
このエントリーでは、AIディベート用のテキストアプリについて説明します。シリーズものなので、以下のエントリーから順に読んでください。
上記のエントリーでは、簡単に済ませるため「とりあえずWordかGoogle Documentを使えばいい」という話にしました。ただ、AIディベートを何度も繰り返すことを見据えると、2試合目以降は別の選択肢も検討すべきです。ここを説明させてください。
toc
テキストアプリの全体像
まず、テキストアプリ(テキストを中心に扱うアプリ)は、ざっくり以下の3種に大別できます。
- 文書アプリ
- テキストエディター
- マークダウンエディター
それぞれの特徴を、以下の表にまとめました。
| 文書アプリ | テキストエディター | マークダウンエディター | |
|---|---|---|---|
| 代表例 | ・Word ・Google Document | ・VS code ・メモ帳(Notepad) | ・Obsidian ・Typora |
| 何を作るか | テキストの成果物 | ソースコード(エンジニア向け) | テキストの中間成果物 |
| 印刷 | 対応 | 非対応 | |
| 拡張子 | ・docxなど | ・txt、phpなど | ・md |
結論を先に述べると、ひとりでAIディベートをするなら、文書アプリではなくマークダウンエディターを使うべきです。
以下、各アプリを概観しつつ、そうなる理由を説明します。
テキストアプリ①:文書アプリ
まず、Word、Google Documentに代表される文書アプリがあります。これに関しては説明は不要でしょう。
ほとんどの人が最初に触るテキストアプリがこれなので、おそらく「テキストアプリ=文書アプリ」という認識の人が多いのではないでしょうか。この認識を改めてもらうことがこのエントリーの目的です。
文書アプリの問題点
その名から明らかなとおり、文書アプリは「成果物としての文書」を作成しきること、特に、紙に印刷することまでが視野に入ります。よって、印刷や書式(タイポグラフィ)に関する多様な機能が搭載されているし、アプリ内のテキストデータはその情報を含みます。
この結果として、文書アプリはAIディベートとの相性がよくありません。以下の表を見てください。
| AIディベートで必要なこと | 文書アプリ | |
|---|---|---|
| アプリの挙動 | 軽くて、過去のロジックやテンプレートを簡単に参照できること | ×:重く、ひとつひとつのファイルが独立している |
| UI | スッキリしているほどよい(書くことに集中したいから) | ×:ゴチャゴチャしている |
| 他アプリへのコピペ | 表示が崩れないことが必須(何度もAIにコピペするから) | ×:表示が崩れる(テキストが書式情報を含むから) |
このように、文書アプリはAIディベートでテキストアプリに求められることと真逆を行っています。相性は最悪と言えるでしょう。
文書アプリの強み
ただ、文書アプリも悪いことばかりではありません。以下の2点は文書アプリの明確な強みです。
- パソコンを持っている人ならほぼインストールしているし、使い方を知っている(と想定して問題ない)
- 共有や添削に関する機能が充実している
この強みは後述するアプリでは期待できないので、他者(例:国語の先生)に自分のロジックをチェックもらう・提出する必要があるなら、文書アプリを使うしかないでしょう。
ロジックを共有したり、添削してもらうなら、文書アプリは有力な選択肢
逆に言うと、ひとりでAIディベートをする分には、これらの強みはどうでもいいことです。ということで、もっと使い勝手のいいアプリを探しましょう。
テキストアプリ②:テキストエディター
では、文書アプリ以外にどんなテキストアプリがあるかというと、それはテキストエディターです。これはその名のとおり「テキストを編集する」ためのアプリで、以下の2つはOSにデフォルトでインストールされています。
- Windows:メモ帳(Notepad)
- Mac:テキストエディット
あなたも、一度くらいはこれらのアプリでtxtファイルを開いたことがあるでしょう。
ただ、この2つはあまりにシンプルで、何かの用途のために普段使いするということはありません。一般に使われているのは、エンジニアがソースコード(プログラム)を書くためのテキストエディターです。代表例は以下のものがあります。
- VS code
- Cursor
- Vim
ソースコードというのは1文字違うだけでもバグで動かなくなるので、「入力した文字を、そのまま表示する」ことが絶対条件になります。これらのアプリはそれをうまくやってくれます。
ほかにもさまざまな「ソースコードを書くための便利な機能」がありますが、それらはどれもAIディベートには関係ないので、ここでの説明は割愛します。
テキストエディターの強み
テキストエディターは文書アプリと違い、テキストデータに書式などの情報が含まれません。よって、テキストを他アプリにコピペしても表示が崩れません。AIディベートという観点では、これが最大のメリットです。
文書アプリから他アプリにテキストをコピーして、文字化けしたり、異常に改行が含まれたりした経験は誰にでもあるでしょう。テキストエディターを使えば、あの煩わしさから解放されます。この一点だけでも、文書アプリから卒業する理由として十分でしょう。
ただ、エンジニア向けのテキストエディターは本質としてソースコードを書くことに特化していることもあり、AIディベート用途で使うには機能過多でUIがゴチャゴチャしがちです。ということで、次のアプリに進みましょう。
テキストアプリ③:マークダウンエディター
最後に、マークダウンエディターがあります。これは「マークダウン記法」で書かれたテキストを見やすく表示してくれるアプリです1。ざっくり、「非エンジニアにも使いやすいテキストエディター」と考えてもいいでしょう。
マークダウン記法とは
マークダウン記法とは、文章の構造(見出し・箇条書き・強調など)をシンプルな記号で表現する記述ルールです。
もともとは「エンジニアが、(プログラミング言語ではない)普通の言葉で、説明書などを書くときに使う表現方法」だったものですが、最近では用途が広がり、Webサイトの原稿や、カスタムAIのプロンプトなどでも使われています(このエントリーもマークダウン記法で書いています)。
とりあえず、以下の2つはカスタムAIのプロンプト(前回のエントリーで紹介)を書くときにも使うので、覚えておくとよいでしょう。
- 見出し:「#」+ 半角スペース
- #の数が多いほど、見出しのレベルが下がる
- 箇条書き:「-」+ 半角スペース
- Tabキーなどで字下げ(インデント)することで階層構造も作れる
もっと詳しく知りたい場合は、AIに聞いてください。
マークダウンエディターの強み
実は、マークダウン記法を扱えることはAIディベートとは関係ありません。ロジックは普通の文章として書きますからね。単純に、アプリの仕様がAIディベートにピッタリなのです。以下の表を見てください。
| AIディベートで必要なこと | マークダウンエディター | |
|---|---|---|
| アプリの挙動 | 軽くて、過去のロジックやテンプレートを簡単に参照できること | ◯:軽く、ツリーから複数のファイルに簡単にアクセスできる |
| UI | スッキリしているほどよい(書くことに集中したいから) | ◯:スッキリしている |
| 他アプリへのコピペ | 表示が崩れないことが必須(何度もAIにコピペするから) | ◯:表示が崩れない |
このように、文書アプリではすべて「×」だったことが、すべて「◯」になります。
印刷・共有・添削あたりを必要としないなら、非エンジニアの人にとっても、マークダウンエディターのほうがテキストアプリとしてはるかに優れています。これは使えばわかることなので、とにかく、後述するアプリを一度は触ってみてください。
具体的なアプリ
具体的に、どんなマークダウンエディターがあるのでしょう? 私が触っているのは以下の3つです。
- 無料
- Obsidian:「知識・メモの有機的管理」という文脈で語られることが多いツールだが、無料のマークダウンエディターとしても普通に使える。ファイル名を変えやすいのもありがたい
- 有料
無料なので、まずはObsidianを触ればよいでしょう。不満点があったり、ほかのも試したくなったらTyporaやiA Writerを触ってみてください(どちらも体験版があります)。
マークダウンエディターのセットアップ
マークダウンエディターをインストールしたら、以下の2つを行っておきましょう。これでAIディベートを効率化できます。
- 設定を変更する
- 繰り返し用テンプレートを保存する
順に説明します。
オススメの設定
まず、使いやすくする設定をしましょう。以下はObisidianでの操作です。
- フォントサイズを好みの大きさに調整:「設定」→「外観」→「フォントサイズ」
- ファイルコピーのショートカットキーを登録:「設定」→「ホットキー」→「現在のファイルの複製を作成」→「+」→ 好みのキーを入力
ほかにも、変えたいところがあれば変えてください。
繰り返し用テンプレートを保存する
次に、繰り返し用のテンプレートを保存します。以下のように使ってください。
- 論題が決まったらテンプレートファイルをコピー(ここで登録したショートカットを使う)
- ファイル名を「論題の短縮系:サイド」の形に変更(例:「制服の義務化:肯定側」)
- AIが提案した柱をファイルのどこかにコピーして、それを見ながらテンプレートを埋める
以下、コピペ用の文章です。
<肯定側立論>
肯定側立論を始めます。
【論題を肯定】です。理由は主に2点あります。
第1に「【ここに1つ目のキーワードを書く】」です。
【キーワードを説明する。なぜそう言えるのか(理屈)を説明したあとで、具体例・体験談などを添えられるとベスト】
第2に「【ここに2つ目のキーワードを書く】」です。
【キーワードを説明する。なぜそう言えるのか(理屈)を説明したあとで、具体例・体験談などを添えられるとベスト】
以上の理由により、【論題を肯定】です。
<肯定側最終弁論>
肯定側最終弁論を始めます。
まず、否定側は【否定側の根拠】と述べました。
しかし、これは以下の問題点があります。
【相手の根拠の問題点を指摘する(例:実現性が低い、影響が小さい、他の解決策がある、など)】
一方で、肯定側の主張である【肯定側立論で使ったキーワード】は重要です。
なぜなら【理由:否定側と比較しながら、肯定側の優位性を述べる。肯定側立論で述べていない新しい要素を述べることは禁止】だからです。
以上により、【論題を肯定】です。 <否定側立論>
否定側立論を始めます。
【論題を否定】です。理由は主に2点あります。
第1に「【ここに1つ目のキーワードを書く】」です。
【キーワードを説明する。なぜそう言えるのか(理屈)を説明したあとで、具体例・体験談などを添えられるとベスト】
第2に「【ここに2つ目のキーワードを書く】」です。
【キーワードを説明する。なぜそう言えるのか(理屈)を説明したあとで、具体例・体験談などを添えられるとベスト】
以上の理由により、【論題を否定】です。
<否定側最終弁論>
否定側最終弁論を始めます。
まず、肯定側は【肯定側の根拠】と述べました。
しかし、これは以下の問題点があります。
【相手の根拠の問題点を指摘する(例:実現性が低い、影響が小さい、他の解決策がある、など)】
一方で、否定側の主張である【否定側立論で使ったキーワード】は重要です。
なぜなら【理由:肯定側と比較しながら、否定側の優位性を述べる。否定側立論で述べていない新しい要素を述べることは禁止】だからです。
以上により、【論題を否定】です。 慣れてきたら、テンプレートに頼らず、一から自分で書くのもオススメです。
以上、AIディベート用のテキストアプリについて考えてみました。次回は、ディベートと実社会における意思決定の違いについて説明します。
なお、AI関連のエントリーは以下にまとめています。
Footnotes
-
マークダウンエディターは厳密にはテキストエディターの一種ですが、当エントリーでわかりやすさのため別物としています。 ↩