このエントリーでは、説得の構造(説得はどんな要素で構成されているのか)を解説します。
プレゼンテーションや文書など、私たちが学校やビジネスで時間をかけて作成する資料は、すべて説得(主張の正しさを認めてもらおうとするコミュニケーション)です。しかし、私たちが何によって説得されるのかは、意外と理解されていません。構造を理解することで、説得という行為の理解を深めていきましょう。
なお、エントリーの最後には関連動画も掲載してあります。動画が好みの方は、そちらも参考にしてください。
では始めましょう。
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説得の構造
早速ですが、以下のスライドを見てください。これが説得の構造です。
情報がてんこ盛りなので、順に見ていきましょう。
まず、説得する側のことを「説得者」、説得される側のことを「受け手」と呼ぶことにします。
説得者:説得する人
受け手:説得される人
説得者は原則として1人ですが、受け手は複数人になることもあるので注意してください。
このとき、説得者と受け手の間に起こる説得は、以下の3つの要素で構成されます。
- ロジック(What):何を伝えるか
- レトリック(How):どう伝えるか
- ブランド(Who):受け手は説得者をどう位置づけているか
詳しくは後述しますが、「ロジック」、「レトリック」、「ブランド」という言葉は説得を分析するためのネーミングです。一般的な意味とは少しズレているので注意してください。
本質的には、「説得はWhat、How、Whoの3要素で構成されている」ということです。しかし、WhatやHowという言葉は広く使われすぎていて、説得専用の言葉とするには紛らわしいですよね。以降は「ロジック」、「レトリック」、「ブランド」の3つを使います。
では、各要素を順に見ていきましょう。
説得の要素①:ロジック
「ロジック」とは、説得者が受け手に伝えていることです。これはそのままですね。
ロジック:伝えていること
ロジックは主張と根拠で構成されています。詳しくは後述するので、まずは例を見てみましょう。
プロポーズのロジック
プロポーズを例に、ロジックを具体的に説明します。
まず、プロポーズは明らかに説得です。『SAY YES』という名曲もあるくらいですからね。プロポーズは受け手に「イエス」と言ってもらおうとする行為、つまり説得です。
では、説得者は何に「イエス」と言ってほしいのでしょう?
知ってのとおり、プロポーズとは結婚の申し込みのことです。つまり、すべてのプロポーズは「結婚してください(あなたは私と結婚するべきだ)」に「イエス」と言ってもらおうとする説得です。
ここで太字にした部分が、プロポーズの主張です。これが、説得者が受け手に「イエス」と言わせたいことだからです。
すべてのプロポーズの主張は同じです。主張が「結婚してください」である説得を「プロポーズ」と呼ぶからです。プロポーズという説得は、主張によって定義されているわけです。
根拠はどうでしょうか。プロポーズの場合、根拠はさまざまです。
たとえば、「あなたが好きで、一生一緒にいたいから」というのは典型的な根拠ですね。「君を幸せにしたいから」のほうが受け手の立場に立っているので適切かもしれません。
太字にした部分がどちらも、「受け手が『イエス』と言うべき理由」になっていることを確認してください。このようなものが根拠です。
主張と根拠
先述のとおり、ロジックは主張と根拠で構成されます。以下のスライドを見てください。
このように、主張とは「受け手に『イエス』と言わせたいこと」で、根拠とは「主張が正しい理由」です。
主張:受け手に「イエス」と言わせたいこと
根拠:主張が正しい理由
なお、すべての主張で「正しいかどうか」が争点になるわけではないため、根拠に関しては「受け手が主張に対して『イエス』と言うべき理由」と解釈したほうがいいケースもあります。先ほどのプロポーズはそうですね。
また、根拠はロジックに絶対に必要ではありません。根拠がなくても、主張さえあればロジックとしては成立します。実際、プロポーズに根拠が必要不可欠かというと、そうでもないですよね。
一方で、主張はすべてのロジックに必要です。主張が見当たらない説得は、何に「イエス」と言わせようとしているのか分からなくなってしまい、説得という行為の定義から外れてしまうからです。
つまり、主張は説得の心臓です。説得する際には、必ず主張を明確にしてください1。あなたは、受け手に何を「イエス」と言ってほしいのでしょう?
主張は説得の心臓である
説得の要素②:レトリック
「レトリック」とは、ロジックの伝え方のことです。どの道具(音声、文字、表情や仕草など)を使い、どのように伝えるのか、ということだと考えてください。
レトリック:ロジックの伝え方
プロポーズのレトリック
引き続き、プロポーズで考えましょう。プロポーズには、どのようなレトリックがあるでしょうか?
「結婚してください」という主張を伝える方法はいくらでもありますよね。直接そのまま言葉にしてもいいし、何も言わずに指輪を渡しても伝わります。
YouTubeには、フラッシュモブ(公共の場でのゲリラパフォーマンス)などの趣向を凝らしたプロポーズが数多く投稿されています。興味がある人は「proposal」などで検索してみてください。レトリックの多様性が分かるはずです。
レトリックの要素
レトリックは、メディアとスタイルから構成されます。以下のスライドを見てください。
「メディア」、「スタイル」のどちらも、一般に使われている意味とは異なります。注意してください。
細かく見ていきましょう。
レトリックの要素①:メディア
「メディア」とは、伝え方の形式、及びそれに用いる装置のことです。
主なメディアを以下のスライドにまとめました。
たとえば、私はいま「文字」を使って、あなたにロジックを伝えています。たまに「スライド」も織り交ぜてありますね。スライドの中には、文字のほかに「図解」や「画像」が使われていることもあります。
メディアは入れ子構造になれるので、あるメディアの中にさらに小さなメディアが入ることに注意してください。
これらのメディアで包んだロジックを、私は「Webサイト(のブログエントリー)」という形式であなたに届けています。あなたは「パソコン」、「タブレット」、「スマホ」などで、私の説得を受け取っているはずです。
ここで太字にしたものは、すべてメディアです。かなり幅広いことをメディアと呼ぶことになりますが、私たちが日常的に触れているものばかりなので、感覚的には理解しやすいでしょう。
レトリックの要素②:スタイル
次に、「スタイル」とは、あるメディアでの表現の仕方のことです。広告業界などでは「トンマナ(トーン&マナー)」と呼ばれたりもしますが、当サイトでは「スタイル」で統一表記します。
何をスタイルとするかはメディアによって変わるので、メディアごとにスタイルの要素を考える必要があります。
本エントリーを例にとって説明しましょう。本エントリーは「文字」というメディアを主に使っているのは先述のとおりです。このメディアのスタイル要素は、以下のように整理できます。
- 文言
- 構成(結論先行、起承転結など)2
- 書きぶり(「だ・である調」or「です・ます調」、漢字 or ひらがな など)
- 文字の見せ方(正式には「タイポグラフィ」)
- フォント(文字のデザイン)
- 書体、文字の大きさ、文字の色(及び背景色)
- その他
- 縦書き/横書き、行間の大きさ、段組み、余白の大きさ
- フォント(文字のデザイン)
これらはすべてスタイル(の要素)です。これらが伝わり方に大きな影響を与えていることを確認してください。
たとえば、ここでスタイルを「だ・である調」に変えてみよう(こんなことは、普通は絶対にNGである)。印象が大きく変わるのが分かるはずだ。
このように、あるメディアにおいて伝わり方に影響を与えている要素は、すべてスタイルです。ここでは「文字」を例に説明しましたが、「音声」や「画像」というメディアにも、それぞれ固有のスタイル要素があります。どんなスタイル要素があるか、考えてみてくださいね。
説得の要素③:ブランド
最後に、「ブランド」とは、受け手から見た説得者の位置づけのことです。受け手が説得者に対して持っている思い(「好き」、「尊敬」、「信用できる」、「この人の言うことは聞こう」、など)を総合した概念だと考えてください。
分かりにくい場合は、シンプルに「受け手は、説得者のことが好きか嫌いか」と捉えても大きな問題はありません。
ブランド:受け手にとっての説得者の位置づけ
プロポーズのブランド
プロポーズは、ブランドを理解するための最適な事例です。
プロポーズが成功するかは100パーセント、ブランドにかかっています。プロポーズの成功条件は、受け手が説得者のことを「この人と結婚すれば幸せになれそうだ」と思っていることですよね。これは実際にプロポーズする際のロジックやレトリックでどうにかなる話ではありません。それまでの付き合いで培われた関係性が重要なのです。
先ほど、YouTubeにはプロポーズ動画がたくさんあるという話をしました。その動画で、プロポーズする人が別人になったと考えてみてください。まったく同じロジック、レトリックであっても、プロポーズは絶対に失敗しますよね。成功したら怖いです。
ブランドを形成するもの
ブランドを形成するのは、説得者そのものと行動履歴です。以下のスライドを見てください。
これは受け手の立場で考えると分かりやすいでしょう。あなたも、
- すごい人が(=スペック、外見、所作が優れた人が)
- これまで自分によくしてくれているほど(=自分に対してポジティブな行動履歴のある人ほど)
その人の話を聞こうという気になるはずです。このどちらかに、その人の中身(人格)が反映されますからね。
逆から考えた方が分かりやすいかもしれません。誰でも、不潔な人や、過去に自分にひどいことをした人の話を聞こうとは思いませんよね。そういう人が信頼に値するとは思えないからです。
先ほどのプロポーズは究極の例だとしても、内容や伝え方より、誰が言っているかが重要なケースは多いです。説得中に私たちがどうにかできるのはロジックとレトリックだけですが、ブランドも軽視しないようにしましょう。
まとめ
以上が説得の構造になります。全体像をもう一度確認しておきましょう。
- ロジック(What): 何を伝えるのか
- 主張
- 根拠
- レトリック(How): どう伝えるのか
- メディア
- スタイル
- ブランド(Who): 受け手は説得者をどう位置づけているか
- 説得者そのもの
- スペック
- 外見
- 所作
- 行動履歴
- 説得者そのもの
説得を成功させるためには、これらの要素を総合的に高めていく必要があるわけです。
そのためには、何を、どういう順序で行えばよいのでしょう? 次エントリーでは、具体的な説得作成のプロセスを学んでいきましょう。
また、プレゼン関係のエントリーは以下にまとめてあります。こちらも参考にしてください。