このエントリーから、論点の分解について学びましょう。
論点の分解は、ロジカルシンキングの中核をなすスキルです。狭義のロジカルシンキングとは、このスキルのことだと言っても過言ではありません(当サイトはもう少し広義にロジカルシンキングを捉えていますが)。
このエントリーではまず、論点を分解するとはどういうことか、それが「正しい」とはどういうことなのかを解説します。
では始めましょう。
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「論点を分解する」とは
ロジカルシンキングの第2プロセスは、論点を分解することです。
第1プロセスで設定する論点は、そのままでは(概念として)大きすぎて、直接的に答えが出せないことがほとんどです。そこで、論点を扱いやすいレベルまで小さくします。これが論点を「分解する」という操作です。
このあたりの全体像は、別エントリーで詳しく解説しています。上記の説明だけで分からなかった人は、以下を読んでから先に進んでください。
このプロセスの成果物とゴール
このプロセスの成果物は、論点の構造(分解された問いの集合)です。例として、「1年後にTOEFLで100点をとるために、どのように勉強すればよいか?」が論点であるときの論点の構造を見てください。
- 1年後にTOEFLで100点をとるために、どのように勉強すればよいか?
- 毎日、何時間勉強する必要がありそうか?
- 4科目(Reading, Writing, Listening, Speaking)のそれぞれで、何点を狙うか?
- 4科目の、現在の自分の実力は何点か?
- 差分を埋めるために、どれくらいの勉強が必要だと考えられるか?
- 必要な学習時間をどのように確保するか?
- いつ、どこで勉強するか?
- どの科目から勉強するか?
- 4科目を平等に着手すべきなのか、優先すべき科目があるのか?
- それぞれの科目を、どのように勉強するか?
- 使うべき教材は?
- 有効な学習方法は?
- 進捗(ゴールに近づいているか)をどのように管理するか?
- TOEFLをどれくらいのペースで受験するか?
- ほかに、コストのかからない進捗管理方法はないか?
- 毎日、何時間勉強する必要がありそうか?
最上位の論点(大論点)が、より小さな、扱いやすい問いの集合になっていることを確認してください。これを「クエスチョン・ツリー」と呼んでもいいでしょう。このようなものを作れた時点で、このプロセスは終了です。
ただし、当然ですがこの分解が正しい必要があります。つまり、このプロセスのゴールは、論点の分解を正しく行うことです。分解が「正しい」とはどういうことかは後述するので、とりあえずここがゴールであることを押さえてください。
論点を分解するプロセスのゴール:論点を正しく分解する
論点の分解が「正しい」とは
本題に入りましょう。どのような論点の分解が「正しい」のでしょう?
先に結論を見てください。以下のスライドにまとめました。
このように、問題解決につながる分解が、正しい論点の分解です。
キーポイントは以下のとおりです。
- 問題解決につながる分解が、正しい論点の分解である
- 分解が網羅的(MECE)であることはあくまで前提条件で、網羅的な分解が正しい分解なわけではない
- 分解が問題解決につながるためには、分解した論点が以下の性質を持っている必要がある
- 分解した論点に答えが出せる
- 答えから具体的な解決策を考えられる
ここから順に説明しますが、もし「問題解決」という言葉になじみがない場合は、先に以下のエントリーを読んでください。問題解決とロジカルシンキングの関係について解説しています。
正しい論点の分解の条件①:網羅的(MECE)である
正しい論点の分解の1つめの条件は、網羅的(MECE)であることです。分解が網羅的でないと、根拠が網羅的でなくなり、結果として根拠が妥当性を欠く(=主張が正しくない)からです。
これに関しては以下のエントリーで解説済みなので、ここでの説明は割愛します。
上記のエントリーでは概念(名詞)を分解したので、論点(疑問文)を分解するケースも確認しておきましょう。たとえば、「日本の売上はいくらか?」という論点は、以下のように分解すると網羅的です。
- 日本の売上はいくらか?
- 北海道の売上はいくらか?
- 本州の売上はいくらか?
- 四国の売上はいくらか?
- 九州の売上はいくらか?
- 沖縄の売上はいくらか?
このように、まずは分解の網羅性を担保する必要があります。
網羅性は十分条件ではない
覚えてほしいのは、むしろ逆のことです。網羅的に論点を分解したからといって、それが正しい分解だとは限りません。たとえ分解が網羅的であっても、それが「問題解決につながる」という条件を満たせないなら意味はありません。
言い換えると、分解が網羅的であることは分解が正しいことの必要条件(前提条件)であって、十分条件ではありません。
これまでロジカルシンキングを教える中で、「網羅的に分解すること」が目的化してしまい、どう見ても筋が悪い(=問題が解決しそうもない)網羅的な分解を繰り返す人を何人か見ました。
これはおそらく、一般的なロジカルシンキング本では、とにかく「MECEであれ」ということが強調されるからでしょう。MECEが至上の目的であると誤解しているのです。
詳しくは後述しますが、論点を分解する際にもっとも気にすべきなのは「その分解で、問題が解決するか」であって、「その分解が網羅的(MECE)か」ではありません。
たしかに、分解は網羅的(MECE)であるべきです。しかし、ここに囚われて間違った分解を繰り返すようでは本末転倒です。さらに言うと、何が網羅的かは主観的に決まることであり、完璧な網羅性を目指すのは現実的ではありません。別コンテンツでロジカルシンキングを勉強したことがある人は、あまり「MECE」という言葉に引っ張られないようにしてください。
網羅的に分解できれば正しい分解になるわけではない
正しい論点の分解の条件②:問題解決につながる
ということで、こちらが本題です。正しい論点の分解は、問題解決につながります。
問題解決とロジカルシンキング
論点は、問題解決につながるように分解します。なぜ、こんな条件を満たす必要があるのでしょう?
答えを先に述べると、ほとんどの場合、ロジカルシンキングを使って考える理由は、問題解決をすることだからです。よって、ロジカルシンキングの一部である「論点を分解する」ということも、問題解決につながる必要があります。
具体的に説明しましょう。まず、以下の2つの論点を比較してください。
- 縄文時代の日本人の平均寿命はどれくらいか?
- なぜ売上が減っているのか?
この2つの論点では、考える目的が決定的に違います。
①の論点を考える目的は、「正しい答えが知りたい」ということに尽きます。この論点に対する答えが、私たちの知的好奇心以外の何かに影響を与えることは考えにくいですよね。ちなみに、検索すると「15歳前後」という情報が見つかります(真偽のほどは不明)。意外に短いですね。
では、②の論点を考える目的はどうでしょうか。これも、浅いレベルでは「正しい答えが知りたい」となります。しかし、この論点を考える真の目的は「売上を回復させる」ことですよね。
つまり、②のケースでは、正しい答えを見つけるだけでは足りません。答えをもとに行動を変え、現状(この場合は売上)を変える必要があります。そして、実際に現状が良い方向に変化した(売上が回復した)場合、それを「問題解決した」と呼ぶのです。
要するに、②のような論点を考えるケースでは、「正しい答えを見つける」という、ロジカルシンキングの目的を達成するだけでは足りないのです。ロジカルシンキングを行った結果が、問題解決につながらなければ意味はありません。言い換えると、ロジカルシンキングは問題解決のための手段でしかないということです。
そして、一部の研究者の世界に属していないかぎり、①のような論点を真剣に考えることはありません。よって、ロジカルシンキングを使うケースの大半で、問題解決につながるように論点を分解しなければならないのです。
ロジカルシンキングは問題解決のための手段なので、ロジカルシンキングによって出した答えが問題解決に貢献する必要がある
問題解決につながる分解とは
どのように論点を分解すれば、問題解決につながるのでしょう?
これは「網羅的ではあるが、問題解決につながらない分解」を見ると分かりやすいです。例として、以下の状況を考えてみましょう。
- 論点:なぜ売上が減っているのか?
- 補足情報:この会社が扱っている商品は戸建て住宅(つまり、価格が1000万円を超える高額商品)である
このとき、論点を以下のように分解したとします。はたしてこの分解は正しいでしょうか?
- なぜ売上が減っているのか?
- 午前の売上が減っているのか? だとしたらそれはなぜか?
- 午後の売上が減っているのか? だとしたらそれはなぜか?
売上を午前と午後に分解することには、漏れもダブりもありません。つまり、この分解は網羅的です。しかし、この分解は正しくありません。このように論点を分解しても、問題解決につながらないのです。
この分解がダメな理由①:検証できない
まず、分解した論点を検証できません。「何時に売上が立ったか」というデータがなければこの論点は検証できませんが、そんなデータはPOS(何がいつ売れたかを管理するシステム)が管理された小売業(例:コンビニ)でもないかぎり存在しません。住宅のように契約書を交わして購入する商品では、取れるデータは日付までが限度でしょう。データがなければ、論点は検証できません。
この分解がダメな理由②:検証する意味がない
さらに、分解した論点を検証する意味がありません。百歩譲って、商談成立時刻のデータがあったとしましょう。契約書にサインした時刻を書く部分があったのです(私はそんな契約書を見たことはありませんが)。
しかし、このデータを分析にかけたとしても、価値のある示唆が出せません。
住宅のような高額商品を買うかを決めるのは、時間のかかるプロセスです。コンビニのお菓子のように「あ、買おう」と思って買えるものではありませんよね。となると、顧客が契約書にサインをした時間には、特に意味がありません。
売上が減っているのが事実である以上、分析すれば、午前か午後のどちらかの売上が減っているという結果が出るでしょう。しかし、そこから「なぜ午前(午後)の売上が減ったのか」といったことを考えても、意味のある示唆は出ません。
契約書にサインするタイミングでは、顧客はすでに「買う」と決めているわけです。私たちが知りたい「なぜ、私たちから買わなくなったのか」、「どうしたら、また私たちから買ってくれるのか」といった情報は、そこには含まれていません。
この分解がダメな理由③:解決策がない
トドメに、何か示唆が出たとしても、解決策がありません。仮に、百万歩ほど譲って、「かくかくしかじか、こういう理由で午後に商談をセットすると失敗しやすくなっている。午前に商談をセットして、そこで契約書をサインさせるべき」という示唆が出たとしましょう。しかし、この解決策は実現性がありません。商談は買い手の都合のいい時間に合わせて設定するものだからです。
問題を解決するためには、「誰が、何を、いつ、どこで、どのように、どれくらいやるのか」を具体的に記述した解決策が必要です。そして、その解決策がやりきれるものである必要もあります。この2つの条件を満たせない解決策は、結局は実行されないか、実行されても長続きしません。
結局、戸建て住宅のケースでは、「なぜ売上が減っているのか?」という論点を時間で分解しても、問題解決にはつながりませんでした。分解した論点を検証できず、検証できたとしても意味がなく、意味があったとしても解決策が出せないからです。
つまり、この分解は網羅的ではあっても、正しくはなかったということです。
問題解決につながる分解の条件:まとめ
ここまでの話をひっくり返すと、問題解決につながる論点の分解の条件が見えてきます。
- 分解した論点に答えが出せる
- リサーチ(観察やデータ分析)による検証が可能である
- 答えをもとに、具体的な解決策を考えられる
ただし、現実問題として、分解した論点がすべて上記の条件を満たすように分解できることはまずありません。分解した論点のどれか1つでも上記の条件を満たしているなら、その分解は正しいと考えていいでしょう。これが、「問題解決につながる」ということの具体的な意味です。もう一度スライドを確認してください。
ちなみに、ある分解が問題解決につながるかは、事前には分からないことも多いです。先ほどは間違っていることが明らかな例を使いましたが、実際には「イケる」と思った論点の分解が機能しないことはよくあります。データが見つからないことや、分析をかけてもつまらない結果しか出ないことは珍しくないので、そんなにガッカリしないでくださいね。
つまり、論点の分解が正しかったかは、事後的にしか分かりません。分解して、検証作業をして、やっとこさアタリかハズレか分かるのです。もちろん、事前にアタリの確率が高そうな分解を見極める目を持つことは重要ですが、あまり分解に悩んだり、時間をかけたりするくらいなら、さっさと検証作業をしたほうがいいでしょう。特に、初心者のうちはそうです。数パターン網羅的に分解して、順番にトライするしかありません。
以上、論点の分解について説明しました。最後に宣伝ですが、このエントリーで述べたことを手を動かしながら学びたい場合は、以下の動画セミナーをご覧ください。
では、次回からは具体的な論点の分解方法を学んでいきましょう。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。