このエントリーでは、論点設定のプロセスを説明します。
論点設定はロジカルシンキングの起点であり、かつもっとも重要なプロセスです。ここで勝負が決まると言っても過言ではないので、しっかり押さえてください。
では始めましょう。
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論点設定とは
論点を設定すること(論点設定)は、ロジカルシンキングの第1プロセスです。
論点設定とは、「考えたい1つの問い(論点)」を決めることです。何を考えるのか不明確な状態で、ロジカルシンキングはできません。考えたい問いを1つに定めることから、ロジカルシンキングは始まります。
このあたりの話は、以下のリンクで詳しく説明しています。
論点設定の成果物とゴール
このプロセスの成果物は、当然ながら論点です。あなたが、「この問いを、これから本腰を入れて考えよう」と思える1つの問いが決まれば、このプロセスは終了です。
論点設定プロセスの成果物:論点
成果物が論点だとすると、どんな論点を選ぶことが私たちのゴールなのでしょう? 言い換えると、どのような論点を選ぶことができれば、「論点設定はうまくいった」と言えるでしょうか?
とりあえず、ここは「正しい論点を選ぶこと」としておきましょう。「『正しい論点』って、具体的にどういうこと?」というツッコミはごもっともですが、ここに関しては後述します。
論点設定のゴール:正しい論点を選ぶこと
論点設定と(狭義の)ロジカルシンキング
論点設定はロジカルシンキングとは別スキルとして扱われることもあるので、この点を補足します。以下のスライドを見てください。
このように、狭義のロジカルシンキングとは所与の論点に対する答えを正しく出すスキルのことで、正しい問いを設定すること(論点設定)はスコープに含めません。
こうなる理由は、論点設定は主観的・感覚的に行うしかない部分が大きいからでしょう(詳しくは後述)。つまり、論点設定はノウハウにしにくいのです。以前は、当サイトでも「論点設定はロジカルシンキングには含まれない」としていました。
ただ、現在はロジカルシンキングの第1プロセスとして論点設定を含めています。ロジカルシンキングをプロセスとして説明しようとすると論点設定を含めざるを得ないのと、「間違った論点を正しく考えても、意味はない」という、身も蓋もない話があるからです。
まだピンとこないかもしれませんが、この話は論点設定を学べば理解できます。とにかく、スキルとしての特性・重要性において、論点設定は以降のプロセスとは一線を画しているという点を押さえてください。
論点設定のプロセス:全体像
本題に入りましょう。論点設定はどのように行うのでしょう? 以下のスライドを見てください。
このように、論点設定は以下の順序で進みます。
- 問題を認識する
- 問題を評価する
- 問題を修正する
なお、スライドの下部にもあるとおり、実際にはこの順序どおりにプロセスが進むわけではありません。この中の複数のプロセスが同時に起きたり、順番が前後することは普通です。説明のために分けているだけなので、順番は気にしないでください。
問題と論点
ここから「問題」と「論点」の2つの言葉を多用するので、誤解のないように、ここで意味を明確にしておきます。
問題とは、問い(疑問文)のことです。問題解決の文脈では「問題」という言葉には違った意味があるのですが、今回はロジカルシンキングの文脈で話をしています。問題とは疑問文のことで、それ以上の意味はありません。
問題:問い(疑問文)
一方、論点とは、あなたが答えを出そうとする1つの問題のことです。こちらはすでに説明済みなので問題ないでしょう。
論点:答えを出そうとする1つの問題
つまり、論点とは、あなたが認識している問題(複数形)の中から、「これを解くべきだ」と選ばれた問題(単数形)です。
では、プロセスを順に見ていきましょう。
論点設定のプロセス①:問題を認識する
最初に、問題を認識する必要があります。ある1つの問題を「そういう問題があるな」と意識することですね。
原理的に、あなたに認識されていない問題は世の中に存在していないのと同じです。つまり、認識されていない問題は、絶対に論点にならないわけです。
ということで、問題を認識しないことには何も始まりません。これが「考える」という行為の、正真正銘、最初のプロセスです。
問題を認識するとは
具体例を見ておきましょう。おそらく、問題を認識する例として地球上でもっとも有名なエピソードです。
(ボトッ)
リンゴは落ちるのに、なぜ月は落ちてこないのか?
このように、ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て、「リンゴは落ちるのに、なぜ月は落ちてこないのか?」という問いを立てたと言われています。天才にもほどがありますね。知ってのとおり、この着想が万有引力の発見に繋がりました。
もちろん、ニュートンが歴史に名を刻んだ理由はこの問いを論点に設定して、正しく答えたからであって、問いを思いついたからではありません。しかし、問いを思いつかなければ、問いが答えられることもありませんでした。すべては、問題を認識することから始まったのです。
ちなみに、このエピソードはニュートンの天才性を強調するための作り話のようです(ズコー)。しかし、問題を認識する重要性を強調するエピソードとしては、本当によくできていますよね。
問題を認識するルート
問題を認識するルートは、大きく以下の2つに分かれます。
- 問題を発見する(自分で問題を認識する)
- 顧客から問題を提示される
ポイントは、あなたは、あなたが認識した問題を考えるとは限らないということです。これは重要なことです。
あなたは、あなたが認識した問題を考えるとは限らない
ニュートンの例を見ると、問題を認識することは天才だけの特権のような感じがするかもしれません。しかし、ニュートンの例は、「①問題を発見する」ルートの、さらにその一部である「発想する」という方法の究極です。誰もがあのような方法で問題を認識することを求められるわけではありません。
学校やビジネスでロジカルシンキングを行う場合は、「②顧客から問題を提示される」ルートで問題を認識することのほうが多いでしょう。
ここでの顧客とは「あなたと利害関係のある他者」のことで、分かりやすいのは学校の先生や職場の上司です。そういう人が、あなたに「これを考えろ」と指示をしてくることがありますよね。これも問題の認識ルートの1つです。
ということで、問題を認識するには様々なルート・方法があるのですが、一旦ここまでにして先に進みましょう。詳細は次エントリーで解説します。
このプロセスの成果物
このプロセスの成果物は、強いて言うなら論点の候補となる問いのリストです。ここでリストを作っておいて、次のプロセスで個々の問題を評価し、どの問題を論点にするかを決めるわけです。
ただ、実際はアイデアのメモや、ネタ帳といった形になるでしょう。頭が問題だけをスパッと認識してくれるとはかぎらず、以下のことがドバッと起こることも多いからです。
- 問題の認識
- 問題の評価(無意識的なレベル)
- 後のプロセスは、この評価を意識的に行うもの
- 問題に対する仮の答え(仮説・アイデア)の発想
私の現在のスタイルは「とりあえず思いついたことは何でもメモアプリに入れておく」というものです。このあたりは、しっくりくるスタイルを模索してください。
これは今後のプロセスにも該当しますが、論点設定は理屈通りには進まないため、中間成果物を気にする必要はありません。以降もプロセスごとの成果物を紹介しますが、参考程度に考えてください。
論点設定のプロセス②:問題を評価する
問題が認識できたら、次は問題を評価します。その問題が考えるに値するか(=論点にする価値があるか)を検討するわけですね。
当然ながら、認識したすべての問題を考えることは不可能です。そんなリソースがありません。あなたが考える問題は、考えるに値する問題だけに絞り込む必要があります。
これだと仰々しく聞こえるかもしれませんが、すでにあなたは問題を評価して、考えるに値しない問題を切り捨てる(=頭から追い出す)ことをしているはずです。誰だって、興味のないこと/どうでもいいことを延々と考えたりしませんよね。これも、ある種の問題の評価です(無意識的なレベルですが)。
ここでは、それを意識的にやるということです。認識した問題をふるいにかけて、考えるに値する問題を選び出すわけですね。
問題を評価するとは
では、問題を評価するとは、具体的に何をすることなのでしょう?
これは実際にやってみたほうが理解しやすいです。たとえば、以下の問題があるとします。
- 少子化を食い止めるために、日本政府は何をするべきか?
問題を評価するとは、この問題が考えるに値するかを検討することです。先に進む前に、あなた自身で、この問題は考えるに値するか、YesかNoを理由とセットで考えてみてください。
「少子化を食い止めるために、日本政府は何をするべきか?」という問題は考えるに値するか、あなたの意見を述べなさい。
以下に解答欄があるので、答えを書いてみてください。
問題の評価軸
さて、あなたの答えはどちらになったでしょうか。詳しくは後述しますが、問題の評価は主観的に行うしかないので、どちらを選んだとしても、それは正解です。
ただ、理由まできちんと述べようとすると、意外と難しかったのではないでしょうか。問題を評価したことがないと、どういう視点で問題を評価すればいいのか分からないですからね。以下に、問題を評価する際の主な評価軸(視点)を挙げておきます。
- 重要性:あなたにとって重要な問題か
- 緊急性:いますぐ答えを出す必要があるか
- 解決可能性①:答えがありそうな問題か
- 解決可能性②:自分が答えを出せそうな問題か
- 実行可能性:考えた解決策を実行して、現状を変えられそうな問題か(行動系の論点のみ)
- 競合性:同じ問題を論点にしている人がどれくらいいるのか
問題の評価は、これらの評価軸と、「どの評価軸を重視するか」という、あなたの価値観で決まります。
たとえば、「この問題を考えるべき。なぜなら、少子化は日本にとって重要な問題だから」という答えは、重要性を重視して問題を評価しています。
一方、「この問題を考える意味はない。私は有力な政治家ではないから、この問題にどんな答えを出そうと、その答えは実行されない。考えるだけ時間の無駄だ」という答えもありえます。この場合は、実行可能性を重視しているわけです。
このように、最終的な評価はあなたの価値観によって決まります。これが「問題の評価は主観的に行うしかない」ということの意味です。
「正しい」論点とは
ここまでくると、「正しい」論点とはどういう論点なのかが見えてきます。
冒頭で説明したとおり、論点設定のゴールは「正しい論点を選ぶこと」です。つまり、数ある問題の中から「正しい」問題を論点にできるように、問題を評価すればいいわけです。
しかし、先述のように、問題の評価はあなたの価値観に左右されます。つまり、「あなたにとってもっとも考えるに値する問題が『正しい』論点である」以上のことは言えません。
正しい論点:あなたにとって、もっとも考えるに値する問題
ただ、これだと「正しい」ということを言い換えているだけで、何の役にも立ちませんよね。「正しさとは、当人の価値観によって決まる相対的な概念である」なんて、戦争もののゲームやアニメじゃあるまいし、今さら言うことではありません。
正しい論点を選ぶ能力を上げたいなら、先ほど挙げたような評価軸を理解して、それに対する重み付けは妥当なのか(=価値観は大丈夫なのか)を検討するしかありません。正しさにスタンスをとる必要があるのです。デリケートな問題ではありますが、別エントリーで取り組んでみましょう。
このプロセスの成果物
このプロセスの成果物は、評価の結果によって変わります。
まず、評価の結果「この問題は考えるに値する」ということになれば、晴れて論点が決まります。つまり、成果物は論点です。この場合、次の「問題を修正する」プロセスに進む必要はありません。ロジカルシンキング全体の次のプロセスである、「論点を分解する」に進みましょう。
一方、評価の結果「この問題は考えるに値しない」となった場合は、論点にはしないわけですから、成果物はありません。強いて言うなら、「いま、自分がこの問題を考えるべきではないことに納得できた」という事実が成果物です。
ただ、この場合でも、即座にその問題を切り捨てるわけではありません。後述しますが、問題を修正すると、その問題の評価が変わることがあります。ということで、最後のプロセスに進みましょう。
論点設定のプロセス③:問題を修正する
問題を評価した結果「この問題は論点にすべきではない」となった場合でも、状況に応じて、問題を修正します。これは、興味・関心の領域は維持したまま、問題を考えるに値するものに変化させられないか模索することです1。
問題を修正する状況
問題を修正することになる状況と対策は、大きく分けて2つあります。
- 問題が曖昧すぎて評価できない → 問題を具体化する
- 問題が重要であることは分かるが、解決可能性/実行可能性が見えない → 問題を変化させる
順に説明します。ただし、このエントリーでは深堀りはしません。
問題を修正するパターン①:問題を具体化する
問題を具体化するとは、文字どおりの意味で、問題を評価に耐えうるレベルまで具体的に表現することです。
漠然とした問題意識から生まれた問題は、曖昧で何を考えたいのか分からないことがあります。そのような問題はそのままでは評価できないので、問題を具体化します。
例を見てみましょう。たとえば、以下の問題を認識したとします。
- 日本をもっといい国にするには、何をすればよいか?
この問題は、このままでは評価することができません。「いい国にする」という表現が曖昧で、何を考えたいのか分からないからです。主語もありませんね。つまり、この表現では、考えたいことが1つに定まらないのです。
ということで、もう少し具体化してみましょう。3パターンほど作ってみました。
- 日本がこれからも諸外国と友好的な関係を築いていくために、日本政府は何をすればよいか?
- 日本がこれからも経済成長していくために、私たちは個人レベルで何をすればよいか?
- 少子化を食い止めるために、日本政府は何をするべきか?
これらの問題は、どれも「日本をもっといい国にするには、何をすればよいか?」よりは具体的ですよね。これでもまだ曖昧な部分もありますが(例:「経済成長」はもっと具体化できる)、そのあたりはこれから勉強しましょう。
このように、ある問題を解釈の余地が残らないレベルまで表現しなおすことが、問題を具体化するということです。
問題を修正するパターン②:問題を変化させる
次に、問題を変化させるとは、問題を解決可能性/実行可能性がある形に再定義することです。
これは問題の具体化よりも難しいので、先に例を見てみましょう。先ほどの練習問題を思い出してください。
- 少子化を食い止めるために、日本政府は何をするべきか?
仮に、この問題を「実行可能性がゼロなので、考えるに値しない」と評価したとします(これ自体は主観的な判断)。
しかし、「あなたは少子化そのものには重大な関心があり、この問題をバッサリ自分の関心事から切り捨てることには抵抗がある」とさせてください。
このような場合に、問題を変化させる意義があります。
これは価値観も絡む話なので一概には言えませんが、一般論としては、解決可能性/実行可能性のない問題を論点にすべきではありません。考えた結果として何も変わらない問題を考えても、自己満足にしかならないからです2。
しかし、一見して解決可能性/実行可能性がゼロである問題が、あなたにとって重要であるケースがあります。このような場合、問題が重要なのは間違いないわけですから、スパッと切り捨てるのではなく、論点にできるような形で問題を捉え直す努力をします。この操作が、「問題を変化させる」ということです。
では、実際に問題を変化させてみましょう。
- 日本の少子化は、今後どのように推移すると考えられるか? その予測を受けて、私は今から何をするべきか?
こうすると、先ほどの問題にあった「実行可能性がゼロである」という問題点はクリアされましたよね。あくまでも引いた目線で少子化の将来予測をして、アクションは自分ができることを考えるわけです。これなら実行可能性があります。
ここでは、視点を変えるというテクニックで問題を変化させました。ほかにも、視座を引き上げるというテクニックでも問題を変化させられます。このあたりは追々勉強しましょう。
このプロセスの成果物
このプロセスの成果物は、修正した問題です。理屈の上では、修正した問題を再び評価することになりますが、実際は「修正がうまくいった」と思った時点で、問題の評価も終わっています。あまり気にしなくてよいでしょう。
以上、論点設定のプロセスを説明しました。次回から、各プロセスを深堀りしていきましょう。まずは問題を認識することからです。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。