このエントリーでは、問いの分類を学びましょう。
一般に、問いに答えるためにはリサーチ(情報を集め、処理する行為)が必要です。リサーチせずに自分の頭から答えをひねり出しても、それは主観的で、正しいとは見なせないからです。
しかし、ある種の問いは、答えるうえでリサーチが重要ではありません。言い換えると、答えがあなたの中にしかないタイプの問いがあるのです。
このことを理解しておかないと、答えが自分の中にある問いに対してリサーチをしてしまう、つまり、答えを自分の外に求めてしまいます。リサーチすることは一般論としては正しいだけに、ここが落とし穴になります。
このエントリーでは、リサーチが有効でない問いとはどのようなものか、それに答えるには何をすればいいかを考えてみます。
では始めましょう。
toc
問いの2分類
早速ですが、以下のスライドを見てください。
このように、私たちが答えを出そうとする問いは、リサーチ系とビジョン系に分類できます(ともに私の造語です)。違いはシンプルで、「問いが自分の外側に向いているか、内側に向いているか」です。外側に向いているならリサーチ系、内側ならビジョン系です。
ポイントは冒頭でも述べたとおり、「ビジョン系の問いには、情報を集めることは有効ではない」ということです。リサーチ系の問いにはまっすぐなアプローチ(=リサーチする)で問題ありませんが、それではうまくいかないタイプの問いもあるのです。
順に見ていきましょう。
リサーチ系
まずはリサーチ系の問いからです。こちらは分かりやすいですね。
リサーチ系の問いとは、自分の外側に向く問いのことです。
リサーチ系(の問い):自分の外側に向く問い
具体例を見てみましょう。リサーチ系の問いとは、以下のような問いのことです。
- 鎌倉幕府を創始したのは誰か?
- なぜ、商品Xの売上が減っているのか?
- これから10年で急成長しそうな業界はどこか?
これらの問いの答えは、あなたの外側に存在していますよね。逆に言うと、自分の頭の中だけでこれらの問いに答えることはできません。
よって、このような問いに答えるには、外界に存在する情報を集めたり、その情報を処理したりする(=リサーチする)必要があります。リサーチの全体像は、以下のスライドにまとめてあります。
このスライドの詳細は次エントリーで解説するので、ここでは、「リサーチ系の問いとは、このような行為をして答える問いのことだ」というポイントだけ押さえてください。
ちなみに、「鎌倉幕府を創始したのは誰か?」という問いに関しては、今のあなたはリサーチせずに答えを出せたでしょう。しかし、それは答えを知っていたからですよね。最初に答えを知ったときの情報源は、学校の授業や教科書など、あなたの外側であったはずです。
このように、答えを出すために必要な情報を知っている場合は、情報に頼る必要はありません。しかし、最初に情報を知るためにはリサーチが必要なので1、このような問いはリサーチ系に属するということにします。
リサーチ系の問いが問いかけること
リサーチ系の問いが問いかけることは、事実・予測や原理・法則になります。
- 事実
- どうだったか?(過去)
- どうであるか?(現在)
- 予測
- どうなりそうか?
- 原理・法則
- どういう仕組みになっているか?
先ほどの具体例は、どれもこのカテゴリーに属していることを確認してください。
事実や原理というのは、私たちの外側に存在しているものです2。よって、これらの問いに答えるためにはリサーチが必要になるわけです。
私たちが解く問いの大半はリサーチ系です。学校で扱う問いはほぼ100パーセントがリサーチ系であり3、ビジネスでも、後述するビジョン系を扱うケースは多くありません。
ビジョン系
次に、ビジョン系の問いを見ていきましょう。
ビジョン系の問いとは、自分の内側に向く問いのことです。シンプルに、「リサーチ系ではない問い」と捉えてもいいでしょう。
ビジョン系(の問い):自分の内側に向く問い
具体例を見てみましょう。ビジョン系の問いとは、以下のような問いのことです。
- (私は)どのように生きていきたいか?
- (私は)どんな仕事をするべきか?
- 私は/私たちの会社はどうあるべきか?
リサーチ系とは異なり、これらの問いは私たちの内側に向いていますよね。このような問いがビジョン系の問いです。
ビジョン系の問いに答えるうえでは、情報はリサーチ系のときほど決定的な役割を果たしません。理由はシンプルで、答えがあなたの内側にあるからです。つまり、ハートに聞かないと答えが出ません。外側の情報をいくら集めたところで、自分のハートが明らかになるとはかぎらないですよね。
ただし、ビジョン系の問いに答えるうえでも、情報が完全に無意味だということではありません。たとえば、どのように生きていきたいかを考えるときに、他者の生き方(=情報)を知ることは参考になるでしょう。
しかし、そのような情報が正しい答えに導いてくれるのかは、何とも言えません。ときにはノイズになることすらあるはずです。また、確固たる自己を持っている人なら、他者の生き方など調べずに自分の生き方を選べるでしょう。
結局、リサーチ系と比べて、ビジョン系では情報が果たす役割が決定的ではないのです。
ビジョン系の問いに答えるうえでは、情報は(決定的に)重要ではない
ビジョン系の問いが問いかけること
ビジョン系の問いが問いかけることは、希望・欲望・目標や規範になります。英語が得意な人は、「wantかshould」と覚えてもよいでしょう。
- 希望・欲望・目標(want)
- どうありたいか?
- 規範(should)
- どうあるべきか?
先ほどの具体例は、どれもこのカテゴリーに属していますよね。
ビジョン系の問いを扱うタイミング
先述のとおり、私たちがビジョン系の問いを扱う機会は多くありません。目標や規範は、頻繁に変更するようなものではないからです。所与の前提(考えるまでもないこと)とされていることが多いです。
また、このタイプの問いには「正しい答え」が存在しないため、答えは「考えて出す」というより「決める」ものになります。よって、多人数で考える意味もありません。
このような理由により、私たちがビジョン系の問いを扱うことは多くありません。では、どういうときに、ビジョン系の問いに答える必要が出てくるのでしょう?
一概には言えませんが、ドンガラガッシャンするときには、ビジョン系の問いが立つ、と覚えておくのがオススメです。フォーマルな言い方だと、「ゼロベースで考える」タイミングです。「ドンガラガッシャン」が分かりやすくてオススメですが笑。
いくつか具体例を見てみましょう。まずはキャリアをドンガラガッシャンするケースです。
- 上司を殴って会社を辞めた。もうこの業界に居場所はないだろう。これから何の仕事をしていくか?
- 私はどんな仕事をしたいか?
- その他の論点(業界の成長性、自分の勝ち目、給料、人間関係など)
次は、ビジネスモデルをドンガラガッシャンするケースです。
- コロナのせいで、いまのビジネスモデルではジリ貧だ。新しいビジネスモデルはどのようなものか?
- 私たちは、どのようなビジネスモデルで商売をしていきたいか?
- その他の論点(業界の成長性、自社の勝ち目など)
最後に、オフィスをドンガラガッシャンしてみましょう。
- 働き方が抜本的に変わったので、オフィスも抜本的に変えよう。新しいオフィスをどのようなものにするか?
- 私たちは、どのような働き方をしたいか? (どのようなオフィスで働きたいか?なども可)
- その他の論点(コスト、実現可能性など)
これらの例から明らかなように、何かをゼロベースで考えるときの最初のサブ論点として、ビジョン系の問いが立ちます。なぜなら、目標や規範といった「依って立つ基準」がないと、何も判断できないからです。
何かをゼロベースで考えるときには、ビジョン系の問いが立つ
2020年現在、コロナのせいであらゆることがドンガラガッシャンされていますので、ビジョン系の問いが立つ機会も多そうです。
ビジョン系の重要性
ビジョン系の問いが立っている状況においては、それにきちんと答えることはとても重要です。おそらく、100のリサーチ系の問いに正しく答えることより重要でしょう。
なぜなら、ビジョン系の問いの答えは、リサーチ系の問いに対する判断基準になるからです。言い換えると、目標や規範がきちんと定まっていないと、どんな事実を集めたところで、それを解釈しようがありません。
先ほどの例で具体化すると、こういうことです。
- どんな仕事をしたいか明確でない状態で業界ごとの情報を集めても、解釈しようがない
- どんなビジネスモデルにしたいかが明確でない状態では、ビジネスモデルを選びようがない
- どんな働き方・オフィスにしたいかが明確でなければ、オフィスの具体的なスペックを決めようがない
どれも当たり前のことですよね。もちろん、現実には目標や規範が曖昧なまま前に進むしかない状況もある(典型的なのは、大学生の就職活動)のですが、建前論としては、ビジョン系はリサーチ系に先行します。
ビジョン系の問いに答えることは、リサーチ系の問いを答えることよりはるかに重要
つまり、何かを考えるときの出発点は、目や脳みそではなく、ハートです。世の中、よくできていますよね。
ビジョン系の問いの答え方
では、ビジョン系の問いに答えるには、何をすればよいのでしょう?
先に残念な結論をお伝えしておくと、分かりません。あなたのハートを明らかにする方法は、あなたが考えるしかないでしょう。
ビジョン系の問いの答え方に、定まった方法はない
ただ、これで終わっても寂しいので、もう少し考えてみましょう。
まず、原則としては、自分に何かをぶつけるという方向性になるでしょう。ハートはあなたの中にあるからです。外に何かを求めても始まりません。スライドで確認してください。
これは、丸太から彫刻を作り出すイメージがピッタリくるでしょう。丸太(ぼんやりとした自己)に彫刻刀(刺激)を突き立てて、作りたいモノ(真なる自己)を浮き上がらせるのです。
では、どんなことが彫刻刀になるのでしょう? アイデアとしては以下のようなものがあります。
- 体験する
- 自分に問いかける
- 何もしない
順に見ていきましょう。
ビジョン系の答え方①:体験する
まず、体験するという方法があります。これは王道ですね。
先ほどの例だと、以下のようになります。
- どんな仕事をしたいか明確でないので、とりあえず色々と仕事をしてみる
- 実際、この理由で大学時代にさまざまなアルバイトをすることをオススメする人も多い(アルバイトでの経験をそのままキャリアの本業に転用できるかは議論の余地がある)
- どんなビジネスモデルにしたいかが明確でないので、とりあえず色々なビジネスモデルで商売してみる
- これは実現性が低そう
- どんな働き方・オフィスにしたいかが明確でないので、さまざまな会社のオフィスに見学に行く
- これは実際に行われている方法
- 本当はそのオフィスで実際に働いてみるのが理想だが、さすがにそれは現実的ではない
個人的には、体験することこそ最強の彫刻刀であると思っています。つまり、ビジョン系の問いに答える際には、「体験する」というアプローチがもっとも有効でしょう。
ビジョン系の問いに答えるには、「体験する」というアプローチがもっとも有効(ではないか?)
こんなことを言うと、かの有名な「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というビスマルクの言葉を思い出す人もいるかもしれません。
しかし、ここで考えているのはビジョン系の問いです。自分がどうしたいかを知るのに、自分が経験を通じて感じたことすら信じられないなら、そんな人こそ愚者でしょう。リサーチ系とビジョン系の問いは、アプローチを変えるべきです。
ビジョン系の答え方②:自分に問いかける
次に、自分に問いかけるという方法があります。これもメジャーな方法ではないでしょうか。
自分(たち)のことって、分かっているようで分かっていないことも多いですよね。そこで、自分に問いを突き立てて、答えを言葉にしてみるのです。
先ほどの例だと、以下のようになります。
- どんな仕事をしたいかを考えて、答えを書いてみる
- どんなビジネスモデルにしたいかを考えて、答えを書いてみる
- どんな働き方・オフィスにしたいかを考えて、答えを書いてみる
この方法はお手軽な分、ポイントを押さえないと「考えたつもり」で終わりになります。以下の点に注意してください。
- 答えは絶対に書く
- 書かないと、何が明らかで、何が曖昧なのかが明確にならない
- ただし、書いたことに引っ張られても意味がないので、書いてみて違うと思ったら消す
- 問いを考えるための場所と時間を用意する
- 真剣にやるなら、ひとりで海沿いのホテルなどに行くのもよさそう
- 自分に問いを突き立てるので、情報端末を持っていくべきではない
実際にやってみると照れくさい行為ではあるのですが、そもそもビジョン系の問いを考えること自体が多くないので、照れずにやってみるのがオススメです。
ビジョン系の答え方③:何もしない
最後に、何もしない(暇になる)という方法もあるかもしれません。これは彫刻刀というより、鎧を脱ぐというイメージです。
一般論として、忙しいと、自分の内面に注意を向けられません。外側の何かが注意を奪うわけですからね。たとえば、朝から晩まで学校や仕事に追われ、その後もスマホが鳴り続けていたら、自分がどうしたいかを考える時間はありませんよね。
自分のことを考えたければ、少しの間でも、抱えているタスクやコミュニケーションから離れる必要があるでしょう。
もっともお手軽な方法は、スマホを持たずに散歩に出かけることです。これだけでほとんどのことがシャットアウトできます。気合を入れてやるなら、電車に乗って少し遠出するのもオススメですよ。
とりあえず、私が思いつくのはこの3つだけです。ほかにもあると思うので、あなたも考えてみてください。
以上、問いの分類を説明しました。では、ビジョン系の問いに関してはここまでにして、次回からはリサーチ系を掘り下げていきましょう。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。