説得のプロセス

このエントリーでは、プレゼンテーション作成のプロセスを説明します。

なお、タイトルにもあるとおり、実際は説得(という行為)を作成するプロセスを説明します。プレゼンというのは、人を説得しようとするコミュニケーションの一種ですよね。このようなコミュニケーションは、プレゼン以外にも、文書や映像を使って行うものもあります。これらを作るプロセスは共通しているので、ここでまとめて覚えていってください。

なお、以下の電子書籍では、このエントリーよりも包括的な形で解説しています。第1巻は無料なので、時間がある人はこちらをオススメします。

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では始めましょう。

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前提:説得の構造

大前提として、説得の構造を押さえてください。以下のスライドにまとめました。

説得の構造

このように、私たちが誰かを説得するとき、その要素は以下の3つです。

  1. ロジック:何を伝えるか?
  2. レトリック:どのように伝えるか?
  3. ブランド:受け手は説得者をどのように位置づけているか?

つまり、プレゼンのような説得を作るときには、最終的にこの3要素を作り上げればいいわけです。

なお、上のスライドの詳細は別エントリーで解説しているので、詳しく知りたい人は以下のリンクを読んでください。

説得のプロセス:全体像

では、3つの要素を、どんな順番で、どのように作っていけばよいのでしょう? 最初に全体像を眺めてください。

説得のプロセス

このように、説得は以下の5プロセスで完成させます。

  1. ブランドを形成する
  2. 説得を設計する
  3. ロジックを構築する
  4. レトリックで包む
  5. 説得する(本番)

すべてをいきなり理解するのは無理があるので、まずはプロセスの全体像(何が、どういう順序で並んでいるのか、それはなぜか)を掴むことに集中してください。個々のプロセスの詳細は別エントリーで補足するので、よく分からなくても気にせず先に進んでくださいね。

また、このプロセスは資料(文書やスライドパッケージ)を使わない説得にも適用できますが(例:書籍やブログの執筆)、このエントリーは「プレゼンテーション」カテゴリーの一部である関係上、この後の説明は「説得に資料を使う」という前提を置きます。あらかじめご了承ください。

では、お尻から順に見ていきましょう。その方が分かりやすいです。

説得のプロセス⑤:説得する(本番)

説得のプロセス

まず、最後には本番の説得をします。プレゼンするなり、完成させた文書を提出/掲載するなりですね。

また、会議やセミナーでは、プレゼンの後に議論や質疑応答の時間を設けるのが普通です。これらも本番の一部だと考えてください。

このプロセスをうまく乗り切ることができれば、晴れて説得の成功、つまり、「受け手に(自分の主張に対して)『イエス』と言ってもらう」という、あなたの目的が達成できるでしょう。これにて、1つの説得プロセスは終了です。

なお、実際のところは、本番の後に受け手を継続的にフォローすることもあります。しかし、話のスコープを広げすぎても収集がつかなくなるので、便宜上、1つの説得プロセスは本番をもって終了とさせてください。

説得のプロセス④:レトリックで包む

説得のプロセス

説得の第4プロセスは、レトリックで包むことです。この表現だと分かりにくいかもしれませんが、これは要するに、資料を完成させるということです。

当たり前ですが、本番前には資料を完成させておく必要があります。資料は空から降ってきたりしません。

なお、素直に「資料を完成させる」というプロセス名にしない理由は、資料はロジックとレトリックから構成され、これを同時に作るのは間違っているからです。伝える内容と伝え方は、分けて考える必要があります。

Point

資料を作成するとき、ロジックとレトリックを同時に作るべきではない

まずはロジックを作って、それをレトリックで包みます。ということで、1つ前のプロセスに戻りましょう。

説得のプロセス③:ロジックを構築する

説得の第3プロセスは、ロジックを構築することです。今回の説得で受け手に伝えたいことを、文字に落とします。言い換えると、資料を作る前に、資料で伝えたいことを考えるのです。

なお、ここでのロジックは「アウトライン」や「ストーリー」と呼ばれることもありますが、当サイトでは「ロジック」で統一表記します。

これは成果物を見たほうが分かりやすいでしょう。ロジックを構築するとは、以下のようなテキストファイルを作成することです。内容を理解する必要はないので、ざっと眺めてください。

ロジック(アウトライン)の作成例

まず、これは人様に「資料」として見せられるような代物ではないことを確認してください。形式は文書ではありますが、箇条書きでポイントが書き殴ってあるだけです。これを読んで内容を理解しろというのは無理がありますよね。

ただ、ロジックとしてはこれで十分なのです。これは「受け手に何を伝えるべきか」を文字に落として整理したものであり、誰かに見せるためのものではありません。言い換えると、このテキストファイルはあなた自身のための資料です。

このようにして準備したロジックを、自分が採用したメディアの形式にすれば、晴れて完成品のレトリックが出来上がります。言い換えると、ロジックはあらゆるメディアに転用可能で、共通するものです。以下のスライドでイメージを掴んでください。

ロジックとメディアの関係

なぜロジックとレトリックを分けるのか

なぜ、資料そのものを直接作らず(=ロジックとレトリックを一気に作らず)、その前にロジックだけを作るのでしょう?

理由はシンプルで、そのほうが質の高いロジックが作れるからです。一般的に、人間はマルチタスクが得意ではありません。たとえば、何を伝えたいのかも決まっていない段階で、文字の大きさや文末表現まで考えていたら、まったく集中できませんよね。つまり、ロジックとレトリックを同時に考えれば、ロジックの質が下がるのです。

しかも、ほとんどの説得では、ロジックの出来が受け手の求めるレベルを超えていなければ、説得は失敗します。これは受け手の立場で考えれば明らかでしょう。中身がないことは、どれだけ上手に伝えてもらっても、それを伝える人がすごくても、どうでもいいですよね。

よって、まずはロジックだけにリソースを集中して投下し、受け手をうならせるロジックを構築する必要があるのです。レトリックはロジックの後に考えれば問題ありません。

これだけではピンとこないかもしれませんが、ここに関しては別エントリーで解説するので安心してください。

とりあえず現時点では、「ロジックを構築するというのは文字をたくさん書くことで、資料を完成させることではない」ということが理解できれば十分です。一旦ここまでにして、先に進みましょう。

説得のプロセス②:説得を設計する

説得のプロセス(設計)

説得の第2プロセスは、説得を設計することです。

説得を「設計する」とは、説得の目的を明確にし、説得の成功に最適なロジックとレトリックのあり方を決めることです。言い換えると、ゴールを達成するために、どれくらい厳密な論を組むべきか、どれくらい分かりやすく説明する必要があるかを考えます。

これも成果物を見たほうが分かりやすいでしょう。

設計シート

このように、説得を「設計する」とは、説得の目的を明確にして、何を、どのように伝えるべきかを考えることです。もちろん、必ずしもこのシートを使う必要はなく、このシートにある内容を明確にできればOKです。

ロジックを作る前に設計する理由は、以下の2点です(それぞれが、シートのセクションと対応関係にある)。

まず、説得の目的が明確にならないことには、何も始められません。目的が不明確なまま作業にとりかかることは、ゴールを知らずにマラソンを走るようなものです。こうなることは絶対に避ける必要があるので、まずは目的を明確にします。今回の説得において、「主張に『イエス』と言ってもらう」とは、具体的にどういうことなのでしょう?

次に、最適なロジックやレトリックは、説得のコンテクストに応じて変わります。言い換えると、「相手や状況によって、適切な内容や伝え方は変わる」ということです。たとえば、幼児に話すときに、大人と同じようには話さないですよね。

ところが、資料を使う説得になると、どういうわけかこれができなくなります。よく考えずに、好みや慣習でロジックやレトリックを作ってしまうのです。

この兆候がもっともひどくなるのが、スライドパッケージ(PowerPoint)をメディアとして選択するケースです。たとえば、社内会議で上司を説得する状況で、意味のない写真やイラストを駆使したパッケージを作ってしまうのです。

これは上司に赤ちゃん言葉で話しかけるようなものです。しかし、私の経験上、新卒の社会人でこのミスをする人はかなりいます。大学と企業では説得のコンテクストが変わっていることに気づかないんですね。

このような事態を避けるために、作業に入る前にロジックとレトリックの方向性を定めるのです。

一旦ここまでにして、先に進みましょう。

説得のプロセス①:ブランドを形成する

説得のプロセス

説得の第1プロセスは、ブランドを形成することです。受け手から見た「あなたの位置づけ」を高める努力をするわけですね。具体的には、経歴を磨いておくことや、受け手と仲良くなっておくことなどがこれに該当します。

ブランド形成は、設計よりもさらに先行するプロセスです。その理由は、これが説得を成功させるための前提条件だからです。

どういうことでしょうか?

これは逆から考えると分かりやすいです。たとえば、私は過去に、あなたに対して嘘を3回もついているとしましょう。あなたは、このエントリーを真面目に読む気になるでしょうか? 答えはノーですよね。

このように、受け手との関係性が損なわれていると(=ブランドが毀損されていると)、どんなに素晴らしいロジックとレトリックを用意しようが意味はありません。最初から、受け手はロジックもレトリックも受け入れる気がないからです。当然、説得は失敗します(というより、説得させてもらえない)。

つまり、説得を始めるためには、受け手が説得を聞こうとするだけのブランドが必要になるのです。分かりやすく言うと、受け手が「この人の話を聞いてみるか」と思っている状態ですね。

当サイトでは、このレベルのブランドを「最低限のブランド」と呼ぶことにします。

あなたと受け手の間に最低限のブランドがあることは、具体的な説得プロセスを開始するうえでの前提条件です。この条件を満たせない場合、設計もへったくれもありません。いきなり説得の失敗が確定します。

Point

最低限のブランドを担保しておくことは、説得を成功させるための前提条件である

その意味で、このプロセスは「ブランドを形成する」というより「ブランドの毀損を避ける」と呼んだほうが本質に近いです。好かれていなくても、嫌われてさえいなければ、普通は話を聞いてもらえますからね。しかし、この表現は分かりにくいし、ブランドが強いに越したことはありません。そういうわけで「ブランドを形成する」という表記にしています。

ちなみに、このプロセスだけスライド上で違う色になっている理由は、時間軸がまったく異なるからです。

ブランドを形成する具体的な方法は次のエントリーで説明しますが、その多くは「日々、継続的に努力すべきこと」であり、短期間で達成できることはほとんどありません。「資料を作って会議をする」といった、1つの具体的な説得プロセスの間にどうにかなるものではないのです。

それでも、ブランドが説得の成功に重要であることに議論の余地はないため、色を変えてプロセスに組み込んでいます。

まとめ

以上、説得のプロセスを見てきました。もう一度、全体像を確認してください。

説得のプロセス

次エントリーから個々のプロセスを掘り下げますが、その前に大事なポイントを押さえてください。

上流プロセスでのミスを、下流プロセスで取り返すことはできません。川の上流が汚染されているときに、下流を掃除しても意味がないのと同じです。

これをプレゼンにあてはめると、以下のことが言えます。

  • ブランドが著しく毀損されている場合、どれだけ正しく設計して、完璧な資料を作っても、プレゼンは失敗する
  • 間違った設計に基づいたロジックとレトリックを作り込んでも、プレゼンは失敗する
  • 価値のないロジックをどれだけ優れたレトリックで包んでも、プレゼンは失敗する(=中身のないことを上手に伝えても意味がない)
  • 質の低い資料しか準備できていない場合、それを本番で補うことは難しい

特に、太字にした2つのポイントは、プレゼンが失敗する二大要因と言っても過言ではありません。

しかし、全体のプロセスを正しく理解していないと、設計からレトリックまでをざっくり「資料を作る」と捉えてしまい、問題の所在を間違えてしまうのです。設計やロジックに問題があるときにPowerPointにテコ入れしても、問題は解決しません。上流プロセスでミスをしていたら、そこまで戻るしかないのです。

Point

上流プロセスのミスを下流プロセスで取り返すことはできない

今後は、説得がうまくいかなかったときは、上流プロセスから疑ってください。川の汚染源を見つけて、それを取り除くのです。

以上、プレゼン(説得)作成のプロセスを説明しました。次はブランド形成を掘り下げましょう。以下のエントリーに進んでください。

また、プレゼン関係のエントリーは以下にまとめてあります。こちらも参考にしてください。