このエントリーでは、「明瞭」と「具体的」という言葉の違いを考えます。
一般に、説明や文章は「具体的であること」が望ましいとされます。これはたしかに正しいのですが、ここでの「具体的」とは「明瞭」と解釈したほうが適切なケースがほとんどです。このエントリーでは、ここを整理しましょう。
toc
全体像
まずは以下のスライドを見てください。それぞれの意味をイメージで表してみました。
このように、「明瞭」と「具体的」という言葉は、それぞれの対義語とセットで捉えるのがオススメです。
主なポイントを以下の表にまとめました。
曖昧 vs 明瞭 | 抽象的 vs 具体的 | |
---|---|---|
形容していること | 表現(ある内容をどう伝えるか) | 内容そのもの |
実用文での方針 | 明瞭さを目指す | 両方をセットで述べることを意識する |
順に説明します。
横軸:曖昧 vs 明瞭
まずは横軸(曖昧 vs 明瞭)から始めましょう。これは「文章・語句が表している意味が1つに定まるか」の対立です。意味が1つに定まるなら「明瞭」、そうでないなら「曖昧」ですね。
左下の写真が分かりやすいでしょう。ピントが合っていないので、イチゴのようにも見えますよね。このようなボンヤリした状態が「曖昧」です。
明瞭:意味が1つに定まるさま
曖昧:意味が1つに定まらないさま
言葉における事例も見てください。
この曲、マジでヤバいから聴いてみてよ
マジでヤバいね
よくある普通の会話ですが、文面からはこの曲が「素晴らしい曲」なのか「悪い曲」なのか、それとも「珍しい・特徴的な曲」なのか分かりません。
こうなる原因は、「ヤバい」という言葉が曖昧だからです。以下のとおり、「ヤバい」という形容詞は「普通ではない(標準から外れている)」という意味なら、あらゆる意味で使えます。
曖昧 | 明瞭 |
---|---|
ヤバい | 優れている |
悪い・劣っている | |
危険である | |
体調が悪い |
右側の表現のほうが明瞭である(解釈の余地が小さく、意味が1つに定まる)ことを確認してください。
どのように使い分けるか
では、2つの表現をどのように使い分けるべきでしょう? 以下の表を見てください。
曖昧な表現 | 明瞭な表現 | |
---|---|---|
解釈の余地 (定義) | 大きい | 小さい |
誤解されるリスク | 高い | 低い |
語感・耳触り | 良い・ユルい | 良くはない・固い |
印象 | 非公式で、親近感がある | 公式で、わきまえている |
結論として、実用文では明瞭な表現を目指します。実用文では、書き手の意図する意味をできるだけそのままの形で受け手に伝えることが絶対条件です。つまり、「誤解されるリスク」を最小化することがもっとも重要なので、曖昧な表現を選ぶ理由はありません。
実用文では明瞭な表現が望ましい
一方、文芸(小説や詩)なら、あえて曖昧な表現にして読み手の解釈に委ねるケースもあるでしょう。自分が書いている文章のタイプによって使い分けてください。以下のエントリーが参考になります。
縦軸:抽象的 vs 具体的
次は縦軸(抽象的 vs 具体的)に進みましょう。これは一言では説明しにくいため、以下の表にまとめました。
抽象的 | 具体的 |
---|---|
本質だけを抜き出す | 詳細までを捉える |
一般的・普遍的(ほかに転用できること) | 個別的(特有のこと) |
ズームアウトしている(カメラを引いている) | ズームインしている(カメラを寄せている) |
これらが「抽象的」・「具体的」という言葉の違いです。スライドを参考に、言葉よりもイメージで捉えてください。たとえば、同じ「ラズベリー」でも、写真はそのすべてを細部まで捉える(具体的である)のに対し、イラストは特徴だけを抜き出しています(抽象的である)。
ポイントは、この2つは表現ではなく、内容を形容する言葉だということです。先ほどの「曖昧・明瞭」は表現(ある内容をどう伝えるか)を形容する言葉でしたが、今度は内容そのものを形容しています。この違いを意識してください。
どのように使い分けるか
では、この2つはどのように使い分ければよいのでしょう? 結論としては、使い分けるのではなく、セットで述べることがオススメです。以下の表を見てください。
抽象的な内容 | 具体的な内容 | |
---|---|---|
理解しやすさ | 理解しにくい | 理解しやすい |
有用性 | 高い(ほかに転用できるから) | 低い(ほかに転用できないから) |
注意点 | 具体例をセットにするとよい | 抽象化したメッセージを添えるとよい |
このように、抽象的な内容は有用であっても分かりにくく、具体的な内容は分かりやすくても有用性がありません。セットで述べることで、お互いの欠点を補えます。
例を見てみましょう。
実用文では、常に明瞭な表現をこころがけましょう
ちょっと抽象的すぎて分からないので、具体的に説明してください
たとえば、「体調がヤバい」という表現だと、「絶好調」なのか「体調が悪い」のか、よく分かりませんよね。このような曖昧な表現を避け、最初から「絶好調」や「体調が悪い」を使うべきだということです。
なるほど
具体例を添えたことで、抽象的なメッセージ(「実用文では、常に明瞭な表現をこころがけましょう」)の内容が分かりやすくなったことを確認してください。
実用文(特に論説文)では、抽象的なメッセージに具体例を添えると、内容が理解しやすくなる
「具体的」の用法
最後に、「具体的」という言葉は表現に対して使われることもあるので注意してください。むしろ、そちらの用法のほうが多いかもしれません。
表現に対して使われる「具体的」は、「明瞭(意味が1つに定まる)」と同じ意味だと考えて問題ありません。
同じように、「抽象的」という言葉が「表現が曖昧」という意味で使われているケースもあるように思います(「具体的」ほどではないにせよ)。これらの言葉が出てきたときには、内容と表現のどちらの話をしているのかを明確にしましょう。
以上、「明瞭」と「具体的」の違いについて説明しました。
さらに学習を進めたい人は
ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。次からは明瞭な文章を書くトレーニングを始めましょう。以下のエントリーに進んでください。
また、各種の文章力トレーニングは以下のリンクにまとめてあります。