このエントリーでは、ビジネスモデルとは何かを学びましょう。
マーケティングを学ぶ上で、「ビジネスモデル」という言葉を正しく理解することはとても重要です。マーケティングとは事業を考えることであり、事業の中心にあるのがビジネスモデルだからです。
つまり、ビジネスモデルとはマーケティングの中核をなす概念です。ここで始まりここで終わると言っても過言ではないので、きちんと整理しておきましょう。
なお、当サイトでは「事業」と「ビジネスモデル」は別の言葉です。ビジネスモデルは事業の一部(「事業」のほうが広い概念)として扱うので、時間に余裕のある人は以下のリンクを先に読んでください。
では始めましょう。
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ビジネスモデルとは
早速ですが、とりあえずビジネスモデルとは何かを見てください。事業における位置はここです。
ズームインしましょう。
このように、ビジネスモデルとは、価値が生まれ続ける仕組みのことです。「仕組み」の部分は「理由」と読み換えても構いません。
ただし、仕組みとして説明するのはハイレベルな部分のみで、オペレーションなどは含みません。このあたりの説明はまだピンとこないかもしれませんが、これから順に説明するので安心してください。
ビジネスモデル:価値が生まれ続ける仕組み
注意点
先ほどのスライドを掘り下げる前に、1つ注意点があります。
現在、「ビジネスモデル」という言葉はかなり多様な意味で使われています。事実上、「ビジネス」の同義語になっていることもあれば、当サイトにおける「事業」全体のことを「ビジネスモデル」と呼ぶこともあります。
さらに、意味がバラバラなので、その表現方法もバラバラです。有名どころだと、以下のものがありますね。
- ビジネスモデル・キャンバス
- ピクト図解
- 9セルフレームワーク
これらの表現方法や、その背後にある「ビジネスモデル」の定義については適宜補足します。まずは意味を揃えないことには話が始まらないので、一旦、頭の中にあった「ビジネスモデル」の意味はリセットしておいてください。
ビジネスモデル:大きな構造
話を戻して、先ほどのスライドを掘り下げましょう。再掲します。
まずは大きな構造を掴んでください。ビジネスモデルは以下の2つの要素で構成されています。
- コア(左半分):目の前の顧客に価値が生まれる仕組み・理由
- 集客システム(右半分):顧客が継続的にコアに流し込まれる仕組み・理由
ざっくり言うと、①1人の顧客に価値を提供できて、②そのような顧客が何人も見つかり続けるなら、その事業は長持ちしそうですよね。当サイトではここまでの内容を「ビジネスモデル」と呼ぶことにします。
順に見ていきましょう。
ビジネスモデルの構成要素①:コア
ビジネスモデルの1つめの構成要素は、コアです。
コアとは、目の前の顧客に対して価値が生まれる仕組み・理由のことです。これをビジネス用語で「価値創造(価値創造プロセス)」と呼びますが、この言葉も「ビジネスモデル」と同じくらい意味がバラついているため、当サイトでは「コア」を用いることにします。
(ビジネスモデルの)コア:目の前の顧客に対して価値が生まれる仕組み・理由
「価値が生まれる」とは
ここは大事なので、根本的なところから考えましょう。「価値が生まれる」とはどういうことなのでしょう? 以下のスライドを見てください。
このスライドに、「価値が生まれる」ということが描かれています。以下の3点を確認してください。
- 顧客には、解決したい問題・ニーズがある(図の吹き出し部分)
- その問題を、企業が商品を提供することで解決する(企業から顧客への流れ)
- その対価として顧客がお金を払っており、その金額(の総額)は企業が投下した資金より大きい(顧客から企業への流れ)
この一連の流れが、価値が創造されるプロセスです。このプロセスを通じて、顧客は満足し、企業には投下した資金よりも多くのお金が戻ってきました。
要するに、一連のプロセスを通じて、みんなハッピーになったということです。これをそれらしく言うと「価値が創造された」という表現になるだけなので、そんなに難しく考えないでください。
価値創造プロセスの具体例に関しては、以下のリンクで紹介しています。ここまでの説明でピンとこなかった場合は、こちらも参考にしてください。
コアの構成要素
コアの構成要素は以下になります。
- 顧客
- どんな問題・ニーズを抱えているのか?(顧客から出ている吹き出し)
- 商品とその流通(企業から顧客への流れ)
- 商品は何か? なぜその商品が顧客の問題を解決するのか?
- 商品は、どのようなルートで顧客の手に届くのか?
- 価格と支払い方法(顧客から企業への流れ)
- 商品の価格はいくらか?
- 顧客はどのような方法で料金を支払うのか?
スライドでも確認してください(図の左半分)。
なお、もしここで紹介した「問題・ニーズ」という言葉に馴染みがない場合は、以下のリンクを参考にしてください。
話を戻しましょう。上記の要素は、「事業」というより、「1回の取引」というレベルで必ず存在します。極端な例ですが、「親の肩をもんで、小遣いを500円貰う」という行為であっても、上記の要素はすべて存在します。確認しましょう。
- 顧客→親
- どんな問題・ニーズを抱えているのか?→肩がこっている
- 商品とその流通
- 商品は何か? なぜその商品が顧客の問題を解決するのか?→「肩をもむ」というサービス/これで肩こりが解消する(かもしれない)
- 商品は、どのようなルートで顧客の手に届くのか?→家のリビングで実施
- 価格と支払い方法
- 商品の価格はいくらか?→500円
- 顧客はどのような方法で料金を支払うのか?→現金を手渡し
このように、コアは経済活動の中心であり、どんな事業にも必ず存在します。言い換えると、コアが存在しない活動を「ビジネス」とは呼べません。だから「コア」なのです。
もっとも狭義な「ビジネスモデル」と図解
コアは1つのビジネス(経済活動)を説明するときの最小単位です。顧客、商品の流れ、お金の流れ、このうちどれか1つが欠けても、もうそれがどんなビジネスなのか分からなくなります。
言い換えると、もっとも狭義な「ビジネスモデル」とはコアだけのことです。これは当サイトの定義よりも狭い、もっとも狭義な「ビジネスモデル」の用法です。
この意味での「ビジネスモデル」、つまりコアは、図解で表現されることが多いです。コアというのは要するに「自社と顧客の間の、商品とお金の流れ」なので、図解というフォーマットにフィットしやすいのです。具体例を見てみましょう。
これはYouTube(r)のコアです。これを見るだけで、「YouTube(r)がどのようにビジネスをしているか」がざっくり分かることを確認してください。
たとえば、ビジネスのことを一切知らない人は、自分がお金を払わずにYouTubeを見ているにも関わらず、なぜ一部のYouTuberが大金持ちになるのか分からないはずです。そんな人に何が起きているのかを説明するのに、このスライドは役に立ちますよね。
このように、コアが分かりやすく表現できれば、その事業の概要が掴めます。
コアを図解で表現すると、事業の概要が掴みやすい
コア/図解の限界
一方で、この図解からは、それ以上のことは分からないことを確認してください。たとえば、この図解だけでは「YouTubeが事業として成功しそうか」は分かりません。以下のような問いに対する答えは、上のスライドには見当たらないですよね。
- 他メディアとの競争に勝てるのか:なぜ「楽しみたい、暇を潰したい」というニーズを持った顧客が、テレビなどではなくネット動画を見るのか
- ネット動画サイト間の競争に勝てるのか:なぜ、数あるネット動画サイトの中で、YouTubeが選ばれるのか
- 利益が出るのか:たとえサイトに視聴者が集まったとしても、サイトを運営する人件費やサーバー代よりも多くの広告収入が得られるのか
知ってのとおり、YouTubeはすでに成功しているので、これらの問いには答えがあり、それをYouTubeが見つけたということです。しかし、少なくとも上のスライドからは何も分かりません。
これがコア(引いては、図解で説明する狭義の「ビジネスモデル」)の限界です。プレイヤー間のモノの流れ(=矢印で表現できること)以外の情報をバッサリと切り捨てて分かりやすくなる一方で、これ以外の情報を含められないのです。
つまり、コアだけでは、その事業が中長期的に価値を生み続けるかは分かりません。コアで分かるのはざっくりした事業の概要だけです。
コアから分かるのは事業の概要だけで、その事業が価値を生み「続けるか」は分からない
ビジネスモデルの構成要素②:集客システム
ビジネスモデルの2つめの要素は、集客システムです。冒頭で説明したとおり、こちらの要素は「コアに顧客が流れ込む仕組み・理由」を説明する要素になります。
集客システム:コアに顧客が流れ込む仕組み・理由
コアが正しいものであれば、企業は目の前の顧客に価値をもたらせます。あとは、そのような顧客を何人もコアに流し込めれば、価値は生まれ続けますよね。これが集客システムの仕事です。
集客システムの構成要素
集客システムの構成要素は以下になります。
- 市場規模(上側の楕円の大きさ):商品が解決する問題・ニーズを有する(または有する可能性がある)人・企業は、どれくらい存在するか?
- 数:問題・ニーズを抱えている人・企業はどれくらいいるか?
- 強さ:問題・ニーズはどれくらい深刻なものか?(→客単価の指標になる)
- プロモーション(2つの矢印):顧客を獲得するために、どのような活動をしていくか?
- 新規顧客の獲得:問題・ニーズを抱えた顧客は、どのように私たちの商品を知り、買いたいと思うのか?
- リピート顧客の獲得:なぜ、どのように、私たちの商品を購入した顧客は、また商品を購入したいと思うのか?
これは魚釣りにたとえると分かりやすいでしょう。市場規模とは「池の中にいる魚の数」で、プロモーションは「魚を釣るための活動」です。無事に魚が釣れたら、それはコアに顧客が流し込めたということです。
順に見ていきましょう。
集客システムの構成要素①:市場規模
まず、市場規模とは、商品が解決できる問題・ニーズの大きさのことです。データがあれば金額で表されるものですが、本質としては金額ではなく問題・ニーズの大きさのことです。必要に応じて「潜在顧客規模」と読み換えてもいいでしょう。
市場規模:商品が解決できる問題・ニーズの(総体としての)大きさ
先述のとおり、これは池の中にいる魚の数です。言うまでもないことですが、魚がいない池に竿を放っても、絶対に魚は釣れません。池に魚がいること、つまり、十分な市場規模があることが、集客システムが機能するための前提条件です。
そして、ここがポイントですが、この池は商品を選んだ時点で決まってしまい、それを変えることは一企業には不可能です。
たとえば、食べ物は世の中のすべての人が必要とする一方で、水泳用のシリコンキャップを欲しいと思う人はそんなに多くないですよね。
そして、水泳をしていない人に「水泳をしよう」と思わせて、そこからさらに「シリコンキャップが欲しい」と思わせるのは、ほぼ不可能です。猛烈にお金をかければ不可能ではないかもしれませんが、そんなことをやっていたら採算が合いません。
このように、人や企業がどのような問題・ニーズを抱えるかは、一企業にコントロールできることではありません。それは人間の生物としての欲求や、世の中の流れ(マーケティング用語での「マクロ環境」)から決まることです1。
つまり、商品を決めた時点で、その事業の最大の売上は大枠として決まってしまうということです。別に「事業は大きくなければいけない」というルールがあるわけではないですが、大企業などでは、一定以上の事業規模が見込める企画しか通らないこともあるでしょう。そのような場合は、商品は慎重に選んでください。
その事業の潜在的な売上規模や、プロモーションが機能するかは、商品を選んだ時点で大枠としては決まってしまう
集客システムの構成要素②:プロモーション
次に、プロモーションとは、(コアを変えずに)顧客を獲得するためのあらゆる活動のことです。市場規模が池なら、こちらは魚を釣るための活動ですね。
プロモーション:コアを変えずに顧客を獲得するためのあらゆる活動
プロモーションの具体例は、以下のようなものです。
- 営業(セールス):人間によるプロモーション全般
- 広告:メディアの掲載スペースを購入し、そこに購買を促すメッセージなどを掲載する
- PR:メディアに商品に関する記事が掲載されるような努力をする
- 広告と違い、お金を払ってスペースを購入しない
- CRM:狭義には「既存顧客を管理するITシステム」のことだが、プロモーション全般を意味することもある
- その他:ダイレクトメールの送付、販促物の配布、SEOなど
このような活動は、どれもコアを変えずに顧客を獲得しようとする活動です。
ほかに「優れた商品を開発する」、「価格を下げる」といったことも顧客を獲得するための活動ですが、これはコアをいじっているため、当サイトにおける「プロモーション」だとは考えません。
上に挙げた活動は、どれも個別の専門家がいるくらい、それぞれ奥の深い活動です。当サイトでは今のところ解説する予定はないので、詳しくは別コンテンツを探してください。
「プロモーション」か「マーケティング」か
余談ですが、ここで定義した「プロモーション」と同じ意味で「マーケティング」という言葉が使われているケースがかなり多いので注意してください。当サイトでは「マーケティング」はもっと広い意味で使っていますが、世の中の主流はこの用法かもしれません。
これはおそらく、「プロモーション」という言葉によくないイメージを持っている人が一定数いるからでしょう。プロモーションというと、「顧客にグイグイ押し込んで買わせるための活動」と捉える人も少なくありません。一方、「マーケティング」にはそのようなネガティブなイメージはないですよね。実際、「プロモーター」と「マーケター」ではオシャレ感がかなり違うと思います(私見)。
このような背景もあり、置き換えが進んだのではないか、というのが私の見立てです。
とにかく、このあたりの話は、使う人の間で言葉の意味が揃っていれば問題ないでしょう。当サイトでは、顧客を獲得するための活動は、それがグイグイ押し込むものであってもなくても「プロモーション」と呼びます。特にネガティブなニュアンスもありません。
集客システムまで描けると
先ほど、「コアだけでは、事業の概要(事業として何をやるか)までしか分からない」という話をしました。集客システムまで描けると、つまり、ビジネスモデル全体が描けると、少し前進して、「理屈の上で、事業が長続きしそうか」が分かります。顧客に価値を提供する仕組みと、顧客を獲得し続ける仕組みができていれば、その事業は長続きしそうですよね。
逆に言うと、ビジネスモデルで分かるのはそこまでです。
本当の意味で事業が長続きするかは、このモデルを実現する泥臭い作業(=動力)や、競合に勝てる理由(=差別化要因)まで検討し、結果を見ないと(=会計)分かりません。事業の全体像を確認してください。
ビジネス「モデル」ですからね。モデルとして分かりやすくする以上、このあたりが限界です。
ということで、ビジネスモデルが描けたからといって、それが事業の健全性を示すわけではないので注意してください。むしろ、ビジネスモデルはネガティブチェッカーとして使うべきでしょう。ビジネスモデルが描けない、つまり、以下の2つの問いに対する答えが用意出来ないなら、その時点でアウトです。
- なぜ、どのように、目の前の顧客に対して価値が生まれるのか?
- どのように顧客を獲得し続けるのか?
長続きしそうな理屈すら用意できないなら、実際に長続きするはずがありません。
「ビジネスモデル」の定義
最後に、「ビジネスモデル」の定義の話に戻りましょう。結局、私たちが知りたいのは「本当の意味で、事業が長続きするか」であることがほとんどなので、当サイトの「ビジネスモデル」ではそこまでカバーできません。
よって、もっと「ビジネスモデル」の定義を広くしようとする考え方も生まれるわけです。たとえば、冒頭で触れた「ビジネスモデル・キャンバス」では、上にある事業のスライドのうち「差別化要因」以外の要素を、9つのセルに表現します。
ただ、「ビジネスモデル」の守備範囲を広くするほど、今度は分かりにくくなります。実際、私は「ビジネスモデル・キャンバス」が分かりやすいとは思えません。まとめなくていいものを強引に1つのアウトプットにまとめた結果、かえって分かりにくくなっている印象を受けます。興味がある人は調べてみてください。
つまり、「ビジネスモデル」の定義を広くとるほど、「本当の意味で、事業が長続きするか」という目的に近づく一方で、分かりにくくなって使い勝手が下がります。逆もまた然りです。図解は事業の概要しか分かりませんが、分かりやすさ、使い勝手は抜群ですよね。
結論としては、目的に応じて、「ビジネスモデル」の定義と、その表現方法を使い分けるということです(月並みですが)。
私としては「モデル」である以上は分かりやすさを重視すべきだと考える一方で、集客システムがないことで失敗する事業が多い印象だったので、当エントリーで述べた範囲を「ビジネスモデル」としました。当サイトの定義が正しいというわけではないので、そこは注意してください。
以上、ビジネスモデルについて説明しました。次は、ビジネスモデルのコアの典型的なパターンを学びましょう。お勉強的な内容です。
また、マーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
参考文献
Footnotes
-
つまり、市場規模というのは「集客システムが機能するか」を考えるときの論点ではあっても、そこに対して企業ができるアクションはありません。市場規模が足りないなら、「コアの設計を間違えたので、事業撤退するしかない」という結論が出ます。その意味で、この要素はコアに含めるべきで、集客「システム」の一部と呼ぶのもおかしいかもしれません。 ↩