このエントリーでは、文章における漢字・ひらがな・カタカナの使い分けについて考えます。
なお、以下の2点を前提とするので注意してください。
- 対象は実用文(論文や仕事用メールなどの、事実に関することを伝える文章)である
- 実用文では、読みやすい語句・表記を優先すべきである
このあたりのことから勉強したい場合は、以下のエントリーから順に読んでください。
では始めましょう。
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漢字とひらがなの使い分け
まず、3種の文字のうち、カタカナには漢字・ひらがなほどの調整余地はありません。そもそも、カタカナで書ける語句が限られているからです。一旦カタカナは脇に置いて、漢字とひらがなをどう使い分けるかを考えましょう。
結論としては、ひらがなで問題ない語句は、すべてひらがなで書くのがオススメです。
まずは漢字とひらがなの違いを整理しましょう。以下の表にまとめました。
漢字 | ひらがな | |
---|---|---|
種類 | 表意文字 | 表音文字 |
読みやすさ | △:ひらがなには劣る | ◯:読みやすい |
誤読されるリスク | ×:ある | ◯:ない |
誤字を打つリスク | ×:ある(誤変換) | ◯:ほぼない |
文字数 | ◯:少なくなる | △:漢字よりは多い |
印象 | ◯:大人びている・フォーマル ×:堅苦しい | ◯:柔らかい・親しみやすい ×:幼い |
多すぎると | 読み手に圧迫感・威圧感を与え、読む気を失わせる | 稚拙な印象を与える(対象年齢が低いように見える) |
ここから分かるのは、実用文において、漢字を積極的に使う理由はないということです。
漢字は表意文字であり、知らなければ読めない・意味が取れないし、読み方が複数あることも普通です。これが読みやすさを損ない、誤読されるリスクを高めます。
表音文字であるひらがなには、この弱点がありません。よって、「読みやすい語句・表記を優先する」という実用文のゴールに照らすと、ひらがなを優先すべきなのです。
実用文では、漢字を積極的に使う理由はない
「漢字が多い文章が望ましい」は間違い
言い換えると、「漢字が多い文章が望ましい」という考え方は、実用文においては間違っているということです。
日本で生まれ育つと、「漢字が多い文章ほど高尚で、素晴らしいものだ」と考えてしまうものではないでしょうか。文豪と呼ばれる人たちの文章や、入試で読む評論文には多くの漢字が使われているからです。
先ほどの表にあるとおり、漢字がそのような高尚な印象を与えるのは事実です。しかし、実用文の目的は高尚な文章を書くことではなく、自分の意図を、分かりやすく読み手に伝えることです。そのためには読みやすい表記を優先すべきであり、その点で漢字はひらがなに劣ります。ここを間違えないようにしましょう。
それでも漢字を使う理由|漢字の量の目安
では、すべてをひらがなで書けばいいかというと、もちろんそんなに単純な話ではありません。
まず、日本語には慣習として「大人なら漢字で書かないとおかしい語句」があります。常用漢字で書ける名詞・動詞などですね。
たとえば、上の段落で「にほんごにはかんしゅうとして」と書いていたら、理屈抜きにおかしいでしょう。また、ここまでひらがなを増やすと単語の切れ目が認識できなくなり、文字としては読みやすくても、文としては読みにくい(意味が取りにくい)ものになります。
次に、漢字が少なすぎる文章は稚拙な印象を与えます。幼児向けの本を想像すると分かりやすいでしょう。そのレベルまで漢字を減らして、読み手に「ひょっとして大人向けの文章じゃないのかな」といった余計な心配をさせるべきではありません。
目安としては、「漢字30%、ひらがな70%」が読みやすい割合だと言われています。この数値の根拠は不明ですが、これくらいだと読みやすいのは私の体感的にも間違いないと思います。
ただ、こんな数値を気にしながら文章を書くことは不可能だし、実際に割合を計算することも現実的ではありません。また、パソコンで文章を書いているとSpaceキーを押すだけで変換できることもあり、意識しなければ文章中の漢字は増えてしまうものです。
このあたりのことを総合的に考えると、「ひらがなで問題ない語句は、すべてひらがなで表記する」という方針がシンプルで実践的でしょう。とにかく、読み手に「それをひらがなで書くのはおかしい」と思われない範囲で、漢字を減らせばよいのです。
ひらがなで問題ない語句は、すべてひらがなで書けばいい
漢字を「開く」
具体的に、どの語句をひらがなで書けばよいのでしょう?
業界用語で、漢字でも書ける語句をひらがなで書くことを「漢字を開く」と言います(逆は「閉じる」)。
以下に、開くべき漢字をまとめました。
印刷したい場合は、以下のボタンからPDFをダウンロードできます。
この表にある語句は、ひらがなで書いても読み手におかしいと思われることはありません。すべてひらがな表記にすることをオススメします。
この表の説明は長くなるので、次エントリーで説明します。先に全体像を整理しましょう。
カタカナの使い方
最後に、積み残しになっていたカタカナの使い方を考えます。
結論としては、読み手が不愉快にならない範囲で、できるだけカタカナを増やすことをオススメします。
カタカナの特性
まず、カタカナという文字の特性を整理しましょう。
カタカナはひらがなと同じ表音文字なので、読みやすく、誤読されるリスクがありません。
これに加えて、文章中にカタカナがあることで変化が生まれ、読みやすくなります。漢字とひらがなだけの文章より、適度にカタカナも含まれている文章のほうが明らかに読みやすいですよね。
ということで、ひらがなと同じく、カタカナも積極的に使いたい文字です。目安としては文章の5-10%くらいでしょうか。カタカナを増やすのはひらがなほど簡単ではありませんが、文章中にカタカナがほとんどないなら、増やす努力をしましょう。
ある程度はカタカナが含まれる文章のほうが読みやすい
ただし、カタカナを増やすことにもリスクはあります。代表的なのは、外来語を増やしすぎて「西洋かぶれている・気取っている」と読み手を不愉快にさせてしまうことですね。
これに限らず、カタカナの用法・効果ごとに、カタカナを増やす手法として使えるかを考える必要があります。詳しくは別エントリーで解説します。
まとめ
ここまでの内容をまとめると、実用文における3種の文字に対する考え方は以下のとおりです。
- 漢字:稚拙な印象を与えない範囲で、できるだけ減らす
- 漢字が文字の30%を下回ったら問題だが、大人向けの実用文でそんなことはまずない
- ひらがな:できるだけ増やす
- そのために、開く漢字(ひらがな表記しても問題にならない漢字)を覚える
- カタカナ:リスクを背負わない範囲で、できるだけ増やす
- 5-10%を目安に考える
では、次レッスンでは「開く漢字」を覚えましょう。以下のエントリーに進んでください。
また、各種の文章力トレーニングは以下のリンクにまとめてあります。