベートとは
まず、ディベートのルールを簡単に説明します。
ディベートとは、ある論題に対して、肯定と否定に分かれてロジックを戦わせるゲームです。
押さえるべきポイントは以下の3点です。
- 「論題」とは
- 肯定と否定に分かれる(自分の本当の考え・意見は関係ない)
- 根拠の妥当性を競う
順に説明します。
ディベートのルール①:論題
まず、「論題」とはディベートにおいて肯定・否定の対象となる言説(命題)のことです。ただ、これだとちょっとわかりにくいので、当サイトでは「イエスかノーで答えられる疑問文(イエス・ノー疑問文)」だと定義します。
いくつか例を見てください。
- 学校は制服を義務化すべきか?
- 宿題は禁止すべきか?
- 学校でスマートフォンの使用を禁止すべきか?
どれもイエスかノーで答えられますよね。このようなものが論題です。
論題:ディベートにおいて肯定・否定の対象となる、ひとつのイエス・ノー疑問文
ディベートのルール②:肯定と否定に分かれる
今回は、以下の論題を扱うことにしましょう。
- 論題:学校は制服を義務化すべきか?
ディベートでは、肯定側(論題に「イエス」と答える)と否定側(論題に「ノー」と答える)に分かれてゲームを行います。この論題なら、両者はそれぞれ、以下の主張をしなければなりません。
- 肯定側の主張:学校は制服を義務化すべきである。
- 否定側の主張:学校は制服を義務化すべきではない。
言い換えると、あなたの主張は固定されるということです。あなたが何を主張するかは割り当てられたサイド(肯定 or 否定)から決まることで、あなたの本当の意見は関係ありません。慣れるまではここが難しいかもしれませんが、そういうものだと受け入れてください。
ディベートでは主張は割り当てられるもので、自分の本当の意見とは無関係
なお、「自分の本当の意見でディベートしたい」と思うかもしれませんが、AIディベートでは1回戦が終わった後に肯定と否定を入れ替えて2回戦を行います(そういう進め方にする)。あなたの本当の意見に沿うサイドも必ず担当できるので、ここは心配しないでください。
ディベートのルール③:根拠の妥当性を競う
とりあえず、あなたは肯定側だということにして話を進めましょう。状況は以下のとおりです。
- 論題:学校は制服を義務化すべきか?
- あなたの主張:学校は制服を義務化すべきである。
ここまでは、ディベートが始まった瞬間(=論題とサイドが決まったタイミング)に決まることです。特に大変なことはありません。
ここからが本番です。あなたは固定された主張に対して、その正しさを支える根拠を用意します。たとえば、以下のようなことですね。
- 学習への集中:毎日の服装に悩まなくてよくなる
- 学校は勉強をするところでオシャレをするところではないのだから、制服を義務化することで、生徒は本来すべきことに集中できる
- 家庭の経済的負担:家庭の経済的負担が減る
- 私服だと「毎日、同じ服装で学校に通う」ということは多くの生徒にとって現実的ではない
- 仮に週5日分のローテーションを季節ごとに用意すると考えると、それだけで家庭の経済的負担は大きい
これらは、「学校は制服を義務化すべきである」という主張の正しさを支えていますよね。以下のイメージがわかりやすいでしょう。

このスライドの詳しい説明は以下のエントリーで行っています。もし「主張」や「根拠」という言葉の理解が曖昧な人は、先に進む前に読んでおいてください。
この「主張」と「根拠」がセットで「ロジック」です。つまり、ディベートが始まると、あなたはロジックを構築します。
ロジックができたら、双方がそのロジックを発表し、審判がロジックの出来を評価します。ただ、主張はサイドによって固定されているので、実際に評価されるのは根拠だけですね。
評価の結果、ロジックの出来が優れている(=根拠の妥当性が高い)ほうが勝者となります。
ディベートでは、固定された主張の正しさを支える根拠を用意し、その妥当性を競う
なお、「根拠の妥当性ってどういうこと?」という疑問があるかもしれませんが、ここは長くなるので割愛します。というより、「根拠の妥当性を理解すること」がAIディベートのゴールのひとつなので、最初から説明することはできません。ご容赦ください。
また、実際には根拠の妥当性(=内容)だけでなく、「わかりやすさ」や「構成」といった「伝え方」も含めた、総合的な「説得力」が問われます。ただ、このあたりも最初からすべてを理解するには重たいので、当面は「ディベートでは根拠の妥当性を競う」と割り切って問題ありません。
ディベートの進め方
ディベートでは、「1回ロジックを発表すること」を「スピーチ」、「1試合で、それぞれのサイドが何回ずつロジックを発表するか」を「フォーマット」と呼びます。
今回は初めてなので、シンプルな「4スピーチ・フォーマット」で行いましょう。以下のとおりです。
- 肯定側立論(あなた):ゼロベースで、論題を肯定する主張・根拠を述べる
- 否定側立論(AI):ゼロベースで、論題を否定する主張・根拠を述べる
- 肯定側最終弁論(あなた):相手の立論に対して反論し、自説の正しさを強調する
- 否定側最終弁論(AI):相手の立論に対して反論し、自説の正しさを強調する
つまり、あなたは1試合で2回ロジックを組みます。これを覚えておいてください。
AIディベートに必要なもの
次に、AIディベートに必要なものを説明します。以下の3つを準備してください。
- ノートパソコンかデスクトップパソコン
- AI(Gemini)
- テキストを書くアプリ
順に説明します。
必要なもの①:ノートパソコンかデスクトップパソコン
まず、ノートパソコンかデスクトップパソコンが必要です。厳密には、以下の3点を満たすパソコン環境なら問題ありません。
- 最低でも10インチ程度はあるディスプレイ
- キーボード
- マウス
この3点が必要な理由は、AIディベートでは大量のテキストを書いて、編集するからです1。そのために最適な環境を用意しないと、ディベートに集中できないし、学習効果も下がります。
もしタブレットしか持っていないなら、それにキーボードとマウスを外付けすれば問題ありません。ちなみに、スマホでも技術的には不可能ではありませんが、学習効果が著しく下がるのでまったくオススメできません(ディスプレイが小さすぎる)。
必要なもの②:AI(Gemini)
次に、当然ですがAIを用意する必要があります。
AIディベート自体は「LLM」と呼ばれるタイプのAIならどれでも可能ですが、以下の理由により、ダントツにオススメなのはGeminiです。
- 無料プランに利用制限がない(低機能モデルになるだけ)
- 低機能モデルなことは、AIディベートではまったく問題ではない
- 人間のディベート相手としては、低機能モデルでも賢すぎるくらい
- 低機能モデルなことは、AIディベートではまったく問題ではない
- カスタム機能(Gems)が無料プランで使える
- カスタム機能を使うと、AIディベートが繰り返しやすくなる(次々エントリーで説明)
- このトレーニングはどんな人でも100回くらいはやる意味があるものなので、繰り返しやすさは重要
これ以降の説明・操作画面は、すべてGeminiに基づいています。ご了承ください。
なお、すでにGeminiを使っている方は、AIディベート専用の別Googleアカウントを作ってもよいかもしれません。AIディベートのスレッドを見返したいことはあまりないので、普段使いのアカウントとは分けたほうがスレッド履歴がスッキリします。
必要なもの③:テキストを書くアプリ
最後に、テキストを書くアプリを用意してください。
先述のとおり、AIディベートでは1試合に2回、ロジックを構築します。このとき、AIの画面は見ません。テキストを書くアプリに向かって、ひたすら自分で考えます。そのためのアプリを用意しましょう。
今回は初回なので、普段から触っているアプリ(Microsoft Wordや、メーラーの下書き画面など)を使えばよいでしょう。何も触っていないなら、Google Documentが無難です。
AIディベートのプロセス
準備ができたら、早速AIディベートを始めましょう。以下の3プロセスで進めます。
- ルールの共有と、論題の決定
- 1回戦(肯定側)
- 2回戦(否定側)
順に説明します。
AIディベートのプロセス①:ルールの共有と、論題の設定
まず、AIに以下の2点を伝えます。
- ディベート相手になってほしいこと
- どんなフォーマット・ルール・論題でディベートをするか
ここは悩む時間がもったいないので、とりあえず以下の文章をそのままコピペしてください。
ディベート相手になってください。私の目的は論理的思考力と文章力のトレーニングをすることで、具体的なリクエストは以下のとおりです。
- 4スピーチ・フォーマット(肯定側立論→否定側立論→肯定側最終弁論→否定側最終弁論)で行いましょう。私が肯定側です
- 私のターンとあなたのターンの文字数を、だいたい同じくらいに揃えてください
- 否定側最終弁論が終わるまで、あなたは私に対するフィードバックはせず、自分の立論・反論に集中してください
- 否定側最終弁論が終わったあと、まずは私が勝敗を自分で判定します
- 私が勝敗を判定したら、あなたも勝敗を判定してください。私の判定を考慮する必要はありません
- 勝敗の判定後、私に対するフィードバックをしてください
- 日本語としておかしい・わかりにくかったところ
- 論証が弱かったところ
- ディベートの作法としておかしかったところ
- フィードバックが終わったら、肯定と否定を入れ替えて2回戦をするか、私に確認してください
今回の論題は「学校は制服を義務化すべきか?」でお願いします。 初心者でも取り組みやすく、かつ、学習効果も高いルールと論題にしてあります。これでも十分にハードなので、初回はこれを使ってください。
AIディベートのプロセス②:1回戦(肯定側)
論題(学校は制服を義務化すべきか?)が設定できたので、1回戦のスタートです。今回は4スピーチ・フォーマットなので、以下の5プロセスで進めます。
- 肯定側立論(あなた)
- 否定側立論(AI)
- 肯定側最終弁論(あなた)
- 否定側最終弁論(AI)
- 勝敗の判定とフィードバック
あなたが何かをしなければならないのは、①、③、⑤です。
肯定側立論(①)
先述のとおり、自分のターンではロジックを構築します。AIから離れて、テキストアプリと向き合いましょう。
今回は初めてなので、以下のテンプレートを使ってください。
肯定側立論を始めます。
学校は制服を義務化すべきです。理由は主に2点あります。
第1に「【ここに1つ目のキーワードを書く】」です。
【キーワードを説明する。なぜそう言えるのか(理屈)を説明したあとで、具体例・体験談などを添えられるとベスト】
第2に「【ここに2つ目のキーワードを書く】」です。
【キーワードを説明する。なぜそう言えるのか(理屈)を説明したあとで、具体例・体験談などを添えられるとベスト】
以上の理由により、学校は制服を義務化すべきです。 根拠(文中では「理由」と表記)以外の形式的な部分は埋めておきました。これをテキストアプリにコピーして、角括弧(【】)で囲ってある部分を具体的な内容に書き換えてください。
今回の論題だと、根拠の材料になるのは先述の2つ(学習への集中、家庭の経済的負担)に加えて、以下のことがあるでしょう。
- 経済的格差の不可視化:制服からは家庭の経済状況がわからない
- 私服の場合、家庭の経済力が服装に反映される
- これは「家庭の経済的負担」とセットにする手もある
- 安全性:特定の学校の生徒であることを一目で判別できる
- 登下校時の安全確保や、校内への不審者侵入の防止に役立つ
- 帰属意識:学校への一体感・コミュニティ意識が高まる
全部で5つですが、これをすべて述べる必要はありません。今回は根拠として強そうだと感じるものを2つ選んで、テンプレートを埋めましょう。
今回は初めてなので、これ以上の説明はしません。以下の3点だけ意識して、気合いで書いてください。
- 自分の頭だけを使う(検索などをしない)
- 最低でも10分は頑張る(それ以降は、集中力が持たないと感じたら文章を仕上げてOK)
- ひとつの文章として完成させる
この3点が大事な理由は、次エントリーで説明します。とにかく、ベストを尽くしましょう。誰かに見られるわけではありません。
一応、以下に肯定側立論の完成例を掲載しておきます。どうしても筆が進まない人は参考にしてください。
肯定側立論を始めます。
学校は制服を義務化すべきです。理由は主に2点あります。
第1に「学業への集中」です。制服を着用することで、生活に「勉強モード」という心理的な切り替えが生まれます。ファッションという誘惑や雑音を排除することで、学校を「学びの場」として機能させることができます。
実際、私自身、私服で参加する夏期講習などで「周りの目が気になって服を何度も選び直す」という経験をしたことがあります。結局、家を出るのが遅れたり、授業中も自分の格好が気になって集中できなかったりしました。制服があれば、こうした無駄な迷いをゼロにして、最初から最後まで学業に専念できます。
第2に「経済的格差の不可視化」です。制服なら全員が同じ服装になるため、家庭の経済格差が表面化するのを防げます。
たとえば、私の友人に、家庭の事情で新しい服をなかなか買えない子がいました。私服でのイベント時には「いつも同じ服だ」と思われるのを恐れて欠席しがちでしたが、学校では経済的な引け目を感じることなく堂々と学校生活を送れていました。制服は、すべての生徒に「平等の安心感」を与えるセーフティネットなのです。
以上の理由により、学校は制服を義務化すべきです。
立論が完成したら、チャットボックスにコピペしてAIに送りましょう。即座に、AIから否定側立論が返ってきます。最初は「こっちがやっとの思いで仕上げたのに、即レスですか」とうんざりするかもしれませんが、これはもう受け入れるしかありません。
肯定側最終弁論(③)
気を取り直して、肯定側最終弁論に取り組みましょう。基本的に「相手の立論に反論する」ということ以外は先ほどと大きく変わりません。唯一、最終弁論では、立論で述べていない新しい根拠を加えてはいけないという点は注意が必要です(相手が反論する機会がないから)。これは「ニュー・マター」と呼ばれるディベートのルールなので、しっかり覚えてください。
今度は、以下のテンプレートを使ってください。
肯定側最終弁論を始めます。
まず、否定側は【否定側の根拠】と述べました。
しかし、これは以下の問題点があります。
【相手の根拠の問題点を指摘する(例:実現性が低い、影響が小さい、他の解決策がある、など)】
一方で、肯定側の主張である【肯定側立論で使ったキーワード】は重要です。
なぜなら【理由:否定側と比較しながら、肯定側の優位性を述べる。肯定側立論で述べていない新しい要素を述べることは禁止】だからです。
以上により、学校は制服を義務化すべきです。 こちらも、以下に完成例を掲載しておきます(AIは「個人の自由」と「多様性の尊重」で立論してきたと想定)。筆が進まない人は参考にしてください。
肯定側最終弁論を始めます。
まず、否定側は「個人の自由と多様性を尊重すべきだ」と述べました。しかし、これには以下の問題点があります。
「自由」は学校の外(放課後や休日)でも十分に発揮できるものであり、学校教育の場において最優先されるべきものではありません。また、否定側が懸念する多様性(性自認や身体的特性)については、近年「女子のスラックス選択制」など、制服の枠組みを維持したまま柔軟に対応する解決策が広がっています。制服を完全に廃止しなくても、多様性を守る方法は他に存在するのです。
一方で、肯定側の主張である「学業への集中」と「経済的負担の軽減」は重要です。
なぜなら、否定側の言う「ファッションの自由」よりも、家庭の経済状況に関わらず全員が「平等のスタートライン」に立てる安心感のほうが、教育現場では圧倒的に価値が高いからです。服装による格差やノイズを放置したままでは、一部の生徒の自由は守られても、多くの子どもたちが「学びの平等」を享受できなくなります。立論で述べた通り、格差を不可視化し、全員を学業に集中させる基盤を作ることこそが、学校の真の役割です。
以上により、学校は制服を義務化すべきです。
肯定側最終弁論を送ると、また即座に否定側最終弁論が返ってきます。これで双方のスピーチはすべて終わりました。
自分で勝敗の判定をする(⑤)
最後に、自分で勝敗を判定しましょう。今回は、あなたとAIのロジックを見比べて、「どっちが正しそうか」をなんとなく判断するだけで十分です。その後でAIも判定してくれるので、それと比較してみてください。
「いや、そもそもディベートが初めてなのに、審判なんてできるわけがない」というツッコミはもっともです。それでも、初回から審判もやるべきだというのが私の意見です。理由は次エントリーで説明するので、とにかく自分で判定をしてください。
判定をしたら、AIが判定とフィードバックをくれます。しっかり読んで、次回の対戦に活かしましょう。これで1回戦は終了です。
AIディベートのプロセス③:2回戦(否定側)
1回戦が終わったら、肯定と否定を入れ替えて2回戦をします。以下の文を送ってください。
2回戦をお願いします。同じ論題で、肯定側と否定側を入れ替えましょう。 ちなみに、1回戦だけでかなり頭が疲れるはずです(私は疲れました)。無理に2回戦を始める必要はないので、1回戦でおしまいにして「2回戦は翌日」という運用でもまったく問題ありません。
詳しくは次エントリーで説明しますが、AIディベートのメリットは、どれもAIディベートを繰り返さないと享受できません。重要なのは一気に多くをこなすことではなく、継続することです。
以上、AIディベートのやり方を説明しました。次は、AIディベートで鍛えられるスキルを説明します。
なお、AI関連のエントリーは以下にまとめています。
Footnotes
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なお、大前提として、あなたはブラインドタッチができるとします。もしできないなら、AIディベートより先にブラインドタッチに取り組みましょう。すべての基本です。ただ、AIディベートを繰り返すことでタイピング能力も上がるので、本当に最低限のブラインドタッチだけ習得したら、AIディベートを始めて大丈夫です。 ↩