このエントリーでは、カタカナの使い方について説明します。
日本語の文章は、文中にある程度のカタカナが含まれているほうが読みやすいです(目安は5-10%)。しかし、カタカナ表記できる語句が限られているため、文中にカタカナを増やすことは容易ではありません。適切な用法の範囲内でカタカナを増やすには、どうすればよいのでしょう?
なお、このエントリーは「漢字・ひらがな・カタカナの使い分け」シリーズの第三弾です。時間に余裕がある人は、以下のエントリーから順に読んでください。
では始めましょう。
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カタカナの用法:全体像
まず、カタカナの用法は大別すると以下の3つです。
- 外来語や、外国人名・地名を書く
- オノマトペ(擬音語と擬態語)を書く
- カタカナの特殊な効果のために(漢字・ひらがなで書ける語句を)カタカナ表記する
最初の2つがカタカナの正式な用法で、3つめは特殊な使い方です(後述)。
それぞれ、文章にカタカナを増やす方法として使えるのか、順に検討しましょう。
カタカナの用法①:外来語や、外国人名・地名を書く
まず、外来語や、外国人名・地名はカタカナで書きます。これがカタカナの基本的な用法ですね。たとえば、「ベッド」はカタカナで書くしかありません。
カタカナの増やし方①:外来語を増やす
ということは、外来語を多用すれば(日本語を外来語に置き換えれば)、文中にカタカナが増えます(外国人名・地名を増やすのは現実的ではないので除外)。
たとえば、「多様性」のことを「ダイバーシティ」と言い換えれば、それだけでカタカナが増えますよね。
外来語を増やすべきか
この方法を採用するかは、以下の2点を検討しつつ、ケースバイケースで決めるしかありません。
- そもそも、読み手にどのような印象を与えたいのか
- 外来語を多用しても問題ない読み手なのか
どういうことでしょうか?
一般論として、文中に外来語が増えるほど、その文章は軽く、西洋かぶれている印象を与えます。例を見てください。
ここまでやると、読み手が「何を西洋かぶれているんだ」と不愉快になるリスクも高まります。また、単純に意味が通じないかもしれないし、ここまでカタカナが多いと読みやすくもありません。
これは極端な例ですが、文中にカタカナを増やすほど、クマ側に傾いていくことは確実です。自分がどういう印象を与えたいのか、読み手はどれくらい外来語を許容してくれるのかを考えましょう。
日本語を外来語に置き換えるべきか
特に、日本語でも十分通じる語句があるのに外来語を使ったときに、このリスクが顕在化します。先ほどの「多様性 → ダイバーシティ」は、これに該当するケースだと私は思います(つまり、やりすぎ)。
しかし、「ダイバーシティ」という言葉もチラホラ見かけるようになってきました。人によっては「ダイバーシティ」のほうが好ましいということなのでしょう。
以下に、最近見かけるようになった外来語をピックアップしました。従来の日本語とどちらがよいと思うか、考えてみてください。
外来語 | 従来の日本語 |
---|---|
リモートワーク | 在宅勤務 |
サステイナビリティ | 持続可能性 |
コンプライアンス | 法令遵守 |
見てのとおり、漢字はどうしても黒く・重たい感じになります。一方、カタカナなら8文字くらいでもパッと視認できますよね。カタカナにはこの優位性があるので、あらゆるシーンで外来語が増えています。この傾向はこれからも続くでしょう。
一旦まとめると、外来語に関しては「読み手のことをよく考えたうえで、外来語のほうが適切だと思うなら使う」以上のことは言えません。
外来語を使うかは、あくまでも「読み手にとって望ましいか」で判断する
カタカナの用法②:オノマトペを書く
カタカナの2つめの用法は、オノマトペ(擬音語と擬態語)を書くことです。例を見てください。
- 擬音語(音を発している)
- ワンワン(犬)
- ドカン(爆発)
- ビリビリ(紙)
- 擬態語(音を発していない)
- ズッシリと重い
- グッときた
- ピクピクしている
オノマトペをひらがなとカタカナのどちらで書くかは明確に決まっていませんが、カタカナは外来語とオノマトペにしか使えない1ことを考えると、カタカナ表記をオススメします。
カタカナの増やし方②:オノマトペを使う
ということは、(カタカナ表記の)オノマトペを使えば、文中にカタカナも増えるわけです。しかも、以下の2つのメリットもついてきます。
- 文章が感覚的に理解しやすくなる(オノマトペは感覚に訴える言葉なので)
- 文章にリズムが生まれ、読みやすくなる
一方、オノマトペのデメリットとして、多すぎると文章が稚拙で品がない印象になることが挙げられます。例を見てください。
なんというかこう、ネットリした感じになりますよね。こういう効果を狙いたいことは、実用文ではまずありません。
ただ、わざとでないかぎり、ここまでオノマトペが増えることはないでしょう。適切な頻度であれば、オノマトペの使用はメリットのほうが大きいと私は思います。使用を検討してみてください。
特に、ある程度の軽さが許容される文章(書籍や説明書など)では、オノマトペを使っても問題にはなりません。逆に、論文のように完全なフォーマルさを要求される文章では、オノマトペは避けるのが無難でしょう。
完全にフォーマルな文脈でないなら、オノマトペの使用を検討すべき
カタカナの用法③:特殊効果を狙ってカタカナ表記にする
最後に、カタカナによる特殊効果を狙って、漢字・ひらがなで書ける語句をあえてカタカナ表記するという用法があります。一般にカタカナ表記が自然なのはここまで紹介した2つ(外来語とオノマトペ)だけなので、これは裏技的な用法です。
カタカナによる特殊効果とは、大別すると以下の2つです。
- 強調され、浮かび上がる
- 印象が軽くなる
順に説明します。
カタカナの特殊効果①:強調され、浮かび上がる
まず、カタカナで書くことで、その語句が強調され、浮かび上がります。
これはシンプルに、ほかと異なるものは目立つからです。どう頑張っても、漢字・ひらがな・カタカナのうち、文章中の割合はカタカナが最小になります。つまり、カタカナは珍しいので目立つわけですね。
カタカナの増やし方③:キーワードをカタカナ表記する
ということは、キーワードをカタカナ表記することで、以下の2つのメリットを享受できます。
- キーワードが強調されることで内容が理解しやすくなる
- 読みやすくなる(文中にカタカナが増えるので)
これがカタカナを増やすうえで、もっともオススメの方法です。ここまで見てきたように、これ以外の方法はなんらかのリスクを伴いますが、この方法だけはノーリスクです。積極的に使ってください。
カタカナ表記のキーワードにしやすいのは、自分で新しく定義する言葉です。たとえキーワードであっても、すでに漢字での表記が定着している語句をカタカナにしても分かりにくいだけですからね。
たとえば、以下のエントリーでは説得の3要素(ロジック・レトリック・ブランド)をキーワードとしてカタカナ表記しています(カタカナ表記できるように外来語をあてた)。文章力とは無関係の内容ですが、時間のあるときに読んでみてください。
逆から言うと、自分で定義する言葉に漢字をあてるのは避けるべきです。特に、漢字が4文字以上連続する名詞は、それだけで読みにくい上に、重たい印象を与えます。
たとえば、少しずつ増えていく現象に名前をつけたいとして、それに「漸進的増加現象」のような名前をつけることは、まったくオススメできません。こんな語句を文中に何度も出すことは、自ら読みにくい文章にしているのと同じです。
自分で定義する言葉にカタカナを使うと読みやすくなる
ちなみに、この効果はアルファベットのアクロニム(例:XYZ)でも享受できます。カタカナをあてにくいときは、アクロニムにできないか考えてもよいでしょう。
カタカナの特殊効果②:印象が軽くなる
次に、カタカナで書くことで印象が軽くなります。これは例を見るのが分かりやすいでしょう。
漢字 / ひらがな表記・従来の日本語 | カタカナ表記・外来語 |
---|---|
借金 | ローン |
試験 | テスト |
流行(潮流) | トレンド |
大波 | ビッグウェーブ |
怪我 | ケガ |
椅子 | イス |
やばい | ヤバい |
えぐい | エグい |
どれも同じ意味ですが、カタカナ(外来語を含む)のほうが軽い感じになりますよね。オシャレさも加わるように思います。
なお、「ヤバい」や「エグい」に関しては、もはやカタカナ表記が主流といえます。若者言葉は軽さを求めてカタカナ表記になるのかもしれません。
カタカナの増やし方④:カタカナ表記にする
ということは、どんな語句であれ、カタカナ表記にすることで以下の2つの効果が生じます。
- 印象が軽くなる(場合によってはオシャレにもなる)
- 読みやすくなる(文中にカタカナが増えるので)
このうち、1つめの効果(印象が軽くなる)がメリットなのかデメリットなのかはケースバイケースです。もしメリットだと考えられる文章なら、カタカナ表記にしてもよいでしょう。
私の場合、「オススメ」と「テキトー(悪い意味で使うときのみ)」の2つは意識的にカタカナ表記にしています。理由は以下のとおりです。
- オススメ
- 漢字だと「お勧め・お薦め・お奨め」と3パターンもある上に、どれも読みにくい
- ひらがなだと「これはおすすめです」のようにひらがなが連続して読みにくいことがある
- カタカナにすることで「やってみてね!」くらいの軽さを演出できる
- テキトー
- 「適当」だと良い意味で使っているようにも見えて混乱する
- カタカナにすると軽くなり、「(悪い意味で)いい加減な」というイメージとフィットする
ただ、このようなカタカナ変換はやりすぎると「軽い」を超えて「浅い」感じになってしまうので、多用は厳禁でしょう。やるとしても、文中に2-3ワードまでに留めておくのが無難だと思います。
あえてカタカナ表記にすることで、軽さを演出しながら読みやすくできる
以上、漢字・ひらがな・カタカナの使い分けを考えました。正解があるような話ではないので、「どんな印象を与える文章にしたいか」を考えながら、いろいろと模索してみてください。
また、各種の文章力トレーニングは以下のリンクにまとめてあります。
参考文献
記者ハンドブック 第14版: 新聞用字用語集 日本語作文術Footnotes
-
後述するように、特殊効果を狙うならあらゆる言葉をカタカナ表記できますが、これは正式な用法とは言えません。 ↩