マクロ環境とは|ビジネスにおける意味

2019-11-22
Daisuke Shoka

このエントリーでは、マクロ環境とは何か、それがビジネスにどのような意味を持つのかを学びましょう。

マクロ環境とは要するに世の中のことであり、すべてのビジネスの土台です。ビジネスでは買い手や競合、つまり、市場にばかり焦点が当たりがちですが、マクロ環境がビジネスに及ぼす影響を正しく理解しておかないと、思わぬところで足をすくわれることになりかねません。扱う概念が大きいため抽象的な話が多いですが、頑張ってください。

では始めましょう。

マクロ環境とは

まず、「マクロ環境」という言葉を定義しましょう。以下のスライドを見てください。

マクロ環境とは

このように、「マクロ環境」とは、市場の外部環境のことです1。世の中のすべてから、市場を引いたものだと考えてください。

Keyword

マクロ環境:市場の外部環境(= 世の中 − 市場)

ただ、こんなことを言われてもよく分からないですよね。私たちにとって馴染みがあるのはスライドの右側にある「市場」の方なので、まずはそちらから考えていきましょう。

市場(ミクロ環境)とは

当サイトでは、「市場」を「ある問題を抱える買い手と、その問題を解決する売り手が形成する領域」と定義します。スライドの右側を確認してください。

マクロ環境とは

このように、売り手は商品を通じて買い手の問題を解決し、その対価として報酬を受け取ります。この取引が行われる場が「市場」です。また、ここでの「問題」は「ニーズ」と読み換えても構いません。

Keyword

市場:ある問題を抱える買い手と、その問題を解決する売り手が形成する領域

なお、この定義は一般的な「市場」の定義(商品をやりとりする領域)より広義ですので注意してください。詳しくは別エントリーで解説しているので、上記のような市場の定義に馴染みのない人は、以下を読んでから先に進んでください。

ミクロ環境

さて、ここで「ミクロ環境」という言葉をフォローしておきます。

ミクロ環境とは、ここまで述べた「市場」の同義語です。マーケティングの教科書などで、マクロ環境の対立概念として市場を述べるときに使われる言葉です2

ただ、この言葉を使う必要はないでしょう。ビジネスでは「市場」が圧倒的に普及しています。わざわざ分かりにくい言葉に言い換える理由がありません。私も教科書でしか見たことがなく、実務で使ったことはありません。

マクロ環境

話をマクロ環境に戻しましょう。今度はスライドの左側を確認してください。

マクロ環境とは

市場の外には、世の中が広がっていますよね。これがマクロ環境です。先述のとおり、世の中から市場を引いたものだと考えてください。

実用上は、「マクロ環境」とは「世の中」という言葉の言い換えであると考えて問題ありません。どんな市場も、世の中全体から見れば米粒みたいなものだからです(「世の中 − 市場 ≒ 世の中」)。「世の中」だと一般的すぎて分かりにくいので、ビジネスの文脈で世の中を考えるときには「マクロ環境」という言葉を使うだけです。

マクロ環境の特徴

では、そのように定義されるマクロ環境は、どのような特徴を持っているのでしょう? まずは以下の2点を押さえてください。

  1. マクロ環境はよく分からない
  2. マクロ環境は変化する

どちらも、「マクロ環境」を「世の中」に置き換えれば、正しいことは明らかでしょう。

まず、世の中のすべてをよく理解するのは不可能です。「世の中」は概念として大きすぎて、人間の認知の限界を超えています。もう少し小さい概念にしないと、人間には扱えません。もし「私は世の中をよく分かっている」なんて言う人がいたら、その人は神様か嘘つきでしょう。後者である確率が極めて高いです。

言い換えると、「世の中」では大きすぎてよく分からないから、企業は「市場」という小さいモノを定義するのです。詳しくは先ほどのリンクをご参照ください。

次に、世の中は変化しています。こちらの説明は不要でしょう。20年前にはまだ誰もスマホを持っていなかったことを考えると、隔世の感がありますね。

Point

マクロ環境とは、よく分からないモノであり、かつ変化する

もちろん、この「よく分からない、変化するモノ」をなんとか理解しようというのが、これから考えていくことです。ただ、そもそもの出発点として「マクロ環境を完全に理解・予測することは不可能である」という前提を押さえておかないと、色々とおかしなことになります。詳しくは後述しますので、とりあえず先に進みましょう。

マクロ環境とビジネス

さて、そんな分かりにくいマクロ環境が、ビジネスに破壊的なインパクトをもたらすことがあります。すべてのビジネスは世の中を舞台にして行われるからです。以下のスライドを見てください。

マクロ環境とビジネス

このように、マクロ環境が変化すれば、それに応じて、その中にある市場や、そのKFS(Key Factor for Success/市場での成功要因)も変化せざるを得ません。世の中の流れに逆らってビジネスはできないということです。

最も分かりやすい例は言うまでもなくコロナ(covid-19)ですね。これによって世の中の全ビジネスが変化を余儀なくされたと言って問題ありません。

ただ、コロナはビジネスどころか社会そのものを変えてしまった関係で、事例としてかえって分かりにくい部分があります。コロナ前から進行していた具体例があるので、それを見ていきましょう。

消えゆくコンパクトデジカメ市場

とりあえず、以下のスライドを見てください。

コンパクトデジカメ市場の推移

このように、コンパクトデジカメ(以降、「コンデジ」と表記します)市場はピーク時から97%も縮小しています(台数ベース)。これはもう、「コンデジ市場は消滅した」と言っても過言ではないレベルです。

こうなった原因は知ってのとおり、スマホに高性能カメラが搭載されるようになったからです。グラフを見るかぎり、2011年(iPhone 4S発売)あたりでスマホがコンデジの完全な代替機になってしまった感じですね。

スマホはコンデジの競合か?

ではここで、先ほどのスライドを確認してください。

マクロ環境とは

ここで質問です。スマホメーカーは、コンデジメーカーの競合でしょうか? 言い換えると、スマホメーカーとコンデジメーカーは同じ市場に属しているのでしょうか?

現在(2021年)においては、答えは明らかに「イエス」です。どう考えても、スマホがコンデジの需要を食っているわけですからね。自分たちの売上を奪う企業を「競合」と呼ばないわけにはいきません。

実際、スマホとコンデジは明らかに違う商品ですが、両方とも「写真を撮影したい」という問題(ニーズ)を解決できます。買い手としては問題さえ解決すればいいわけですから、買い手の中でスマホとコンデジは競合します。

あとは知ってのとおりで、この2つを比較した場合、普通の人にはコンデジを選ぶ理由がありません。

スマホには他にも解決できる問題が山ほどあり、現代人のマストアイテムです。つまり、ほとんどの人にとってコンデジとは「スマホに加えて、コンデジまで買う必要があるか?」という検討のされ方をする商品であり、もはや競合していると言っていいのか怪しいレベルです。

しかも、純粋なカメラとしてこの2つを比較しても、撮影してから簡単にネットにアップできる分、スマホの方が優れているとすら言えます。画質は素人目には差が判別できないレベルになっていますし、そもそも画質を追求する買い手(プロカメラマンなど)はデジタル一眼レフを買います。

結局、コンデジは買い手に訴求できるポイントが何も残っていません。この結果が、先ほど見てもらった急速な市場縮小です。

このように、同じ問題を解決できるのであれば、買い手はその手段(商品)を問いません。つまり、実態としては「コンデジ市場」というものは存在せず、「『写真を撮影したい』という問題を解決する市場」があるだけです。長すぎて分かりにくいので、以降は「写真市場」と表記しますね。

いつからスマホはコンデジの競合になったのか?

では、次の質問です。写真市場において、いつからスマホ(携帯電話)はコンデジの競合になったのでしょう?

この質問に厳密に答えることは困難ですが、少し考えてみましょう。

最も早いタイミングは、最初のカメラ付き携帯電話(京セラ VP-210)が発売された1999年でしょうか。これより前のタイミングでは、「写真を撮影したい」という問題は、カメラだけが解決できるものでした。ただし、当時のカメラ付き携帯の画質はとてもカメラと比較できるようなものではなく、まだまだ「携帯とカメラは別物」という意識が主流だったように思います。データを見ても、この時点からコンデジの出荷台数は急成長していますしね。

最遅のタイミングは、明らかに2007年でしょう。初代iPhoneが写真市場をターゲットにしていたのは明らかです。実際、コンデジ市場の衰退は、iPhoneの発売をきっかけに始まっています。グラフを再掲しておくので確認してください。

コンパクトデジカメ市場の推移

ここでは厳密なタイミングを考えたいわけではないので、このあたりにしておきましょう。とにかく、コンデジから見ると、どこかのタイミングでマクロ環境からスマホ(携帯電話)が写真市場に殴り込んできて、市場がすっかり様変わりしてしまった、ということです。

マクロ環境とビジネスの関係

写真市場の例は、新しいテクノロジーの出現によって市場が変化するケースでした。テクノロジーが市場を変化させる事例だと、他には馬車が有名ですね。自動車というテクノロジーの出現で、馬車市場は消滅しています。次はおそらく、自動運転車と配車アプリが自動車市場を激変させるでしょう。

テクノロジー以外にも、マクロ環境の変化が市場に影響を及ぼすケースはいくらでも考えられます。以下の例を見てください。

  • 戦争が始まってビジネスができなくなった
  • 外国と日本の関係が悪化し、売上が激減した
    • 輸出制限や、観光客の減少など
  • 天災に見舞われ、ビジネスどころではなくなった
  • 若者がターゲットのビジネスをしていたが、少子化のため、どう頑張っても売上が増えない
  • 老人がターゲットのビジネスをしており、高齢化のおかげで、最近は儲かって仕方がない

ここで太字にした要因は、どれも「市場」に含めるようなものではありません。すべてマクロ環境に属するものです。それらがビジネスに大きなインパクトを与えていることを確認してください。

ここがポイントです。マクロ環境という、よく分からない、コントロールしようがない要因が、ビジネスのすべてを変えてしまうことがあるのです。

Point

マクロ環境の変化が、ビジネスを根本から変えてしまうことがある

これをイメージで表現したのが、先ほどのスライドです。もう一度確認してください。市場やKSFは、マクロ環境からの圧力に応じて変化するしかありません。

マクロ環境とビジネス

これは要するに、マクロ環境はビジネスの前提だということです。

与えられた前提を無視して、数学の問題を解くことはできませんよね。同じように、マクロ環境というビジネスの前提を無視してビジネスをすることは不可能なのです。マクロ環境には従うしかありません。

言い換えると、ビジネスの成否は世の中の流れが決めるということです。世の中の流れに乗ったビジネスは成長して、流れに取り残されたビジネスは消滅します。

もちろん、選んだ市場の中で競合を上回る努力をすることも重要です。しかし、それ以前に、その市場が世の中の流れに合っていなければどうしようもありません3。とにかく頑張る前に、どこで頑張るかを慎重に選ぶ必要があるわけです。

Point

ビジネスの根本的な成否は、マクロ環境によって決まる

どうすればいいのか

ここまでの話をまとめてみましょう。要するにこういう話でした。

  1. マクロ環境(世の中)はよく分からない
  2. 全部がよく分からないままではビジネスのしようがないので、企業は「市場」というものを定義して、その中にあるものを日常的な思考・行動の対象としている
  3. しかし、根本的にビジネスの成否を決めているのはマクロ環境である

結局、企業はマクロ環境を考えることから逃げられないということです。マクロ環境はよく分からないモノですが、かといって分かりやすい市場のことばかり考えていると、いつの間にかマクロ環境が変化して、市場ごと吹っ飛ぶことになりかねません。

しかし、そうは言っても、企業が集中してリソースを注ぐのは市場であることは変わりません。市場の中でビジネスをしないことには売上も利益も上がりませんからね。世の中の未来にばかり思いを馳せているわけにはいかないのです。

ではどうすればいいのかと言うと、マクロ環境の未来を予測しながら、市場を再定義し、ビジネスをマクロ環境に適応させていくしかありません

市場のエントリーで述べたように、ビジネスにおける市場の仕切り線は、何度でも引き直しが可能です。世の中の変化をいち早く察知して、市場が受ける将来的な影響を予測し、それに応じて自社のビジネスを修正し続ける必要があるのです。もちろん、「ビジネスの修正」の中には事業撤退も含まれます。

では、その意思決定は、誰が、どのように行うべきなのでしょう? このことをしっかり考えておかないと、マクロ環境と市場のリソース配分が上手くいきませんよね。

それで、この問いを丁寧に考えてみると、俗に言うPEST分析(マクロ環境分析)の問題点が浮かび上がってくるのですが、ここからがまだ長いので、このエントリーはここまでとします。

以上、マクロ環境とは何か、それがビジネスにどのような影響を及ぼすのかを説明しました。続きは以下になります。

また、マーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。


  1. なお、マーケティングでは「外部環境」という言葉を「自社の影響力が及ばない環境(つまり、自社以外のすべて)」という意味で使う人たちも存在します。ここではそのような意味ではなく、単に「市場の外側」という意味で使っているので注意してください。
  2. なお、ミクロ環境を「企業が統制可能な環境」と定義して、なぜかそこに買い手や競合が含まれる考え方も存在します(マクロ環境は「企業が統制不可能な環境」とされる)。しかし、現実的に企業が統制可能なのは自社だけなので、このような定義の仕方は無意味でしょう。このあたりの定義のややこしさもあるので、とにかく「ミクロ環境」という言葉は使わないことをオススメします。
  3. 厳密には企業が選ぶのは市場ではなくビジネスモデルですが、話の流れ的な分かりやすさを重視して「市場」と表記しています。