ロジカルシンキングのトレーニング(例題と解答つき)
Daisuke Shoka

このエントリーでは、ロジカルシンキングの基礎的なトレーニングを紹介します。なお、ロジカルシンキングの中身については説明しないので、途中で分からなくなったら以下のリンクを参考にしてください。
ロジカルシンキングのすべて
今回紹介するのは、ロジカルシンキングのポイントのうち、「①論点を定める」と「②主張を明確にする」の2つの能力を鍛えるトレーニングです。早速始めていきましょう。
トレーニングの内容
このトレーニングは、ディベートや小論文の問題文(お題)を見て、「論点」と「主張の型」を書き出すというものです。
例題
例題を見てみましょう。
以下の入試問題における、「論点」と「主張の型」を書き出しなさい。
「正義」と「不正」に対する人々の態度の非対称性について述べた『共生の作法』(井上達夫)を読み,「正義」を盾にした紛争や衝突の具体例を挙げたうえで,著者の見解を参考にしつつ,意見の対立を克服するにはどのようにすればよいか,あなたの考えを述べよ。〔500字〕
この入試問題における論点(問いかけている疑問文)と、主張の型(論点の答えになりうる言説の型)を書き出してください。なお、この問題はお題さえあれば解けるので、これ以上の情報は不要です。上の例でも、実際に『共生の作法』を読む必要はありません。
ヒントとして、論点と主張の型の対応関係をまとめた表を、以下に掲載しておきます。

以下に解答欄がありますので、答えを書いてみてください。自分で書いた方が、ずっと効率的に学習できます(参考)。分からなくても、トライしてくださいね。なお、この解答欄に書いたことは保存できないので、解答を保存したい場合は自分のメモアプリなどを使ってください。
論点:どうすれば意見の対立を克服できるか?
主張の型:Xのようにすればよい。
解説:論点は「どうすればいいか?」を聞いているので、主張になりうるのは「こうすればいい」を意味する言説だけです。
言い換えると、この小論文では、「意見の対立を克服するためには、Xのようにしていくべきだ(と、私は考える)」という言説が含まれていなければ、その時点で0点が確定します。論点に対する適切な主張がない文章は、もはや論文と呼べないからです。あなたが受験生なら、これを覚えておいてくださいね。
このトレーニングで培われる力
このトレーニングをすることで、論点をシンプルに表現する力と、主張を即座に明確にする力が養われます。この2つの力がロジカルシンキングの中核をなすので、あらゆる問題が即座に解けるようになるまでは、このトレーニングを繰り返すことをオススメします。練習問題はこのエントリーの最後にもありますし、ディベートや小論文のお題は、検索すればいくらでも見つかります。
トレーニングのポイント
では、トレーニングのポイントを解説していきます。
このトレーニングで注意するのは、「どのように論点を書くか」という一点のみです。論点さえ上手く書ければ主張の型は自動的に決まるので、特に何かをする必要はありません。
論点の書き方に関するポイントは、以下の3つです。
- 一文の疑問文で書く
- 文末に疑問符(?)をつける
- 可能であれば、疑問詞(なに・だれ・いつ、など)を前に出す
論点の書き方①:一文の疑問文で書く
まず、論点は一文の疑問文で書いてください。こうすることで、「結局、何に答えればいいのか」が明確になります。
ディベートや小論文のお題が、疑問文でストレートに書かれていることはまずありません。先ほどの例のように、少し分かりにくい形になっていることがほとんどです。
実際にロジカルシンキングを使うときの状況も、これにそっくりです。様々な背景や前提条件が説明される中で、論点が埋もれてしまうのです。これこそが、論点がズレたり、分からなくなったりする原因です。
ということで、論点を掘り起こしましょう。余計な前提条件などを削ぎ落とし、一文でピシッと論点を書いてください。
この際、できるだけ短くしてください。それが論点をシンプルに表現する能力を育てます。
目安としては、書いた論点が40文字を超えている場合、論点にノイズが含まれていないか疑ってください。複雑な論点であっても、40文字を超えることは滅多にありません。
論点の書き方②:疑問符(?)を使う
次に、疑問文の文末には疑問符(?)をつけてください。疑問符を使う方が、論点であることが明確になります。
ちなみに、疑問符は元来の日本語には含まれていなかったため、日本語の正式な文書では疑問符を使うべきではないという考え方が存在します。実際、文章術の本を読むと、疑問符や感嘆符(!)は下品なので使うなといった指導が出てきます。
とりあえず、トレーニングの間はこのことは忘れてください。ドンドン疑問符を使いましょう!「?」マークだけが、「考えたいこと」を率直に表現する方法です。他の方法は、私の知るかぎり存在しません。
Point
「?」マークを使って、考えたいことを明確にする
古い形式にこだわるべきかは、本番でロジカルシンキングを使うときだけ注意してください。あなたの周りが形式にこだわっているなら、無理に疑問符を使う必要はないかもしれません(私は、疑問符を使うことを強くオススメしますが)。
論点の書き方③:可能であれば、疑問詞(なに・だれ・いつ、など)を前に出す
最後に、可能なかぎり疑問詞を前に出しましょう。これも、問いが何なのかを明確にするのに役立ちます。
先ほどの例題を使って、具体的に説明します。
「正義」と「不正」に対する人々の態度の非対称性について述べた『共生の作法』(井上達夫)を読み,「正義」を盾にした紛争や衝突の具体例を挙げたうえで,著者の見解を参考にしつつ,意見の対立を克服するにはどのようにすればよいか,あなたの考えを述べよ。〔500字〕
この問題から論点を普通に書くなら、「意見の対立を克服するにはどのようにすればよいか?」となります。これでも十分に論点として機能しますが、解答例では「どうすれば意見の対立を克服できるか?」としました。疑問詞を簡潔にして、前に出しているわけですね。
すべてのケースでこれが可能なわけではありませんが、できるだけ疑問詞を前に出してください。主張の型を定義しているのは疑問詞です。疑問詞を真っ先に明確にできれば、主張の型もそれだけ明確になります。

余談ですが、英語の場合はもっと簡単に主張の型が決まります。文の最初の一語を見るだけです。それだけで、オープン・クエスチョンなのかクローズド・クエスチョンなのか、主張の型はどれになるのか、などが即座に分かります。上の表の「疑問文(論点)の型」を翻訳すればそれが分かるでしょう。これに対し、日本語ではクローズド・クエスチョンであることを文の始めに明示する方法はありません。
日本語にも良い点はたくさんありますが、こと「論点を明確にする」という点では、英語に圧倒的な優位性があります。「英語を勉強するとロジカルシンキングが上手くなる」というほど単純な話ではありませんが、頭の片隅に英語的な視点を持っておくと、曖昧な日本語に遭遇したときに役に立ちますよ。
例題と解答例
では、最後にいくつか例題と解答例を載せておきます。繰り返しになりますが、解答例を見るのは自分で解答を書いてからにしてくださいね。
以下の論述問題における、「論点」と「主張の型」を書き出しなさい。
言語・道徳・経済などの進化について述べた『進化は万能である』を読み、政府が公用語の正しい用法を規定することには正当性があるか、あなたの考えを述べなさい。
論点:政府が公用語の正しい用法を規定することに、正当性はあるか?
主張の型:正当性はある/ない。
近年、医療デマによる被害が甚大になりつつあることを受けて、医療に関しては政府が言論の自由を制限するべきだという議論が存在する。言論の自由が生まれた背景とその意義を踏まえた上で、あなたの考えを述べなさい。
論点:医療に関して、政府が言論の自由を制限するべきか?
主張の型:制限するべき/するべきではない。
IP電話、ビデオ会議システムなど、通信技術の急速な発展に伴い、職種によっては物理的に近くにいることなく働くことが可能になった。これを受けて、個人と企業の関係はどのように変わっていくと考えられるか。あなたの考えを述べなさい。
論点:通信技術の発展を受けて、個人と企業の関係はどのように変わっていくか?
主張の型:これまでXであった個人と企業の関係は、Yのようになっていくだろう。
冒頭でも述べましたが、このトレーニングで鍛える能力がロジカルシンキングを実践する上で最も重要です。どんなお題でも即座に解答が分かるまで、このトレーニングを繰り返してください。「ディベート テーマ」、「小論文 過去問」などで検索をかければ、お題はいくらでも見つかります。自分の答えが合っているか不安な人は、友達や同僚と解答を確認しあってください。
以上、ロジカルシンキングのトレーニングを紹介しました。
さらに学習を進めたい人は
ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。ロジカルシンキングの学習をさらに進めたい人は、以下のエントリーに進んでください。根拠の妥当性を担保する方法を学んでいきましょう。
「批判」とは|根拠の妥当性の検討方法

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ロジカルシンキングのすべて