漢字の閉じ開き

このエントリーでは、漢字の閉じ開きについて説明します。

編集用語で、漢字でも書ける語句をひらがな表記することを「(漢字を)開く(ひらく)」といいます。反対(ひらがなを漢字にする)は「閉じる」ですね。セットで「漢字の閉じ開き」です。

実用文では、なるべく多くの漢字を開き、文中にひらがなを増やすべきです。このエントリーでは、開くべき漢字のリストと、その理由を説明します。

なお、このエントリーは「漢字・ひらがな・カタカナの使い分け」シリーズの第二弾です。時間に余裕がある人は、以下のエントリーを先に読んでください。

では始めましょう。

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開く漢字のリスト

早速ですが、開く漢字を以下にまとめました。

開く漢字のリスト①

開く漢字のリスト②

印刷したい場合は、以下のボタンからPDFをダウンロードできます。

なお、1枚目の上部にある「背景にある考え方・知識」は、冒頭で紹介したリンク先で説明しているため、このエントリーでの説明は割愛します。

漢字の開き方

リストの詳細の前に、実際に文章を書く際に、どのように開くべきかを説明します。

これを先に説明する理由は、上のリストを単語帳のように一つずつ覚えることはオススメしないからです。おそらく、そのようなアプローチでは文章は変化しません。少なくとも、私はうまくいきませんでした。

理由は以下の2点です。

  1. 文章を書いているときには、表記ではなく内容に意識が向かう
  2. パソコンではSpaceキーを押すだけで変換できるため、漢字の閉じ開きはほとんど無意識レベルで終わる作業である

つまり、事前にどれだけ開くべき漢字を覚えても、文章を書いているときにはそれを意識できず、これまでの自分の感覚に沿った表記になってしまうのです。

これ自体は、問題視することではないでしょう。文章で重要なのは表記より内容です。最初から表記に意識を向かわせるべきではありません。

書いた文章を検索・置換する

ただ、「それでいい」では文章が変化しないのも事実です。ではどうするかというと、書き終わってから開くことをオススメします。具体的には、以下のプロセスで進めてください。

  1. 書き終わった文章を用意する
  2. リストの中から開く語句(自分が漢字で書いているもの)を1つ選ぶ
  3. その語句で文章に検索をかける(Ctrl + F
  4. 該当箇所を見ながら、開くことで読みやすくなるかを考える
  5. 読みやすくなると思うなら、ひらがな表記で置換する

このやり方だと、内容から離れて表記に集中できます。また、私の経験上は、置換するときに「この漢字は開く」ということが強烈に記憶に刻まれるので、以降の執筆時には自然と開けるようになります。

注意が必要なのは、太字にした4番目のプロセスです。先ほどのリストはあくまで「一般に、開くと読みやすくなると言われている漢字」でしかありません。あなたの文章において開くことが最適かは、あなたが判断するしかないので、いきなり一括置換しないようにしましょう。

開く漢字

ここからは、どの漢字(語句)を開くべきかを説明します。

最初にざっくりしたガイドラインをお伝えすると、常用漢字で書ける名詞・動詞・形容詞以外は、すべて開きます。この3つだけは漢字で書かないと大人向けの文章としておかしな印象を与えますが、それ以外の品詞はひらがな表記しても問題にはなりません。

Point

常用漢字で書ける名詞・動詞・形容詞以外は、すべて開くと考えれば大体うまくいく。

以下、具体的な品詞を見ていきましょう。その品詞に特有の「開くべき理由」がある場合は、そちらもセットで説明します。

開く漢字①:接続詞

開くべき品詞その①は、接続詞です。主な例を見てください。

漢字ひらがな
但しただし
なお
又はさらに
例えばたとえば
従ってしたがって
故にゆえに

そもそも、接続詞はひらがな表記するのが一般的です。わさわざ漢字にしても仰々しい上に読みにくいだけなので、必ず開きましょう。

また、接続詞は文頭に来ることがほとんどです。文頭はひらがなのほうが読みやすいので、この点でも接続詞は絶対に開くべきです。

開く漢字②:副詞

開くべき品詞その②は、副詞です。主な例を見てください。

漢字ひらがな
全てすべて
全くまったく
最ももっとも
既にすでに
是非ぜひ
予めあらかじめ

副詞を開く理由は、副詞が修飾する動詞・形容詞を漢字で書くからです。あまり漢字が続くと読みにくいので、前に置かれる副詞を開くわけですね。

ただ、例外として音読みの副詞は漢字で書いたほうが分かりやすいこともあります。例を見てください。

  • 漢字がよさそう:少々、決して〜ない、一段と、非常に、無性に
  • 判断が難しい:早速・さっそく、結構・けっこう、多分・たぶん
    • このあたりは好みで選んで、表記を一貫することだけ注意する

なお、副詞を開くことに抵抗を感じる人もいるかもしれません(私は感じました)。ただ、開いてみると明らかに読みやすくなるので、まずは騙されたと思って開くことをオススメします。すぐに慣れますよ。

開く漢字③:形式名詞

開くべき品詞その③は、形式名詞です。形式名詞とは、実質的な意味を持たない名詞のことです。例を見るのが分かりやすいでしょう。

漢字ひらがな
〜する事〜すること
〜する物〜するもの
〜する所〜するところ
〜する時〜するとき
〜する上で〜するうえで
〜の通り〜のとおり

ここで漢字になっている名詞には、実質的な意味はありません。よって形式名詞は開きます(漢字だと実質的な意味があるように見える)。また、「〜」の部分には名詞や動詞が入るので、その点でも開いたほうが読みやすいです。

開く漢字④:補助動詞

開くべき品詞その④は、補助動詞です。補助動詞とは、主となる動詞をサポートする動詞のことです。これも例を見るのが分かりやすいでしょう。

漢字ひらがな
〜して行く〜していく
〜して来る〜してくる
〜して置く〜しておく
〜して見る〜してみる
〜して頂く〜していただく
〜して下さい〜してください

このように、補助動詞も形式名詞と同じく、漢字に実質的な意味がありません。よって開きます。

また、補助動詞は開く前にカットできないかを検討すべきです。たとえば、「XXして行きましょう」という表現は、開いて「XXしていきましょう」とするより、補助動詞そのものをカットして「XXしましょう」としたほうがスッキリします。

このように、補助動詞は口語的で冗長な表現になっているだけで、特に意味がないことが多いです。まずはカットできないかを検討しましょう。

開く漢字⑤:複合動詞

開くべき品詞その⑤は、複合動詞です。複合動詞とはその名のとおり、2語以上の動詞が複合してできた語句です。例を見てください。

漢字ひらがな
動き出す動きだす
動き回る動きまわる
動き過ぎる動きすぎる
動き続ける動きつづける

表の「動き」の部分を「歩き」、「飲み」などに置き換えてみてください。このようなものが複合動詞です。

複合動詞を開くかは好みの世界ですが、後ろの動詞を開くと読みやすくなることが多いです。

開く漢字⑥:副助詞

開くべき品詞その⑥は、副助詞です。副助詞とはさまざまな語句の後ろについて意味を添える助詞ですが、これも説明より例を見るのが分かりやすいでしょう。

漢字ひらがな
〜等〜など
〜位〜くらい
〜頃〜ころ
〜程〜ほど
〜迄〜まで

副助詞の前には名詞がくることが多く、名詞から副助詞までが漢字だと、語句の切れ目が認識しにくくなります。前の文も、「副助詞迄」となっていたら読みにくいですよね。副助詞は必ず開きましょう。

その他:連体詞、当て字など

ほかにも、連体詞や当て字など、開いたほうがよい語句は多々あります。詳しくは先ほどのリストを見てください。

練習問題

最後に、練習問題に取り組みましょう。ただし、先述のとおり、漢字を開くうえで練習問題を解くことはたいして有効ではありません。解き終わったら、自分の文章で実際に開くことを忘れないでください。

例題

次の文を開きなさい。

No.BeforeAfter
1従って、全ての選択肢の中で最も有力なのは、撤退して行く事だった。
2毎晩の様に飲み続けていたら、色々と身体が辛くなってきた。
3この度は、大変有難う御座いました。お礼の品をご査収下さい。

以下に解答欄があるので、答えを書いてください。

No.BeforeAfter
1従って、全ての選択肢の中で最も有力なのは、撤退して行く事だった。したがって、すべての選択肢の中でもっとも有力なのは、撤退することだった。
2毎晩の様に飲み続けていたら、色々と身体が辛くなってきた。毎晩のように飲みつづけていたら、いろいろと身体がつらくなってきた。
3この度は、大変有難う御座いました。お礼の品をご査収下さい。この度は、大変ありがとうございました。お礼の品をご査収ください。

※3問目は「この度」、「大変」も開けますが、ここまでやると一文がすべてひらがなになるのでやめておきました。

以上、漢字の閉じ開きについて説明しました。次はカタカナの使い方を考えましょう。以下のエントリーに進んでください。

また、各種の文章力トレーニングは以下のリンクにまとめてあります。

参考文献

記者ハンドブック 第14版: 新聞用字用語集