このエントリーでは、ビジネスモデルのパターンを学びましょう。
ビジネスモデルには、いくつか典型的なパターンがあります。これらのパターンをひととおり押さえておくと、自分でビジネスモデルを発想するときのきっかけになったり、既存のビジネスモデルの改善点を探す際のヒントになったりします。知っておいて損はないので、代表的なものをここで押さえてください。
では始めましょう。
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注意
最初に注意点ですが、このエントリーで紹介するのは、厳密に言うと「当サイトにおける『ビジネスモデルのコア』をパターン化したもの」になります。以下のスライドを見てください。
このように、1つの事業の中心にはビジネスモデルがあり、ビジネスモデルの中心にコアがあります(当サイトにおける整理)。
コアは事業の数だけ存在するので、商品の流通経路や支払い方法などから、ある種の共通したパターンを見出せます。具体的には、以下のようなものです。
- 直販
- 広告
- サブスクリプション
これらの詳細は追って説明します。とにかく、このエントリーでは、このようなパターンにつけられた名称のことを「ビジネスモデル」と呼ぶ、ということを押さえてください。毎回「ビジネスモデルのコアのパターン」ではくどいですからね。
用例としては、以下のような使い方になります。
サブスクリプションというビジネスモデルが大流行している。
この「ビジネスモデル」の用法は、当サイトの他エントリーとは異なるので注意してください。当サイトにおける「ビジネスモデル」の用法については、先ほどのスライドとセットで以下のエントリーから解説しています。時間に余裕があるときに読んでみてください。
では、前置きはこれくらいにして、パターンを見ていきましょう。
ビジネスモデル①-③:直販・小売・卸売
まずは基本のビジネスモデルを一気に3つ押さえましょう。以下のスライドを見てください。
分かりやすさのため、事業主体である企業(以下、「主体企業」と表記)に色をつけています。ビジネスモデルの名前はすべて、主体企業の視点からのものです。
順に見ていきましょう。
直販
まず、直販とは、商品の生産者である企業と一般消費者が、直接的に取引するビジネスモデルです。スライドで、この二者しか登場していないことを確認してください。
ちなみに、「一般消費者」とは、「商品を(ほかに販売することなく)使用する人・団体」と考えてください。業界によっては「エンドユーザー」と言ったりもしますが、要するに普通の購入者のことです。
直販の例として分かりやすいのは、Appleのサイトです。ここでiPhoneやiMacを購入できますが、これは私たちとAppleのダイレクトな取引です。ほかにも、メーカーのサイトにEC機能がついていれば、それらはすべて直販です。
直販はもっともシンプルなビジネスモデルです。これから紹介するほかのビジネスモデルは、直販との違いで捉えると分かりやすいでしょう。
小売
次に、小売とは、仕入先から仕入れた商品を、企業が一般消費者に売るビジネスモデルです。
直販との違いは、主体企業が商品を作っていないことです。商品をどこかから仕入れて、それを消費者に売るわけですね1。
引き続きAppleの例で説明すると、家電量販店でもAppleの製品は購入できますよね。この場合、家電量販店は小売店だということです。Appleの製品を仕入れて、私たちに売っていますからね。
また、先ほど紹介したAppleのサイトでは、Boseのヘッドフォンのような、Apple製品以外のものも販売されています(2019年3月時点)。この場合、Appleは小売業者でもあります。このように、1つの事業や売り場の中に、複数のビジネスモデルが混在しているのは普通です。注意して観察してみてください。
卸売
最後に、卸売とは商品を一般消費者以外(主に小売業者)に売るビジネスモデルのことです。スライドを再掲するので、中段と下段の違いを確認してください。
なお、仕入先が商品の生産者である卸売業者を「一次卸」、仕入先も卸売業者である卸売業者を「二次卸」として区別する場合もあります。スライドには一次卸が表現してあります。
練習問題
ここまでの内容を練習問題で確認しましょう。ちょっと難問にしておいたので、分からない場合は検索もしてください。
自社がメーカーである場合、卸売業者を通さずに独自の直販ルートを開拓することには、どのようなメリットがあると考えられるか。メリットを3つ以上述べよ。
以下の解答欄に、答えを書いてみてください。
以下のようなメリットが考えられます。
- 粗利益率を高められる(流通の中間マージンがなくなるため。価格を下げる手もある)
- 重要なデータ(商品に対する顧客の反応や、顧客ニーズなど)を集められる
- 売り場の雰囲気、店員の対応などに強みがあれば、売上増加やブランド形成が期待できる
- 資金繰りがよくなる(一般消費者との取引に掛売はないので)
- 売り場まで誘導できれば、他社製品と比較されにくい
ただし、直販チャネルの運用コスト・集客コストは当然かかるので、トータルでメリットがあるのかはケースバイケースとしか言えません。
ビジネスモデル④:広告
次は広告です。これも基本ですね。
広告とは、認知の集まる場を創造し、その場を貸す(広告主に広告枠を売る)ことで収益を上げるビジネスモデルです。一番分かりやすいのは民法テレビ局ですね。民法のテレビ番組が無料で視聴できるのは、CMの枠を購入する広告主(スポンサー)がいるからです2。
なお、「認知の集まる場」としてもっとも典型的なのはコンテンツ(文章や映像など)ですが、認知さえ集まればどんなモノでも構いません。後から練習問題で確認しましょう。
無料モデルと有料モデル
ここで解説しているのは広告というビジネスモデルなので、広告主から主体企業にお金が流れることは確定です。しかし、読者/視聴者から主体企業にお金が流れるかはケースバイケースです(このため、スライド上では点線)。読者/視聴者から主体企業にお金が流れないモデルを「無料モデル」、流れるモデルを「有料モデル」と呼ぶことにしましょう。
先ほど説明した民法テレビ局は、無料モデルです。ほかには、Googleの検索サービスなどもありますね。検索は無料で利用できますが、検索の上部には広告が表示されます。
一方、有料モデルとして分かりやすいのは雑誌です。ほとんどの雑誌には広告ページがありますが、雑誌は無料では読めませんよね。また、同じ雑誌でも、漫画雑誌とファッション雑誌では、含まれている広告の量がまったく違います。これは収益構造における広告依存度を反映していると考えてください(ファッション雑誌のほうが広告に依存している)3。
練習問題
では、ここまでの内容を確認しましょう。さっきよりは簡単です。
世の中にある、広告が掲載されている場所を3つ以上述べよ。
以下のようなものがあります。
- 駅の通路
- 電車の車内・車体
- ビルの壁面・屋上
- スマホの画面下部(アプリ利用中など)
- スポーツ施設(サッカー場など)のフィールド周辺
- ファミレスのテーブル
要するに、たくさんの人が通る・集まる場所にあるか、人がジッと見るものは広告媒体として価値があるということです。
その意味では、電車の車内広告などの媒体価値は下がっていると言えるかもしれませんね。みんな車内でスマホばかり見ているので。
ビジネスモデル⑤:サブスクリプション
次に、サブスクリプションを紹介します。
分かりやすいように、上下で買い切りのケースと比較しました4。
このように、サブスクリプションとは、顧客が定期的に何度も支払いをするビジネスモデルのことです。
なお、スライドにあるように、典型的なサブスクリプションであれば、定期的な支払いに加えて、「顧客が買うのは商品の利用権で、所有権は移らない」という点も含まれます。そして、利用権の期間内なら使い放題であることが多いです。
しかし、最近は外食産業でも「サブスクリプション」と呼ばれる商品が登場しています(例:定期支払いで、毎日1食までラーメン無料)。とにかく定期支払いのモデルはすべて「サブスクリプション」と呼ばれますね。
「所有から利用へ」という言葉に代表されるように、最近はサブスクリプションが大ブームですね。以下のサービスは、すべてサブスクリプションです。あなたも1つくらいは使っているのではないでしょうか。
- 映像
- Amazon Prime Video、Netflixなど
- 音楽
- Apple Music、Spotifyなど
- 本
- Kindle Unlimited
- ソフトウェア
- Microsoft Office 365、Adobe CCなど
古くからあるビジネスだと、スポーツクラブや学習塾もサブスクリプションです。
練習問題
これも練習問題で確認しましょう。
ここまでに挙げられていないサブスクリプションビジネスを3つ以上答えよ。
驚きが大きそうなものを5つほど紹介しておきます。検索するとどれだけでも見つかりますので、自分でも調べてみてくださいね。
- 自動車
- 住居
- 洋服
- カフェ(コーヒー飲み放題)
- コンタクトレンズ
ビジネスモデル⑥:プラットフォーム
最後に、プラットフォームというビジネスモデルを紹介します。
プラットフォームとは、複数の買い手と売り場を結びつける場を提供し、場の利用料で収益を上げるビジネスモデルです。
ちなみに、「プラットフォーム」という言葉は、広義には「みんなが使うサービス」という意味です。ここではもう少し狭い意味で「プラットフォーム」という言葉を使っているので注意してください。
プラットフォームには、以下のタイプがあります。
- マーケットプレイス:商品を売り買いする場を提供する
- ECモール、フリマアプリなど
- マッチング:人と人を結びつける
- マッチングの場合、「売り手/買い手」という切り分けではなく、「男性/女性」、「求職者/雇用者」などになる
マーケットプレイスで分かりやすいのは、スマホのOS(アプリ販売)でしょう。AndroidでもiOSでも、誰でもアプリを開発して販売できます。そして、アプリの販売代金のうち30%が手数料としてプラットフォーマー(つまり、GoogleかApple)に流れます。流通経路を握ると最強であることが分かりますね。
Amazonには、小売とマーケットプレイスが混在しています。たとえば、以下の本を見てください(せっかくなのでビジネスモデルの本にしておきました)。
ビジネスモデルを見える化する ピクト図解この本(紙版)だけで、以下の3つの売り方がされています。
- 小売:新品で、Amazonが売り主
- マーケットプレイス①:新品で、Amazon以外の売り主。Amazonは場の利用料を徴収
- マーケットプレイス②:中古で、Amazon以外の売り主。Amazonは場の利用料を徴収
Kindle版も入れればさらに1つ増えて、全部で4つです。なお、マーケットプレイス①や②に関しては、時期によっては出品がないかもしれません。
以上、基本的なビジネスモデルを紹介しました。自分が利用するサービスのビジネスモデルを考えるのはいい訓練になるので、折を見て挑戦してみてくださいね。
その他のマーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
Footnotes
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ただし、実態としては、一般消費者向けに何かを売っている業態を、仕入先があるかどうかに関わらず、「小売」と呼ぶことがあります。たとえば、銀座や渋谷にあるApple Storeは厳密には「Appleの直営の販売店」ですが、これを「小売店舗」と呼ぶことは普通です。 ↩
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なお、主体企業と広告主の間には「広告代理店」が介在することが多いですが、今回はビジネスモデルの大枠を説明することが主旨なので割愛しています。 ↩
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ただし、漫画雑誌も雑誌単体で利益を上げるビジネスモデルにはなっておらず、雑誌は掲載漫画のテストマーケティングおよび宣伝媒体として使い、単行本で収益を上げていると言われています。 ↩
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サブスクリプションの対義語として「買い切り」という言葉を使っていますが、「買い切り」には「返品をしない形での問屋からの購入」という意味もあるので注意してください。 ↩