このエントリーでは、根拠の妥当性の検討方法を学びましょう。これは同時に、「批判」とはどういう行為なのかを理解することでもあります。
狭義のロジカルシンキングとは、「妥当な根拠の構築方法を学ぶ学問」だと言えます。当サイトではロジカルシンキングをもう少し広義に捉えていますが、それでも妥当な根拠を構築することが重要なのは変わりません。
妥当な根拠を構築するためには、「根拠の妥当性がどのように検討されるのか」を知っておく必要があります。ここが最初の一歩なので、しっかり押さえてください。
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主張が認められるには
まず、ロジカルシンキングにおける根拠の立ち位置を整理しましょう。以下の2点に要約できます。
- ある論点が存在するときに私たちが決めたいのは、「主張の是非(主張が正しいか)」である
- 主張の是非を判断するために、根拠の妥当性を検討する
例で確認しましょう。
家を買うべきだろうか、借りるべきだろうか?
借りるべきだと私は思うよ。
理由は3つある。まず、いまの日本で不動産を買うのは高値づかみになる可能性が高い。日本の人口はこれから減り続けるので、家はこれから余る一方だからね。逆に言えば、家賃は下がっていく可能性が高いのだから、それに合わせて家を借り替えるほうがいいんじゃないかな。
2つめに、(以下略)
ロジカルシンキングでは、「借りるべきだ」という主張に飛びつくことは禁止です。主張とセットで述べられる根拠を検討し、その妥当性に基づいて主張を受け入れるかを決めましょう。
ロジカルシンキングでは、根拠の妥当性を検討して主張の是非を決める
「根拠の妥当性を検討する」ということ
根拠の妥当性を検討するには、具体的に何をすればよいのでしょう?
最初に大まかなイメージを掴んでください。根拠の妥当性を検討するとは、建物の強度テストを行うことです。
以下のスライドを見てください。このように、ロジックとは文(言説)の建築だと捉えられます。
「根拠の妥当性を検討する」とは、この建築の緑色の部分(根拠)の強度テストをすることです。柱をハンマーで叩いてみたり、バズーカ砲を打ち込んでみたりするわけですね。それでも土台が崩れずに屋根(主張)が残っていたら、主張は正しいということです。
なお、上のスライドの詳しい解説は別エントリーで行っています。ここまでの説明がピンとこない人は、以下のエントリーを読んでから先に進んでください。
強度テストをする=批判する
もちろん、実際に根拠の妥当性を検討するときには、ハンマーやバズーカ砲は使えません。そこで何をするかというと、根拠を批判します。
根拠の妥当性を検討するためには、根拠を批判する
「批判する」とは、提示された根拠が本当に正しいのかを、自分で検討することです。根拠を盲目的に受け入れるのではなく、受け入れていいかを自分で再度考えるわけですね。要するに、根拠を疑うということです。
先ほどの例で確認しましょう。
家を買うべきだろうか、借りるべきだろうか?
借りるべきだと私は思うよ。
理由は3つある。まず、いまの日本で不動産を買うのは高値づかみになる可能性が高い。日本の人口はこれから減り続けるので、家はこれから余る一方だからね。逆に言えば、家賃は下がっていく可能性が高いのだから、それに合わせて家を借り替えるほうがいいんじゃないかな。
2つめに、(以下略)
ロジックを提示しているのはパンダなので、クマに根拠を批判してもらいましょう。
本当に日本の人口は減り続けるだろうか?
人口が減ると不動産価格や家賃が下がるという前提は正しいのか?
家を借り替えるときには敷金や礼金が必要になるわけで、それらを織り込んでも借りるほうが安いのだろうか?
たとえば、「人口が減ると不動産価格が下がる」ことは一般論としては正しいとしても、そもそも日本のすべての地域で一律に人口が減るわけではありません。都市部(たとえば東京)なら、人口の減少スピードは田舎ほどではなさそうですよね。となると、地域を絞り込まずに「日本の不動産はこれから値下がりする」というのは言い過ぎかもしれません。
今回は本当に「家を買うべきか、借りるべきか?」という論点を考えたいわけではないので、このあたりにしておきましょう。
ここで掴んでほしいのは、「批判する」という行為のイメージです。柱をハンマーでコンコンと叩いているところをイメージしてください。根拠の構成要素を順に疑うことによって、その正しさを検討している(根拠の強度テストをしている)のです。
批判する:提示された根拠が本当に正しいかを、自分で検討する
一人で考えるときにも批判する
上の例では分かりやすいように2人で議論するケースにしましたが、これは一人で考えるときでも同じです。ロジックが用意できたら、もう一人の自分にその根拠を批判させましょう。
根拠があなた自身の批判に耐え抜いたなら、ロジックとして他人に伝えていいでしょう。もし根拠が批判に耐え抜けないなら、①主張を変更するか、②別の根拠を探さなければなりません。こうやって主張と根拠をグルグル行き来することが、批判的に考えるということです。
余談ですが、日本で「ロジカルシンキング」と呼ばれているスキルは、英語では「Critical Thinking(批判的思考)」という名前です1。根拠を無条件に受け入れるのではなく、常に自分で批判的に検討する。これを繰り返すことで、より妥当な根拠を構築できるようになります。そうすることで、最終的に正しい主張を見つけようというわけです。
本来の「批判」に悪い意味はない
なお、ここでの「批判」という言葉には、ネガティブな意味は含まれません。「批判する」という行為はロジカルシンキングを実践するうえでどうしても必要なことであり、「あいつが気に入らないから、論破してやろう」といったネガティブな感情から行うことではありません。
言い換えると、根拠を批判することは当然の行為です。より妥当な根拠(および、それに付随する主張)に到達するためには、根拠を批判するしかありません。
ロジカルシンキングにおいては、批判は単なる作法であり、もっと言えば、純粋な知的好奇心から行うことです。誰かがあなたの根拠を批判したからといって、その人があなたのことを好きだとか嫌いだとか、そういう話にはなりません。
一部の人は、このことを誤解しています。「自分の根拠を批判してくる人間(結果として、自分の主張を否定してくる人間)= 敵」という構図になっているのです。そのせいか、一般的な意味での「批判」は、ほとんど「誹謗中傷」と同じニュアンスになっている、というのが私の印象です。これは本当に残念なことです。
このような心構えだと、もはや誰かと考えることは不可能です。根拠を批判できなければ、できることは主張の肯定/否定だけです。主張を肯定/否定するかは決断の話であり、「考える」という行為とは関係ありません。誰かと共に考えるためには、根拠を批判し、批判されることを当然のこととして受け入れる必要があるのです。
ロジカルシンキングにおいて根拠を批判することは当然の行動で、そこに人格攻撃的な意味合いはない
もちろん、現実では人格攻撃的な意図であなたのロジックを批判してくる人もいるのはたしかです。また、何でもかんでも批判していては、人間関係がこじれてしまうことも間違いありません。ときには批判をやめて、無条件に主張を肯定(=共感)したほうがうまくいくことも多いでしょう。
批判することが建設的な議論につながる相手・状況を選ぶことを忘れないでください。
妥当な根拠とは
話を進めましょう。ここまでに説明したとおり、根拠は常に、批判的な目線に晒されています。示された根拠が「その根拠で、主張していることを支えられるのか?」という目線に耐え抜ければ、晴れて主張が認められるわけです。批判に耐えられなければ、根拠が崩れ、主張は認められません。
ここから、「根拠が妥当である」ということの意味が明らかになります。妥当な根拠とは、批判に耐えぬける根拠のことです。批判に耐え抜けば、根拠は主張を支えられる。つまり、その根拠は妥当だったということなのです。
妥当な根拠とは、批判に耐えぬける根拠のこと
ということは、妥当な根拠を構築するうえでは、根拠を批判する方法を知ることがキーポイントになります。どんな攻撃が来るか分かっていれば、あらかじめ備えておくことができますよね。ハンマーで叩いても壊れない柱を立てるために、ハンマーの使い方を覚えましょう。
以上、根拠の妥当性の検討方法を説明しました。次回は具体的な批判の方法を学んでいきましょう。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
Footnotes
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本文中でも述べたとおり、“critical”の訳語である「批判」にはどうしてもネガティブなイメージがつきまとうので、それを嫌って名前を変えたのかもしれません。ただし、日本語でも「ロジカルシンキング」と「クリティカルシンキング」を別スキルとして扱う人もいます。 ↩