このエントリーでは、使えないフレームワークの見分け方を説明します。世の中には使い物にならないフレームワークが多く存在するので、どのフレームワークを使うべきかを自分で判断できるようになりましょう。
なお、このエントリーでは「フレームワーク」という言葉そのものに関しては解説しません。そのあたりの理解が曖昧な人は、以下のエントリーを先に読んでください。
では始めましょう。
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偽フレームワーク
知ってのとおり、「フレームワーク」という言葉は世の中に溢れています。横文字で、なんとなく必殺技のような雰囲気も漂うせいでしょうか。
そのせいで、世の中には一見すごそうに見えて、実のところ何の役にも立たない「フレームワーク」と呼ばれるモノが多数存在します。それらを「偽フレームワーク」と呼ぶことにしましょう。
偽フレームワーク:世間で「フレームワーク」と呼ばれる、役に立たないモノ
偽フレームワークの特徴を、以下のスライドにまとめました。
このように、偽フレームワークには以下の特徴があります。
- 大論点(上位の論点)が分からない
- そもそも、網羅的ではない
順に説明します。
偽フレームワークの特徴①:大論点(上位の論点)が分からない
偽フレームワークの第1の特徴は、「大論点が分からない」ことです。それっぽく整理された3〜4つの分類(もっと多いこともある)だけが紹介されるのですが、それがどんな問いに答えるためのものなのかが分からないのです。
フレームワークとはあくまで論点を分解する方法の一種であり、論点を分解する目的は上位の論点に答えを出すことです。つまり、大論点が分からないフレームワークは使いようがありません。これは偽フレームワークの典型的な特徴です。
偽フレームワークの例①:3C
具体例で説明しましょう。大論点がない偽フレームワークの代表例が「3C」です。
3CとはCompany, Competitor, Customer(自社、競合、顧客)の3つを合わせたもので、市場を見るフレームワークだと言われています。「フレームワーク」や「マーケティング」と名のつく本ならまず間違いなく登場するので、あなたも聞いたことがあるかもしれません。
箇条書きで表現すると、以下のようになります。
- 市場
- 自社
- 競合
- 顧客
3Cはまったく使いものになりません。3Cでなんらかの市場を分析しても、気の利いたメッセージは出ないのです。メッセージが出ないということは、そのフレームワークは役に立たないということです。「3C」という言葉自体はビジネスパーソンの常識になっているため、知っておいて損はないでしょう。しかし、絶対に実務で使うべきではありません。
3Cの致命的な欠点は、「これに答えを出したい」という具体的な疑問文がないことです。先述のとおり、大論点がないのです。
たしかに、市場は自社と競合と顧客で構成されており、これには漏れもダブりもありません。つまり、3Cは市場を網羅的に分解しています(「市場」という言葉をどう定義するかにもよりますが1)。
そして、それだけです。3Cにはそこから先が何もありません。「市場」というのは単なる名詞で、概念です。「自社・競合・顧客」という3つの要素を見ると、市場に関するどんな疑問文に答えられるのか? その視点を3Cは提供しないのです。
言い換えると、3Cは論点の構造(疑問文の形での分解)に書き直せません。なお、前エントリーで学んだとおり、「論点の構造」とは以下のようなものです。
- なぜXXで成果が出ないのか?
- 努力は足りているか?
- 才能は足りているか?
- 運は足りているか?
3Cを論点の構造にできるか?
実際に、3Cを論点の構造に書き直せるか、やってみてください。
「3C」を論点の構造に書き直しなさい。
どうでしょう。大論点に「市場はどうなっているか?」のような、曖昧な疑問文しか書けないはずです。小論点(下位の論点)に関しても同じでしょう。
逆に、大論点に「この市場に参入するべきか?」といった具体的な疑問文を設定した場合、今度はこの疑問文に答えるために「自社・競合・顧客」の3つに分解することの妥当性がありません。この大論点なら、以下のように分解するほうが答えを出せます。
- この市場に参入するべきか?
- 市場性:この市場が提供している価値に対するニーズは、中長期的にどのように変化するか?
- 勝ち目:我々はこの市場で勝ち目があるか?
- 意欲:我々はこの市場に参入したいか?
ニーズがこれからもありそうなビジネスで、勝ち目があり、やりたいことなら、やったほうがいいでしょう。これは個人のキャリアでも同じことが言えます2。
まとめると、ある名詞を綺麗に分解しているだけで、そこから具体的な疑問文のセットが出せないなら、それは偽フレームワークです。引っかからないように注意してください。
フレームワークの判定法①
ここまでの話をひっくり返すと、フレームワークの真偽を見極める方法が見えてきます。
ある「フレームワーク」と呼ばれるモノが本物かどうかは、論点の構造に書き直せるかで判断できます。
フレームワークも偽フレームワークも、名詞だけで表現されます。そうでないとキャッチーにならないからです。私も前エントリーで、「成果 = 努力 ✕ 才能 ✕ 運」、「努力 = 質 ✕ 量」と、名詞を使ってフレームワークを表現しました。
しかし、使えるフレームワークは必ず論点の構造に書き直せます。問題解決とは結局のところ、問い(疑問文)に答えて行動することです。疑問文を分解できないフレームワークに使い道はありません。
フレームワークの判定法①:論点の構造に書き直せるかをチェックする
繰り返しになりますが、大論点が何なのかを意識してください。世の中に出回っている「フレームワーク」の大半には、これが明示されていません。分解した結果だけが示されています。
これでは、結局のところ何を考えるために使うフレームワークなのか分からないままで、「そのフレームワークを知っているけど、使ったことはない」ということになりがちです。新しいフレームワークに出会ったら、まずは論点の構造を書きましょう。
偽フレームワークの特徴②:網羅性がない
偽フレームワークの第2の特徴は、「そもそも網羅的でない」ことです。なんらかの分類がさも網羅的であるかのように紹介されるのですが、よく考えてみると網羅的ではないのです。
ほとんどの人にとって、フレームワークの仕入先はビジネス書や社員研修などの、「権威を伴うもの」になるはずです。まさか、そのような権威が網羅的ではないフレームワークを紹介してくるとは、普通は思いませんよね。そのせいで、使いものにならないフレームワークを仕入れてしまいがちです。注意してください。
偽フレームワークの例②:マイケル・ポーターの3つの競争戦略
網羅的でないフレームワークの代表例は「マイケル・ポーターの3つの競争戦略」です。ちょっと古い例ですが、紹介させてください。
これは企業のとりうる戦略を3つに大別したもので、以下の3つがその戦略です。
- コスト・リーダーシップ戦略(他社よりも安く売る)
- 差別化戦略(他社が出せない価値を出す)
- 集中戦略(資源を投下する領域を絞り込む)
ここではこれ以上の説明は割愛しますが、詳しく知りたい人は「マイケル・ポーター 競争戦略」あたりで検索してください。解説したサイトがいくらでも見つかります。ただし、後述するとおりこのフレームワークは間違っているので、覚える意味はありません。
ポーターの3つの戦略は網羅的か?
では、このフレームワークの問題点を具体的に説明します。
ポーターはビジネスパーソンのバイブルとすら言われる『競争の戦略』において、以下のように述べています。
要するに、ポーターは「この3つの戦略は網羅的で、フレームワークとして機能する」と言っています3。「他社に打ち勝つにはどうすればよいか?」という問いの答えは、上記の3つしかなく、どれか1つしか選べないということです。はたして本当でしょうか?
結論を先に述べると、そんなことはありません。残念ながら、ビジネスパーソンのバイブルには偽フレームワークが載っています。
具体的に説明しましょう。
まず、どんな市場でも、①コストで優位に立つか、②差別化ができなければ、そこで優位に立つことはできません。これは逆から考えれば明らかでしょう。あなたは、商品価値、プロモーション(ブランドを含む)、買いやすさのすべての点が優れておらず、かつ価格が高い商品を買いたいと思いますか? ありえませんよね。
ところが、ポーターの戦略には3つめのオプションが存在します。集中、つまり、③対象とする市場セグメントを絞り込むと、市場で優位に立てるとポーターは言います。
ということは、③対象とする市場セグメントを絞り込むと、①コスト優位か、②差別化のどちらか(または両方)が自動的に達成されるという話になります。
いったい、どんなメカニズムでそんな話になるのでしょう? ポーターはこう言います。
太字の部分を確認してください。集中戦略というのは、ポーターの置いたこの前提の上に構築された戦略なのです。
そして、この前提は間違っています。経営資源という概念が抜けているからです。ポーターの置いた前提は「自社と、すべての競合が有している経営資源が等しい」場合には成立しますが、それ以外では成立しません。現実では、企業の有する経営資源の量は大きくバラついています。
というより、企業が対象とできる市場セグメントのサイズや数は、有している経営資源から決まる制約条件です。たとえば、資本金が1,000万円の会社が10の事業をやるのは、どう考えても無理があります4。どんな市場であれ、一定以上の経営資源を投入しなければ、コスト優位か差別化のどちらかを達成できるわけがありません。つまり、身の丈に合わない市場セグメント(サイズと数)を対象にすれば、絶対に失敗する、ということは言えるでしょう。
裏を返せば、生き残っている企業は、多かれ少なかれ、必ず集中しています。つまり、集中している(市場セグメントを自社の経営資源に合わせて適切に絞り込んでいる)ことは市場で優位に立つための必要条件であって、十分条件ではありません。「集中すれば勝てる」といった話ではないのです。
さらに言うと、企業の有する経営資源が大きくバラつく環境下では、「集中できているか」を具体的に判定するのは不可能です。たとえば、1つの事業だけを行う資本金1億円の企業と、3つの事業を抱える資本金100億円の企業は、どちらが「集中」しているのでしょう?
このあたりでやめておきますが、とにかく、すごいと言われる人が考えた分類だからといって、うかつに盲信しないことです。
フレームワークの判定法②
ということで、ここまでの話からフレームワークの判定法その②が見えてきます。
新しいフレームワークに遭遇したら、それが本当に網羅的なのか、批判的な視点でチェックしましょう。
批判的にチェックする方法は、とにかく具体的に考えてみることです。先ほどのポーターの競争戦略の例なら、「①安くもなく」、「②差別化もできていないが」、「③ターゲットとなるセグメントを絞り込んだ結果、高収益を果たした企業」が具体的に挙げられるかを考えてみればいいのです。
フレームワークの判定法②:本当に網羅的なのか、批判的な視点でチェックする
なお、このポイントに関しては「上位の論点があるか」というポイントほどシビアに検討する必要はないでしょう。
当サイトではフレームワークを「網羅的(MECE)なことが確定している、特定の論点の分解」と定義していますが、そもそも網羅性は主観的に決まる上に、「たとえ網羅的ではないにせよ、主要な小論点がカバーされていれば問題ない」という考え方もありうるからです。フレームワークはあくまで思考の補助ツールなので、あなたが役に立つと思うなら、使えばいいのです。
代表的な偽フレームワーク:SWOT
最後に、代表的な偽フレームワークとして、SWOTというものを紹介します。その知名度の高さゆえに、注意が必要な偽フレームワークです。
SWOT
SWOTとは、Strength, Weakness, Opportunity, Threat(強み・弱み・機会・脅威)の頭文字を合わせたものです。
SWOTを論点の構造で表すと、以下のようになります。
- ???
- Strength:我々の強みは何か?
- Weakness:我々の弱みは何か?
- Opportunity:我々にとっての機会は何か?
- Threat:我々にとっての脅威は何か?
ということで、このフレームワークは大論点が分かりません。何を考えるために使うものなのか、ハッキリしないのです。
厳密に言うと、「大論点が分からない」というより、あらゆることがSWOTの大論点として語られています。私が調べた範囲だけでも、以下のものがSWOTの目的・大論点とされていました。
- 戦略を策定する(我々のとるべき戦略は何か?)
- 現状を分析する(我々の置かれている状況はどのようなものか?)
- 目標達成の方法を決める(Xという目標を達成するために、何をするべきか?)
この時点で、このフレームワークが使いものにならないことは明らかでしょう。この3つの論点は明らかに違います。違う大論点が、同じ小論点のセットで答えられるはずがありません。
さらに、小論点が網羅的なようにも見えません。たしかに「強み・弱み」、「機会・脅威」はそれぞれ網羅的なように感じられますが、なぜ、この4つを考えると、大論点に対して網羅的なのでしょうか(そもそも大論点がハッキリしませんが)。
実際、私もいくつか具体的な大論点をSWOTで分解して考えてみましたが、この4つの小論点から納得感のある結論を導くことは私には不可能でした。結論と小論点の論理的なつながりが切れてしまうのです。
こんなことを書くと、「じゃあ、なんでほとんどのビジネス書にSWOTが出てくるんだよ?」と思うかもしれません。正直なところ、私は実務でSWOTを見たことも使ったこともないので、なぜこれほどまでにSWOTが有名なのか、私も不思議です。
一応、私の仮説を言っておくと、SWOT分析をすると、考えて結論を出した気になれるのだと思います。
SWOTは、分析結果が表という分かりやすいアウトプットになり、それを作るのは簡単です。誰でも、自社の強みや業界の機会などは知っているものですからね。さらには、そのあとにクロスSWOT分析なんてこともできます。
こういう活動を通じて、「この結論は恣意的なものではなく、根拠のある、考えた結果の結論なのだ」という感覚を得やすいのではないでしょうか。
最近は「SWOTは時代遅れ」という論調もあるようですが、私の意見ではSWOTは時代遅れなのではなく、最初から間違っています。このへんでやめておきますが、とにかくSWOTは使わないことをオススメします。
ただし、これはあくまで私の意見なので、あなたも批判的な目線でチェックしてみてください。
偽フレームワークの特徴(おまけ):表になっても答えが出ない
ここまでの話を総括すると、偽フレームワークの特徴として「表というアウトプットは出せても、それが何に答えているのか分からない」ということがありそうです。SWOTは言わずもがなですし、先述の3Cもそうです。あとは、PEST分析もそうですね(詳しくはこちら↓)。
これは結局「大論点が分からない」という条件の言い換えでしかありませんが、こちらのほうが判定基準としては使いやすいかもしれません。表を作って満足しないよう、気をつけてくださいね。
以上、使えないフレームワークの見分け方を説明しました。世の中の実態として、フレームワークは供給過多になっています。盲信せず、本当に使えるフレームワークを自分で選ぶ姿勢を忘れないでください。
では、次回からは具体的なフレームワークを学んでいきましょう。まずは問題解決のフレームワークからです。もちろん、これらのフレームワークも、あなた自身で批判してくださいね。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
参考文献
競争の戦略Footnotes
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「市場」という言葉を、「ある価値の売り手と買い手の集合」と定義するなら、3Cは市場を網羅的に分解しています。売り手とは自社と競合のことであり、買い手とは顧客のことだからです。しかし、市場の定義をさらに広くとるなら、話は変わります。たとえば、「市場」を「ある価値のやりとりに影響を与えるすべての集合」としてしまえば、政府や顧客の家族は間違いなく市場に含まれるし、下手をすると南米の蝶の羽ばたきも市場に含まれます。何が価値のやりとりに影響を与えるかはハッキリしないからです。 ↩
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ただし、個人のキャリア戦略にこの分解を使う場合は、「勝ち目」の部分をさらに「就職しようとする会社の、市場内での勝ち目」と、「あなたの、その会社内での勝ち目」に分解したほうがいいです。会社が潰れてしまえば出世しようが関係ないですし、逆に会社が儲かっても窓際族なら辛いですからね。 ↩
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厳密に言うと、ポーターの競争戦略はフレームワークよりもさらに踏み込んだものになっています。これは分解した論点のリストではなく、解決策のリストです。 ↩
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厳密には資本金が経営資源の量を反映するわけではありませんが、分かりやすさのためにこういう記述にしています。 ↩