このエントリーでは、「文章力」とはどのような力かを考えます。
これだけテキスト・文章が溢れかえる世の中になると、文章力が重要であることに議論の余地はないでしょう。しかし、「文章力」という言葉はフワッとしていて、具体的にどのような力なのかはよく分かりません。このエントリーでは、そのあたりを整理しましょう。
toc
「文章力」とは
まず、もっとも広義に考えると、「文章力」とは、目的をうまく達成してくれる文章を書く力であるはずです。とりあえず、これを「文章力」の仮の定義としましょう。
文章力(仮):目的をうまく達成してくれる文章を書く力
問題はここからです。文章は、種類ごとに目的が異なります。以下のスライドを見てください。
このように、文章にはさまざまな種類があり、それによって達成したい目的は異なります。
このエントリーでは、すべての文章の種類と目的は説明しません。上のスライドの詳細は以下のエントリーを読んでください。
話を戻すと、書こうとする文章の種類によって、「文章力」の具体的な意味は変わるということです。例として、仕事用のメールと小説における「文章力」を比べてみましょう。
仕事用のメール | 小説 | |
---|---|---|
目的 | 用件を伝える | 受け手を感動させる |
「文章力」の意味(例) | 伝えたいことを、簡潔で分かりやすく表現できる力 | 創作世界をあたかも現実かのように表現できる力 |
このように、文章の種類によって目的は変わり、結果として「文章力」の意味も変わってきます。
たとえば、メールでは「簡潔に表現する力」が重要ですが、小説ではむしろ「冗長に表現する力」が求められます。実際、「悪者がいたので、退治しました」という簡潔な一文にまとめられた物語を読みたい人はいませんよね。
実用文の「文章力」
ということで、文章力を考えるためには対象とする文章の種類を決める必要があります。当サイトで対象とするのは実用文なので、ここからは実用文における「文章力」を考えましょう。
実用文は大別すると3種あり、それぞれの目的は以下のとおりです。
具体例 | 目的 | |
---|---|---|
論説文 | ・論文 ・小論文 | 自分の主張の正しさを読み手に認めさせる |
説明文 | ・マニュアル(説明書) ・新聞記事 | (複雑な)事実を読み手に理解させる |
連絡文 | ・メール ・手紙 | (単純な)事実や用件を読み手に伝える |
見てのとおり、論説文・説明文・連絡文の目的は異なります。それでも、以下の2点はすべての実用文に共通して求められることです。
- 自分の伝えたいこと(頭の中にある「意味・イメージ」)が、そのままの形で読み手に伝わること
- 目的が達成できる範囲で、文字数が少ない(簡潔である)こと
まず、1つめのポイントは自明でしょう。上記の実用文はどれも、自分の伝えたいことが受け手に正しく伝わらないとその目的を達成できません。実用文では、詩や俳句のように余白を残して読み手の解釈に委ねることはできないのです。
2つめのポイントは、「実用文はコミュニケーション手段であって、エンターテイメントではない」と考えると分かりやすいでしょう。小説なら「長いほうが楽しめる時間が増える」という考え方もありえますが、仕事用のメールが長文であることを喜ぶ人はいません。シンプルに越したことはないのです。
ということで、この2つをまとめて実用文の「文章力」としましょう。実用文の文章力とは、「自分の伝えたいことを、簡潔で分かりやすい言葉で読み手に伝える力」のことです。
文章力(実用文の定義):自分の伝えたいことを、簡潔で分かりやすい言葉で読み手に伝える力
当サイトの「文章力」ではないこと
上記の定義は当たり前すぎて頭に残りにくいので、反対からの説明もしておきます。
以下の力は一般に「文章力」とされることが多いですが、当サイトでは「文章力」だとは考えません。
- 個性的な(独自性のある)文章を書く力
- 実用文では、伝えたいことを簡潔に伝えられるなら積極的に定型表現を使うべき
- そもそも、ノウハウに頼る時点で没個性的な文章にならざるを得ないし、それで問題ない
- 品位・品格のある文章を書く力
- 「品位・品格」という概念が主観的であり、分かりにくい
- 一般に「品位・品格」を追求する文章は難解な言葉を多用する傾向にあり、分かりにくくなる
これらは一昔前の、文章が特別なものだった(小説家や新聞記者など、限られた人しか文章を世の中に発表できなかった)時代の名残です。誰もが文章を書くことを求められる現代においては、ここまでの「文章力」は不要でしょう。少なくとも、万人が目指すものではありません。
文章力の鍛え方|文章力の全体像
先に進みましょう。先ほど定義した「文章力」を身につけるには、具体的に何をすればよいのでしょう? ポイントを以下の表にまとめました(中身を理解する必要はありません)。
見てのとおり、押さえるべきポイントは山のようにあります。この表はまだ未完成なので、最終的なポイントはもっと多くなるでしょう。
これらの詳細は、別エントリーで追って説明します。このエントリーでは、文章力を鍛えるうえで重要なポイントだけ押さえてください。以下の2つです。
- 自分で書いた文章を用意する
- 一度にすべてを改善しようとしない
順に説明します。
文章力トレーニングのポイント①:自分の書いた文章を用意する
文章力を鍛えるための最重要ポイントは、自分の書いた文章を用意することです。以下の順序で学習しましょう。
やること | 例 | |
---|---|---|
1 | ポイントを学ぶ | 「文を短くする」ことと、その理由を学ぶ |
2 | 練習問題を解く | 文を短くする練習問題(用意されたもの)を解く |
3 | 自分の文章に適用する | 自分の書いた文章で文を短くできるところを探し、文章を改善する |
自分の文章がないと、3つめの「自分の文章に適用する」が実行できません。これを行わないと、文章力は向上しないというのが私の意見です。
私の経験上は、どれだけ練習問題を解いても文章力はほとんど向上しません。事前に表現上のポイントを学んだところで、実際に文章を書くときにはポイントを意識できないからです。これは以下の2つの理由によります。
- 実際に文章を書くときには内容に意識が向かい、表現(書きぶり)まで気にする余裕がない
- 「文章を書く」とは必然的に言葉を足していくことだが、表現上のポイントの多くは、言葉を削る方向性のものである(例:文を短くする)
では、表現上のポイントを思い出せるのはいつかと言うと、それは書いたものを推敲するときです。推敲時に同じような修正を何度か繰り返すことで、やっとそのミスを犯さないようになり、文章力が向上します。
当たり前ですが、推敲するには書き上がった文章が必要です。つまり、自分で書いた文章がないと、学んだことを活かせる場がないのです。
また、実際に自分の文章が改善すれば、「勉強してよかった」と思いますよね。私見ですが、文章力トレーニングの練習問題は「解いていて楽しい」という類のものではありません。このようなポジティブなフィードバックがないと続かないでしょう。
以上の理由により、自分の文章を用意してからトレーニングに臨んでください。
自分の文章を用意して、文章力トレーニングに臨む
どのような文章を用意するべきか
用意する文章は、以下の点を意識してください。
まず、分量は多いほど望ましいです。学んだポイントに引っかかる箇所が見つかる可能性が高まります。
次に、実用文のうち、できれば論説文を選んでください。論説文・説明文・連絡文のうち、論説文を書くのがもっとも大変です。逆に言うと、論説文が書ければ説明文や連絡文は書けるので、論説文を基本に考えるのがオススメです。
もちろん、まだ論説文を書いたことがない人は説明文や連絡文でも構いません。ただ、そうするくらいなら、文章力トレーニングは後回しにしてなんらかの論説文を書く(例:ブログを開設する)ことがオススメです。
文章を書くのは自転車に乗るのと似たようなところがあり、とにかく書きまくらないとどうにもなりません。その意味で、トレーニングよりも「文章を書く場所・理由」を作ってしまうほうが、結局は効率的なトレーニングになるでしょう。
最後に、可能であれば、これからも誰かに読まれる可能性がある文章を選びましょう。そのほうが真剣に推敲できるからです。使い回す文書やプレゼン資料などがオススメです。
文章力トレーニングのポイント②:一度にすべてを改善しようとしない
次に、自分の文章を推敲するときには、新しく学んだポイントだけをチェックしましょう。言い換えると、一度にすべてを改善しようとすべきではありません。
たとえば、「文を短くする」というポイントを学んだなら、自分の文章に「長くて分かりにくい文」がないかを探します。このとき、文章の内容やほかのポイントを気にする必要はありません。
繰り返しになりますが、文章を書く際に意識すべきポイントは山のようにあります。それを一度に身につけようとするのはシンプルに不可能です。1つずつ片付けましょう。
新しいことを学んだら、そのことだけを自分の文章に適用する
以上、文章力について説明しました。次回は少し目線を引いて、「分かる(分かりやすい)」とはどういうことなのかを考えてみましょう。
また、文章力に関する全エントリーは以下のリンクにまとめてあります。