網羅的(MECE)な根拠とは|網羅性の決まり方

2018-08-16
Daisuke Shoka

このエントリーでは、根拠の網羅性・網羅的な根拠とはどのようなものかについて学びましょう。妥当な根拠を構築するためには、根拠の網羅性に関する理解が必須です。

なお、ロジカルシンキングの基礎から勉強したい場合は、以下のリンクを参考にしてください。

では始めましょう。

「網羅的」とは

妥当な根拠の3つの条件

まずは辞書的な意味を確認しておきましょう。辞書によると、「網羅」の意味は以下のようになっています。

そのことに関するすべてを残らず集めること。 「必要な資料を-する」

これまでに学んだ「客観的」、「普遍的」では、辞書的な意味とは違う、ロジカルシンキング用の定義を採用しました。しかし、今回はこのままの意味で問題ありません。つまり、網羅的であるとは、主張する際に必要な根拠をすべて集めていることです

Point

網羅的:主張する際に必要な根拠をすべて集めていること

具体例で確認しておきましょう。

B

X社とY社、どちらにポスターのデザインを発注するべきだろうか?

P

X社にするべきだよ。私の周りの1000人にアンケートした結果、600人がX社のデザインの方が好きだと答えたんだ。X社のデザインの方が優れていることは明らかだ。

B

なるほど、X社のデザインの方が優れていることは間違いないだろう。しかし、どちらの会社にデザインを発注するかは、デザインの質だけでなく、価格との兼ね合いで決める必要があるんだ。

パンダは「X社のデザインの方が優れている」ことだけを根拠にして、「X社にデザインを発注するべきだ」という主張をしています。しかし、クマは「デザインの質」という視点だけでは不十分で、「価格」という視点での検討が必要だと考えています。

つまり、クマは「パンダの根拠は網羅的ではない」と考え、結果としてパンダの主張を受け入れていないわけです。

このように、根拠の網羅性は、全体としての根拠に対して問われることです。これまでに学んだ客観性と普遍性は個々の根拠(根拠ブロック)にかかることなので、この点で根拠の網羅性は異質です。スライドで確認しておいてください。

妥当な根拠の3つの条件

次に、網羅的な根拠が妥当である理由を説明しておきます。といっても、これは逆から考えれば明らかでしょう。網羅的でない根拠とは、「その主張をするために検討すべきことの一部が検討されていない根拠」です。こんな根拠が妥当なわけがありませんよね。何かを主張したいなら、それを主張するために検討すべきことを検討する。これは当たり前のことです。

MECE

根拠の網羅性は、一般的なロジカルシンキングの本では「MECE」という言葉で紹介されます。

MECEとは、「漏れもダブりもない」という意味です。"Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive(相互排他的で網羅的)"の頭文字をつないだもので、「ミーシー」、「ミッシー」などと発音します。せっかくなのでこれも覚えてください。

Point

MECE:漏れもダブりもないこと

「漏れもダブりもない」とはどういうことか、まずはイメージを見てください。

MECEとは|網羅的な根拠とは

このように、ある問題(概念)を分解したときに、折り紙をハサミで切ったように分解できている状態が「MECE」です。

日本を分解する

具体例で、MECEとはどういうことかを確認しておきましょう。ここでは、「日本」という概念を地域で分解してみます。

まずは間違った分解から見てみましょう。

  • 日本
    • 北海道
    • 本州
    • 四国
    • 九州

さて、この分解は何が間違っているでしょうか? 考えてみてください。

この分解では、沖縄が漏れています。一般に、九州に沖縄は含まれません(含めるなら「九州・沖縄」と明示する)。これが分解の漏れです。

次に、以下の分解を見てください。これも間違っています。どこがおかしいでしょうか?

  • 日本
    • 北海道
    • 本州
    • 東京
    • 四国
    • 九州
    • 沖縄

この分解では、東京がダブっています。本州の中に東京が含まれますよね。これが分解のダブりです。

ということで、以下のように分解すればMECEになります。

  • 日本
    • 北海道
    • 本州
    • 四国
    • 九州
    • 沖縄

一旦、MECEに関してはここまでにしておきましょう。これだけではまだピンとこないかもしれませんが、ロジカルシンキングを実践する過程で徐々に理解できますので、今はざっくりしたイメージが掴めれば大丈夫です。

なお、「MECE」と「網羅的」には、実質的な違いはありません。もちろん、MECEには「ダブりがない」という意味が含まれるため、厳密には「MECE」は「網羅的」よりも狭い概念です。当然、ダブリのある根拠は望ましくないので、根拠はMECEであるべきです。

しかし、「網羅的」という言葉を使うときに、わざわざ「ダブりがあって網羅的」という意味でこの言葉を使う人はいませんよね。好きな方を使えばよいでしょう。当サイトでは、「客観的」、「普遍的」と語感を合わせるために「網羅的」を採用しました。

根拠の網羅性はどのように決まるのか

先に進みましょう。根拠の網羅性は、どのように決まるのでしょうか?

ここがキーポイントです。先述のとおり、根拠の網羅性が必要なことに議論の余地はありません。しかし、何をもって「網羅的」とするかはハッキリしないのです。言い換えると、何が「主張をするために検討すべきこと」なのかは、簡単には分かりません。

ポスターの発注先を網羅的に考えるには?

先ほどの例をひとひねりして、このことを確認していきましょう。

B

X社とY社、どちらにポスターのデザインを発注するべきだろうか?

P

X社にするべきだよ。

2社を「デザインの質」と「価格」の2点で比較してみたんだ

まず、デザインの質はX社の方が上だと言える。私の周りの1000人にアンケートした結果、600人がX社のデザインの方が好きだと答えたからだ。

次に価格だけど、これは両社ともに100万円で違いはない。値引きの余地もなさそうだ。

結論として、コストパフォーマンスに優れているX社を選ぶべきだ。

B

いや、今回の案件で一番大事なのは「納期」なんだよ。来週までにポスターを納品できるかどうかが最も重要なポイントだ。「デザインの質」だけでなく、「納期」も含めてパフォーマンスを考えてくれないと。

P

……それを先に言えよ。

この例では、「どの会社にポスターを発注するか?」という論点に対する根拠の網羅性に関して、クマとパンダの考えが分かれています。パンダは「デザインの質」と「価格」の2点が検討ポイントであると考えましたが、クマに「納期」という検討ポイントを後出しされてしまいました。2頭の間で、網羅性に対する認識にズレがあったわけです。

では、「納期」まで入れた3点であれば、常に「どの会社にポスターを発注するか?」という論点に対して網羅的なのでしょうか? そんなことはありません。簡単に思いつくだけでも、以下のような検討ポイントがありえます。

  • 細かい修正に対応してくれるか/修正に追加料金がかかるか
  • デザイン会社としてのこれまでの実績
  • 自社との取引履歴

他にも、検討ポイントはいくらでもあるでしょう。そして、そのすべてを出しきることは不可能です。単純に、「すべての検討ポイントを出し切った」と証明する方法がありません1。また、重要な検討ポイントをカバーしたなら、その時点で答えを出すことに注力すべきで、いつまでも考えるべきではないでしょう。

根拠の網羅性の決まり方

結論としては、何をもって「網羅的」とするかは、考える人の間で主観的に決まることです。分かりやすく言えば、「まあ、これだけ検討してあれば抜け漏れはないな」と、考えている人が思うかどうかです。何らかの客観的な理由によって決まるようなことではないので、誤解しないでください。

Point

どんな根拠が網羅的なのか(何が検討すべきことなのか)は、主観的に決まることである

ただし、これは「根拠の網羅性を担保するためにできることはない」という意味ではありません。たとえ根拠の網羅性が主観的に決まるとしても、これまでに先人たちが考えた「こういう風に考えれば、だいたい網羅的になる」という枠組み(これを「フレームワーク」と呼びます)がいくつもありますし、数学的な考え方が役に立つこともあります。このあたりはこれから勉強しましょう。

どうしたら網羅的な根拠が構築できるか

では、どうしたら網羅的な根拠が構築できるのでしょう?

結論を先に言うと、ロジックを作る前に、分解した論点の網羅性を担保するべきです。今回の例で、理想的に話が進んだケースを見てみましょう。

B

X社とY社、どちらにポスターのデザインを発注するべきだろうか?(論点の提示

P

選ぶ上での検討ポイントは何だと考えているの?(分解した論点の確認

B

①デザインの質、②納期、③価格、の3点かな。来週までにポスターを納品できることは絶対条件で、あとはデザインの質と価格のバランスで決めたい。(分解した論点と、意思決定の基準の提示

P

なるほど。調べてみるよ。

ここでのキーポイントは、最初のパンダの発言です。これまでの例では、パンダはクマの論点に対し、いきなりロジックを提示していましたよね。しかし今回は、ロジックを作る前に検討ポイントを確認しています。

検討ポイントとは、ロジカルシンキング用語で言うところの「分解した論点」です。つまり、パンダはクマに、論点を分解するように促しているのです。

論点を分解する

新しいキーワードが出てきたので、説明します。論点を分解するとは、ある論点を、さらに小さな論点の集合に分けることです

Keyword

論点を分解する:ある論点を、さらに小さな論点の集合に分けること

先ほどの例で確認しましょう。クマは論点を以下のように分解しています。

  • 大論点:X社とY社、どちらにポスターのデザインを発注するべきか?
    • 小論点①(デザインの質):X社とY社で、ポスターのデザインの質が優れているのはどちらか?
    • 小論点②(納期):各社は、来週までにポスターを納品することができるか?
    • 小論点③(価格):それぞれの料金はいくらか?

なお、「大論点」、「小論点」とは論点の関係を分かりやすくするための言葉です2。これからも使うので覚えておいてください。

Keyword

大論点:分解される側の論点/上位の論点

Keyword

小論点:分解された側の論点/下位の論点

話を戻しましょう。クマは「X社とY社、どちらにポスターのデザインを発注するべきか?」という大論点を、3つの小論点に分解しました。

そして、ここがポイントですが、論点を分解すると同時に、「この3つの小論点で網羅的だ(この3つの小論点に答えれば、大論点に答えられる)」と言っているわけです。検討ポイントが他にもある(小論点が他にもある)なら、クマがそれを言わないはずがありません3

これが「分解した論点の網羅性を担保する」ということです。論点を分解した段階で、すべての小論点に答えれば大論点に答えが出るようにしておけば、出来上がった根拠は自然と網羅的になります。

つまり、網羅的な根拠を構築するためには、論点を網羅的に分解すればよいのです。

Point

網羅的な根拠を構築するためには、論点を網羅的に(すべての小論点に答えれば大論点に対する答えが出るように)分解すればよい

では、どうしたら論点を網羅的に分解できるのか、ということが気になると思いますが、ここからとても長い話になるので、一旦ここまでにしておきましょう。

次のエントリーでは、妥当な根拠を構築する上での認知上の落とし穴について説明します。

なお、今すぐ論点の分解の続きが知りたい方は、以下のエントリーに飛んでください。ただし、学習の順序としてはジャンプします。

また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。


  1. 「すべての検討ポイントを出し切った」と証明するためには「もう検討ポイントは残っていない」ことを証明する必要がありますが、これは悪魔の証明なので不可能です。
  2. ちなみに、分解した論点が階層構造を持つ場合には、「中論点」という言葉を使うこともあります。他にも、中論点や小論点という意味で「サブ論点」という言葉を使うこともあるので注意してください。
  3. もちろん、クマが検討ポイントを見落としている可能性はありますが、今回はそれは考えません。