このエントリーでは、プレゼンテーションにアニメーションを使うべきか、使うとしたらどのように使うべきかを説明します。
これは簡単には答えが出せない問題で、検索してもさまざまな意見が見つかります。つまらない結論を先に言ってしまうとケースバイケースなのですが、その「ケースバイケース」をどのように判断するべきかを考えてみます。
では始めましょう。
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アニメーションの効果
まず、「必要/不要」という判断の前に、アニメーションの効果を整理しておきましょう。アニメーションを使うと、結果として何が起こるでしょうか?
とりあえず、おそらく世界でもっとも見られたであろう、アニメーションを使ったプレゼンを見てください。
これは現在の「スマートフォン」という概念が世の中に発表された瞬間です。いまや歴史の1コマですね。忙しい人のためにこのエントリーと関係ある部分から始まるようにしましたが、時間に余裕があるなら最初から見てください。それだけの価値があるプレゼンです。
話を戻しましょう。アニメーションの効果というのは、大別すると以下の3つです。
- 受け手をプレゼンのペースに同調させられる
- プレゼンに動きが生まれて、賑やかさを演出できる
- リソースがかかる(これは「効果」というより「結果」)
このうち、③は明らかなデメリットですが、①と②はメリットなのかデメリットなのかも含めて考える必要があります。
順に見ていきましょう。
アニメーションの効果①:受け手をプレゼンのペースに同調させられる
まず、アニメーションを使うことで、受け手をプレゼンのペースに同調させられます。
当たり前ですが、スライドに掲載されている情報を一瞬で話すことはできません。そして、人間が何かを理解するスピードは、「聞く」よりも「見る(読む)」のほうがはるかに速いです。
よって、アニメーションを設定せず、スライドの内容をすべて一気に見せると、受け手はあなたのスピーチより先に進んで、自分でスライドを読もうとします。悪く言うと、プレゼンを聞かなくなるわけですね。
アニメーションを設定すると、これを防げます。これから話すところだけを順次見せるようにすれば、受け手は先を見ることはできません。
先ほどのプレゼンでも、「実は3つではなく、1つにまとまっています」というオチが先に見えていたら、まったく面白くありませんよね。スピーチと同じタイミングでそのオチが明らかにされるから、あそこまで盛り上がるのです。
なお、この効果を得るためには、資料を事前配布していないことが前提となります。資料が受け手の手元にある場合は、アニメーションの有無に関わらず受け手は手元の資料を見ると考えてください。
受け手をプレゼンのペースに同調させるとは
受け手をプレゼンのペースに同調させるということは、プレゼンターが強い主導権を持つということです。プレゼンターが話を進めるまで、受け手は先が分からないわけですからね。
この行為が受け手に与える印象は、以下のように両面的な言い方ができます。
- 良く言うと:スポットライトが当たっている、キラキラしている、力強い
- 悪く言うと:ドヤっている、オラついている
どちらも正しいことは、先ほどのプレゼンから明らかでしょう。
プレゼンターが強い主導権を持つべきか
では、私たちはプレゼンターとして、強い主導権を持つべきなのでしょうか?
ここで以下の引用を見てください。
要するに、ビル・ゲイツはこう言っています。
「私が知りたいことをもっとも分かっているのは私だ。だから君は自分から話さずに、私が聞いたことにだけ答えなさい」
私の経験上、組織の偉い人というのは、おおむね似たような考えだと想定して問題ありません(ビル・ゲイツほど振り切れてはいないにせよ)。
これの意味するところは、立場が上の人に対するプレゼンでアニメーションを使うと、その人をイラつかせる可能性が高いということです。「私の知りたいことだけ、さっさと話せ」と思っている人を、下の立場のあなたが自分のペースに従わせるわけですからね。
このリスクは、アニメーションのあらゆるメリットを帳消しにして余りあるものです。よって、受け手の立場があなたより上である場合、アニメーションは使わないのが無難です。実際、社内会議でのアニメーションの使用を禁止している企業もあります。
自分より立場が上の人に対するプレゼンでは、アニメーションは使わないのが無難
もっと言うと、受け手の立場があなたより上であるケースでは、本番のプレゼンに比重を置かないほうがよいでしょう。下手をするとビル・ゲイツのように「プレゼンはしなくていいから、資料を見せろ」と言われる可能性もあるわけですからね。資料を作り込むことにリソースを使うべきです。
逆から言うと、アニメーションを使い、主導権を握ってもいいのは、プレゼンターであるあなたが強い立場であるときだけです。先ほどのスティーブ・ジョブズがいい例ですね。あの時点でジョブズのプレゼンは神格化されており、あそこにいる聴衆はすべてジョブズのファンと言っても過言ではありません。もはや「プレゼン」というより「ショー」なのです。
このように、受け手と自分の関係性に注目すると、適切な判断ができるでしょう。
アニメーションの効果②:賑やかさを演出できる
アニメーションの2つめの効果は、プレゼンに動きが生まれ、賑やかさを演出できることです。これは「animate(動きを与える)」という言葉の意味そのものなので、説明は不要でしょう。
ただ、普通の人はこの効果の恩恵を受けることはありません。ほとんどの人は、社内会議や営業、研究発表といった「真面目なコンテクスト」でプレゼンをします。先ほどのiPhoneの発表会のような、大人数を相手に盛り上げる必要がある状況でプレゼンはしませんよね。
真面目なコンテクストでは、動きの大きなアニメーションを使って賑やかさを演出する必要はありません。そんなことをしても「ふざけてるのかな」と思われるだけです。アニメーションを使うとしても、そこに求めるのは先述の「受け手をプレゼンのペースに同調させる」効果のみです。
よって、使うアニメーションは以下の2つで十分です(名称はともにPowerPointにおけるもの)。
- フェード:コンテンツがフワッと浮かび上がる
- アニメーションの中でもっとも落ち着いているので、基本はこれだけで十分
- ワイプ:コンテンツが一定方向に流れながら出現する
- プロセスや矢印のような「方向があるコンテンツ」は、こちらのほうが分かりやすい
この2つは、使ってもうわついた感じになりません。
(普通の人は)アニメーションで賑やかさを演出する必要はない
もちろん、あなたが大人数相手の商品発表会などをするなら、この限りではありません。どういうトーンでプレゼンをしたいのかを考えると、正解が見えてくるはずです。
アニメーションの効果③:リソースがかかる
最後に、アニメーションにはリソース(時間とエネルギー)がかかります。言うまでもなく、アニメーションを設定するにも、それに沿った事前練習をするにも時間とエネルギーが必要ですよね。
これは「すごく大変」というほどのリソースはかかりませんが、無視できるほど小さくもありません。スライド上でアニメーションを設定するのはたいした手間ではありませんが、アニメーションに沿ってプレゼンできるようになるまでのリソースが大きいのです。
アニメーションを設定していなければ、スライドを進めるたびに次のスライドが映るので、それをチラ見しながらスピーチを紡いでいけます1。ところが、アニメーションを設定していると、映るのはせいぜいタイトルまでです。これでよどみなくプレゼンするには、それなりに事前練習が必要になります。
このリソースを正当化できるかは、ケースバイケースとしか言えません。ただ、間違いなく言えるのは、アニメーションで変わるのは「伝え方」であり、「伝える内容」ではないということです。
プレゼンというのは、まずは中身がなければ勝負になりません。中身がないのに伝え方にリソースをかけることは、あらゆるケースで正当化できないことです。このあたりの話は以下のリンクも参考にしてください。
別の見方をすると、何度も繰り返すプレゼンでは、アニメーションにかけるリソースを正当化しやすいです。一度リソースをかけて伝え方を改善すれば、そのリターンを何度も受けられますからね。
このように、どれくらい(「伝える内容」ではなく)「伝え方」にリソースをかけられるかというのも、アニメーションの使用を判断するうえでの1つの視点です。
アニメーションのガイドライン
ここまでの内容を受けて、アニメーションの使用ガイドラインを考えてみましょう。
まず、判断の軸として出てきたのは以下の3つでした。
- 受け手との関係性
- プレゼンで演出したいトーン
- 「伝え方」にかけられるリソース
これを踏まえて、いくつかの典型的なケースにおけるガイドラインを考えてみました。以下のとおりです。
- 社内会議:アニメーションは不要
- あらゆる観点から、使う理由が見当たらない
- 営業:キースライドで使うことを検討してもいいのでは
- 力強い感じがあったほうが信頼される(こともあるだろう)
- 社内会議ほど、こちらが完全に下ということもない
- 扱う商品によるが、一般的には繰り返す
- セミナー:キースライドで使う or 全部使う
- こちらの立場が強い
- 繰り返す
これが正解だと言うつもりはないので、実践では先ほどの3つの判断軸に照らし合わせて判断してください。
以上、プレゼンにおけるアニメーションの使用について考えてみました。最後に宣伝ですが、資料作成やプレゼンに関する詳しい説明を、以下の書籍で行っています。第1巻は無料ですので、興味がある方は読んでみてください。
Footnotes
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プレゼンは受け手のほうを見て話すのが基本なので、スライドをずっと見てはいけません。 ↩