このエントリーでは、足し算の分解の切り口のうち、カテゴリー(質的変数)による分解を勉強しましょう。
なお、このエントリーは一連の「足し算の分解」の一部です。途中で分からなくなった場合は、以下のエントリーから順に読んでください。
では始めましょう。
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足し算の切り口②:カテゴリー(質的変数)
足し算の分解の2つめの切り口は、カテゴリーです。今度は表の下側ですね。専門用語では質的変数と呼ぶので、これも頭の片隅に入れておいてください。
カテゴリー(質的変数)とは
カテゴリーがどんなものかは、上の表を確認してください。
表の上側(量的変数)は切り方が数字で表現されている一方、下側(質的変数)の切り方は数字になっていません。場所や性別といった切り方は、すべて人間が考えたレッテル(分類)ですよね。このようなものがカテゴリーです1。
カテゴリー:人間が考えたレッテル(分類)
なお、一般的には「カテゴリー」という言葉に固有名詞は含まれませんが、分解の切り口として固有名詞を使うことはあるので、ここでの「カテゴリー」は固有名詞まで含めるとします。数字で表現できない切り口は、すべてカテゴリーであると考えてください。
実際のところ、固有名詞とはレッテルそのものなので、そう考えても何の問題もありません。たとえば、私たちの名前は「個体として識別するためのレッテル」ですよね(こう書くと冷たい感じになりますが)。
分解の具体例
具体例を見ておきましょう。ここでは、「どのような人が、この商品を買っているのか?」という論点を2つの切り口で分解してみます。
まずは、性別で分解してみましょう。以下のようになります。
- どのような人が、この商品を買っているのか?
- 男性か?
- 女性か?
次は、日本国内の居住地で分解してみましょう。
- どのような人が、この商品を買っているのか?
- 北海道の人か?
- 本州の人か?
- 四国の人か?
- 九州の人か?
- 沖縄の人か?
性別や地域というのは、人間が考えたレッテルで、数字では表現できませんよね。このような分解が、カテゴリーを切り口にした論点の分解です。
練習問題
ここまでの内容を、練習問題で確認しましょう。
以下の論点を、カッコ内で指定された切り口で分解せよ。
どんなスマホに人気があるのか?(OS)
以下に解答欄があるので、答えを書いてみてください。
- どんなスマホに人気があるのか?
- iOS(=iPhone)か?
- Androidか?
どんなスマホに人気があるのか?(メーカー)
- どんなスマホに人気があるのか?
- Appleか?
- ソニーか?
- サムスンか?
- その他のメーカーか?
主なカテゴリーの切り口
使用頻度の高いカテゴリーの切り口を見ておきましょう。ここでは、
- 場所
- 同一市場内のプレイヤー(自社と競合)
の2つを紹介します。
主なカテゴリーの切り口①:場所
まず、場所は基本中の基本です。具体的な切り方をいくつか見ておきましょう。
- 世界の地域(大州)2:アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、オセアニア
- アメリカは南北に分けたり、南極を加えるパターンもある
- 国:イギリス、フランス、スペイン……
- 日本の地域:北海道、本州、四国、九州、沖縄
- 本州はさらに細かい地域(東北、関東、中部……)に分解できるが、この分類の内訳(どの都道府県がどの地域に属するか)はコンセンサスがとれていない
- 地域を使う場合は中間の階層に使って、その下の「都道府県」まで分解したほうがよさそう
- 参考:日本の地域 - Wikipedia
- 本州はさらに細かい地域(東北、関東、中部……)に分解できるが、この分類の内訳(どの都道府県がどの地域に属するか)はコンセンサスがとれていない
どれも馴染みのある切り口(分類)のはずです。私たちは猿だったころから場所を移動して生活してきたわけで、「ここ」と「あそこ」の違いを直感的に理解しやすいのでしょう。場所は王道の切り口なので、必ず使いこなせるようにしてください。
主なカテゴリーの切り口②:同一市場内のプレイヤー(自社と競合)
次に、同一市場内のプレイヤーもビジネスで頻繁に使用する切り口です。自社がその市場に属している場合は、自社と競合のことです。具体例は以下のとおりです。
- 自社の市場:自社、競合A社、競合B社……
- 自動車市場:トヨタ、日産、ホンダ、メルセデス・ベンツ……
- 携帯電話市場(国内):ドコモ、au、ソフトバンク、楽天
- MVNOも含めるなら、もっと増える
これらの切り口で製品の品質や価格などを比較するのが、市場分析の基本です。
カテゴリーによる分解のポイント:網羅性を担保する
カテゴリーによる分解では、網羅性を担保することが重要です。言い換えると、漏れが出ないように分解しなければなりません。
これは数字の切り口と比較すると分かりやすいでしょう。数字の切り口では、漏れはまず出ません。誰でも「数字は0から無限大の範囲をとる」ということを知っているからです(「温度」などで分解するなら、負の数も含める)。たとえば、「年齢」や「年収」を切り口にするなら、0から始めてダブリがないように階級を決め、最大の階級を「X以上」としておけば、それで網羅性は担保されます。
これに比べ、カテゴリーの切り口で網羅性を担保するのは簡単ではありません。カテゴリーの切り口には、「これで完全に網羅的だ」と言い切る方法がないことが多いのです。先ほどの表を見てみましょう。
たとえば、一番下にある「種類」で果物を分解するケースでは、普通のやり方で網羅性を担保するのは不可能です。世の中には数え切れない果物があるので、どうやっても漏れが出ます。
また、あまりに細かく分類していては分かりにくくなってしまいます。ゴールはあくまで「上位の論点に答えること」であり、「正しく分解(分類)すること」ではありません。分解する数は、私たちが違いを把握できるレベルに抑える必要があります。
この数がいくつなのかは議論の余地がありますが、個人的には多くとも5-6つ程度にしておくべきだと思います。カテゴリーは数字と違って連続性がないので、数字で切る場合ほど分かりやすくありません。切り口も少なめにしておくのが安全です。
カテゴリーによる分解では、分解する数を分かりやすいレベルの数に抑えつつ、かつ網羅性を担保することが求められる
網羅性を担保するための秘密兵器:「その他」
ではどうするかというと、最後に「その他」を加えてください。これで網羅性を担保できます。
実際に、果物の分解で「その他」を加えてみましょう。
- 果物
- リンゴ
- みかん
- ぶどう
- その他
これだけで、分解が網羅的になりました。知ってのとおり、「その他」という言葉は「ある集合の中で、これまでに挙げられていないものすべて」という意味を持ちます。
つまり、「その他」という言葉は自動的に網羅性を担保してくれる、まさにマジックワードです。カテゴリーの分解では、100パーセント網羅的であると確信できる場合以外は、最後に「その他」を加えておくと安全です。
カテゴリーによる分解では、100パーセント網羅的であると確信できる場合以外は、最後に「その他」を加える
「その他」の亜種:Not A
ちなみに、「その他」も含めて全部で2つに分ける場合、つまり、具体的なカテゴリーが1つしかない場合は、「その他」は「Not A(Aはカテゴリー名)」としたほうが分かりやすくなります。数学で言うところの「補集合」ですね。具体例を見てください。
- 果物
- 甘い果物(A)
- 甘くない果物(Not A)
余談ですが、この二分法による言い回しは小説や映画などでもよく出てきますね。私が好きなものを紹介させてください。
「その他」の扱い
このように「その他」は便利なツールですが、扱いには注意が必要です。「その他」という概念は具体的に考えられないので、間違って重要な要素を「その他」の箱に突っ込んでしまったら、その時点でその分解は失敗が確定します。あくまでも、主要な要素は出し切った後で、最後に使うようにしてください。
以上、カテゴリーの切り口を説明しました。足し算の分解はこれで終了です。次はかけ算の分解を学びましょう。以下のエントリーに進んでください。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。