このエントリーでは、経営資源の全体像を学びましょう。経営資源はビジネスのあらゆる局面で顔を出すので、その分類を正しく理解しておくことが重要です。
では始めましょう。
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経営資源とは
まず、「経営資源」という言葉を定義しておきましょう。
検索するとさまざまな定義が見つかりますが、当サイトではシンプルに、「経営資源」を「企業の有する、すべての有用なモノ」と定義します。1。詳しくは後述しますが、ここでの「モノ」には情報や関係といったものも含まれます。
経営資源:企業が所有している、すべての有用なモノ
ただ、重要なのは経営資源の中身を理解することなので、定義はそこまで気にする必要はありません。
経営資源の全体像
準備ができたので、本題に入りましょう。経営資源の全体像を以下の表にまとめました2。
細かくて申し訳ないのですが、詳細な表を作成してみました。現代のビジネスにおける主要な経営資源は網羅したつもりです。
すべてを説明していると終わらないので、まずは大きな分類の考え方を掴んでください。以下のとおりです。
- カネ
- ヒト(人的資源)
- 有体物
- 無体物
- 知覚できない経営資源
順に説明します。
経営資源①:カネ
1つめの経営資源は、カネです。カネの具体例は、現金、預金、金融資産などです。特に説明は不要でしょう。
カネは経営資源として別格の存在です。カネには、ほかの経営資源と一線を画する、以下の3つの特徴があります。
- カネがなくなると企業は倒産する
- カネ自体が企業のゴールである
- カネはほかの経営資源を調達できる
この3つの特徴によって、カネは経営資源の中で完全に浮いた存在になっています。この話は長くなるので、詳しくは次エントリーで解説します。
経営資源②:ヒト(人的資源)
2つめの経営資源は、ヒトです。ヒトとは、私たち自身や、私たちが持っている知識、スキル、ノウハウなどのことです。
なお、経営資源としてのヒトには「人的資源」というフォーマルな言い方もあるので、こちらもセットで覚えてください。
カネと同じく、ヒトも特殊な経営資源です。ヒトには以下のように、ほかの経営資源にはない特徴があります。
- 企業が自由にコントロールできない
- 企業の管理下から離れる(退職する)ことがある、など
- 成長する(変化する)
そのため、ヒトという経営資源の管理だけでHRM(Human Resources Management)という分野を形成しています。この話も長くなるので、詳しくは別エントリーで解説します(後日投稿予定)。
経営資源③:有体物
3つめの経営資源は、有体物です。言葉としては難しい印象を受けるかもしれませんが、単に物理的な実体を持つ「物」のことなので、難しく考えないでください。具体的には、以下のものです。
- 不動産
- 土地、建物
- 動産
- ハードウェア:パソコン、サーバー、ディスプレイなど
- その他:車両、机、椅子など
カネとヒト以外の「触れる物」は、すべてこのカテゴリーに入ります。私たちが普段から使っているものばかりなので、難しいことはないでしょう。
経営資源④:無体物
4つめの経営資源は、無体物です。無体物とは先ほどの有体物の逆で、「知覚(見ること)はできるが、触れないモノ」のことです。
無体物は、知的財産と実績で構成されます。順に見ていきましょう。
知的財産
まずは知的財産から説明します。
知的財産の定義は日々変動しているので、ここでは明確に定義することは避けます。ざっくりしたイメージとして、知的財産とは「利益を生む情報」だと考えてください3。具体的には以下のものなので、定義を考えるより、中身で覚えることがオススメです。
- 産業財産権:特許、商標、意匠、実用新案
- ソフトウェア:システム、アプリ、ウェブサイトなど
- コンテンツ:書籍、映画、アニメ、楽曲など
- データ:顧客のリスト、行動履歴など
- ここでのデータとは、「人間が意図的に創作したとは言えない、有用な情報の集合」のこと
- ナレッジ:上記以外の、言語化された技術やノウハウ
なお、ソフトウェアが入ったDVDや、印刷された書籍は有体物ですが、価値の源泉はそこに含まれる情報にあるので、このような分類にしています。
実績
次に、実績に関しては説明するまでもないでしょう。言葉どおりの意味です。具体的には、以下のものがあります。
- 売上や利益
- 顧客基盤
- 取引実績
- 解決策が実際に効果を発揮した事実
ざっと調べたかぎり、実績を経営資源とする考え方は見当たらなかったのですが、実績が企業にとって重要な経営資源(有用なモノ)であることに議論の余地はありません。実績がブランドを形成するからです。ブランドに関しては後述しますが、要するに顧客からの信頼だと考えてください。
たとえば、私たちは歴史のある会社や、売上が大きい会社を信用しやすいですよね。歴史や売上が信頼の裏付けになるからです。ほかにも、何か商品を売り込まれるときに実績を添えられると安心できます。PoC(Proof of Concept / 概念実証)やテストマーケティングといった考え方も、「実績があるのとないのでは大違いだ」ということが根本にあります。
経営資源⑤:知覚できない経営資源
最後は、知覚できない経営資源です。
ここまで説明してきた経営資源は、最低でも見ることができます。ソフトウェアのような無体物は触ることはできませんが、それでも見ることはできますよね。ここからは、見ることすらできません。表を再掲するので、確認してください
知覚できない経営資源は、大きく分けると関係と能力です。ただし、個人に紐づく能力はヒトに含まれると考えるので、表のような分類になっています。
順に見ていきましょう。
関係
知覚できない1つめの経営資源は、関係です。私たちがほかの人や企業とどれくらい深い関係にあるのかは、見ることも触ることもできませんよね。
これの代表例がブランドです。先述のとおり、ブランドとは顧客や社会からの認知・信頼のことです。なお、「ブランド」というと単に「信頼を獲得している企業・商品名」を意味することもありますが、ここでは別の意味で使っているので注意してください。
あなたにも、「ここの商品なら安心して買える」と思っている会社が、1つか2つはあるでしょう。これの意味するところは、ブランドはプロモーション(セールスや宣伝)を不要にするということです。そういうのをすっ飛ばして、信頼に基づいて購入するわけですからね。言い換えると、「いかにブランドを構築するか」が企業のプロモーションにおける肝だと言えます。
ブランド以外にも、企業はさまざまな人・企業と関係を持っています。これらは「その他」としておきました。ただし、資本関係のような明示的な関係を除くと、信頼関係というのは(企業ではなく)個人に紐付きやすいものです。経営資源として扱うのは難しいかもしれません。
組織力・文化
最後に、組織力・文化も、知覚できない経営資源です。これが何かと言われると言葉にしにくいですが、こういうものがたしかに存在することは、あなたも知っているはずです。多かれ少なかれ、人は周りの人間に影響を受けますからね。「チームビルディング」という、組織力を高めようとする取り組みも存在します。
以上、駆け足ではありますが、経営資源の分類を説明しました。
「ヒト・モノ・カネ」系のフレームワーク
さて、経営資源といえば「ヒト・モノ・カネ」、またはそこに「情報・知的財産」などを加えたフレームワークがあまりに有名です。これらに関して、ここで言及しておきます。
私としては、「ヒト・モノ・カネ」系のフレームワークは経営資源を考えるうえではまったく役に立たない、むしろ弊害すらある、と考えています。つまり、偽フレームワークですね。フレームワーク・偽フレームワークという言葉に関しては、以下のリンクからの一連のエントリーにて詳しく解説しています。この先の説明がピンとこなかったら参考にしてください。
私が「ヒト・モノ・カネ」系のフレームワークを偽フレームワークだと考える主な理由は以下になります。
- 実務において経営資源を考える際には、個別具体的な経営資源を特定する必要があり、ラフな分類は役に立たない
- 近年その重要性が増している「ブランド」が漏れている
- 語呂の良さが優先され、経営資源におけるカネの重要性が軽く見える
致命的なのは①です。実務で経営資源を考えるあらゆる状況で、経営資源のラフな分類が役に立つことはありません。
経営資源を考えるあらゆる状況において、ざっくりカネだけを考えるか、カネ以外の個別具体的な経営資源を特定するかのどちらかです。ラフな分類が役に立つことはありません。例外もあるかもしれませんが、少なくとも私の経験上、「ヒト・モノ・カネ」系のフレームワークが役に立ったことはないです。
今回も、説明を終わらせなければならない関係上、経営資源をラフなカテゴリーに分けて説明しました。しかし、実務において重要なのは、個別具体的な経営資源を特定することです。つまり、先ほどの表を自分の状況に合わせてさらに細かくし、取捨選択することが重要です。ここを誤解しないでください。
個別具体的な経営資源を理解することが重要
それでも、「ヒト・モノ・カネ」系のフレームワークが網羅的なのであれば、まだ使い道がありました。大きな分類から、個別具体的な経営資源を特定していけばいいですからね。しかし、残念ながらこの手の分類はすべてブランドが漏れています(理由②)。
最後に、語呂の良さが優先されているため、カネが軽く見えるという問題があります(理由③)。ビジネスにおいてカネは別格の経営資源であり、他と同列に扱う理由はありません。この点に関しては、次エントリーで解説します。
逆に言うと、「ヒト・モノ・カネ」が優れているのは語呂の良さだけです。実際、このような分類は日本語でしか存在しません4。
「ヒト・モノ・カネ」と日本経済
私は割と真面目に、「ヒト・モノ・カネ」が普及したことは日本経済が衰退した一因ではないかと疑っています。以下のリストを見てください。
- ソフトウェア軽視
- ブランディング軽視
- 内部留保を溜め込んで資金をうまく使えない
- (解雇が難しいという点において)ヒトのコストが重すぎて、時代の変化に合わせてビジネスモデルを迅速に転換できない
これらは、ここ30年で日本企業・日本社会が犯してきた過ちだと私が考えることのリストです。見てのとおり、恐ろしいほど「ヒト・モノ・カネ」の欠点と一致しています。
こんなことは検証しようがないので考える意味はないですが、とにかく、「ヒト・モノ・カネ」系の(偽)フレームワークは弊害のほうが大きいと思うので、忘れることをオススメします。
以上、経営資源の分類を説明しました。
次はこのエントリーでは保留した、経営資源としてのカネを掘り下げましょう。
また、マーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
参考文献
Footnotes
-
このように経営資源を定義した場合、「企業が人材を所有する」という表記・ニュアンスになります。さすがに人材は企業に所有されるようなものではないため、この表記は厳密にはおかしいのですが、経営資源に人材を含めないのは無理がある点から、このような定義になっています。ご了承ください。 ↩
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「カネ」と「ヒト」がカタカナ表記になっているのは、経営資源らしさを出すためです。それ以上の意味は特にないので、漢字が好みであればそちらを使ってください。 ↩
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旧来は知的財産とは「人間の創作した、有用な情報」だったのですが、最近は「ビッグデータ」に代表されるようにデータに有用な使い道が見出されつつあります。データは「人間の創作した」情報とは言えませんが、知的財産には含まれるべきといった議論があるため、このような説明にしてあります。 ↩
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思いつくあらゆる英単語で検索しましたが、「ヒト・モノ・カネ」のような分類で経営資源を説明している英語のサイトは1つも見つからなかったので、こう断言して問題ないでしょう。 ↩