このエントリーでは、論点ズレについて説明します。
会話や議論の最中に「話が噛み合わないな」、「なぜ今、その話をするんだろう?」と感じることがありますよね。このときに起きているのが論点ズレです。
論点ズレが起きると、その会話・議論は生産的なものになりません。論点ズレとはどのような現象で、どうすればそれを防げるかを学びましょう。
なお、このエントリーでは「論点」については説明しません。論点ズレを理解するには論点の理解が前提になるので、もしこの先の説明が分からないと感じた場合は、以下のエントリーを読んでください。
では始めましょう。
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論点ズレとは
論点ズレとはその名のとおり、論点がズレる(一致しない)ことです。とりあえず例を見てください。
この会話は論点がズレています。
どういうことでしょうか? 会話の背景にある論点を分析しましょう。
見てのとおり、クマとパンダが話していることの背景にある問い(論点)は一致しません。このように、論点ズレとは議論の参加者の間で論点が一致しなかったり、知らない間に変化したりすることです。
論点ズレ:論点が一致しないこと・意識せずに変化すること
論点ズレは会話・議論中に起こることがほとんどですが、ひとりで考えているときでも起こるので注意してください。延々と考えているうちに、もとの論点からかけ離れたことを考えている(そして、そのことに気づいていない)ようなケースです。
論点ズレの別名
論点ズレには、以下の別名があります。
- 論点のすり替え
- 論点相違の虚偽
- 論点無視の虚偽
ただ、どれも使用はオススメしません。詳しくは後述しますが、「論点のすり替え」はニュアンスに問題があり、ほかの2つは仰々しすぎて言葉として使いにくいです。ニュアンスの正しさ、使いやすさの両面において「論点ズレ」がベストでしょう。
論点ズラし・論点のすり替え
論点ズレのうち、議論の参加者が意図的に論点をズラす場合、それは「論点ズラし」と呼ばれます。
ただ、この言葉の使用はオススメしません。論点がズレたときに、それがわざとなのかを確定させる方法はないからです(問いただして本人が認めるケースは例外)。
たとえば、先ほどの会話はパンダによる「論点ズラし」と呼んで差し支えないものですが、パンダがこれをわざと行っているかを確定させる方法はありません。実際、あのような反論が有効だと本気で思っている人も多いので、「あなたは論点をズラしている」という指摘をするよりは、議論をやめるのが現実的な解決策でしょう。
先ほど「論点ズレ」の別名として「論点のすり替え」をオススメしなかったのも、これが理由です。私の観察するかぎり、論点ズレの大半は無意識に起きており、わざと論点をズラしているケースはまず見かけません。「ズラし」や「すり替え」という言葉には相手を非難するニュアンスがあるので、使わないほうがよいでしょう1。
結論としては、以下の3点で考えるのがオススメです。
- 論点が「ズレたか」だけを判断して、「わざとズラしたのか」は考えない
- 論点がズレたら、その事実だけを指摘して、論点を揃える
- 頻繁に論点がズレる人とは議論を打ち切る(または最初から相手にしない)
この方針だと、余計なことを考えずに議論の生産性を上げられます。
論点を「わざと」ズラしたのかを考えても仕方ない
論点ズレの原因と対策
次に、論点ズレの原因と対策を考えましょう。
まず原因ですが、以下の3つが考えられます。
- 問いよりも答えに意識が向かう
- 「関係あること」の認識が異なる
- 主張が固定されている
順に説明します。
論点ズレの原因①:問いよりも答えに意識が向かうから
まず、「人間は考え始めると、問いよりも答えに意識が向かうから」という原因が考えられます。
人間は議論し始めると、論点(問い)はそっちのけで、話したいこと(答え)を話してしまいがちです。そのうちに話が脱線して、いつの間にか答えの裏側にある問いがズレてしまうのです。
まともな相手と議論しているケースでは、論点がズレる原因はほぼこれです。問いから意識が離れることで、論点がズレるのです。
論点ズレの対策①:論点を書く
裏を返せば、論点ズレを防ぐには、問いから意識が離れないようにすればいいのです。具体的なアクションは以下のとおりです。
- 論点を見えるところに書く
- 議論の最中も、定期的にその論点からズレていないか確認する
- 論点を変えるべきだと思うなら、それを意識した(議論ならコミュニケーションした)うえで、論点を書き換える
このうち、とにかく重要なのは「論点を見えるところに書く」ことです。私たちの頭の中と違い、書いた論点はコロコロ変わったりしません。
論点ズレを防ぐには、見えるところに論点を書く
これはあらゆるシーンで重要なテクニックですが、特にWeb会議では絶対に使うことをオススメします。Web会議だと「論点がズレています」という指摘がしにくく、関係ない話が続きがちですよね。議論が始まったら、共有画面に論点を大きく映しましょう。これだけで論点ズレを抑制できるし、ズレたときの指摘もしやすくなります。
問いと答えの関係を常に意識する
さらに本質的な対策としては、答えの裏にある問いを意識する・言及するしかないでしょう(簡単ではありませんが)。
言語のルールとして、問いと答えには対応関係があります。以下の表を見てください。
このように、あるタイプの問いの答えになれる言説は決まっています。言い換えると、答え(話していること)から問いのタイプを想像できるので、それによって論点ズレが起きていないかチェックできるのです。表の右側から左側を想像するわけですね。
先ほどの例では、4列のコラムを使ってこの対応関係を見える化しました。再掲するので確認してください。
クマのほうがそのまま「答えから問いを想像する」分析です。パンダのほうは「発言の真意を汲み取る」という分析なので、やや応用レベルです。
この4列フォーマットは論点ズレが起きていないかを厳密に評価できるので、慣れるまではこれを使うのがオススメです。
ただ、実際に論点ズレが起きるケースの大半は会話(音声)であり、実践ではこの評価を感覚レベルで素早く行える必要があります2。その点は誤解しないでください。
論点ズレの原因②:「関係あること」の認識が異なる
次の原因として、「何が『関係ある』ことなのか」の認識が異なるということがあります。これは「論点ズレの原因」というより、「論点ズレの別の見方」といってもいいでしょう。
どういうことでしょうか? 例として、先ほどの会話が以下のように続いたケースを考えてみます。
論点がズレたことを指摘してもダメでした。パンダの言うことも、それなりに筋が通っているように見えますよね。パンダにとっては「交通事故の遺族にも言えることであるか」ということが、「車は社会に必要か?」という論点に関係あることなのです。
もちろん、実際は筋が通っていないし、関係もありません。最初から以下のように切り返されたらおしまいです。
ただ、こう切り返したところで、次は「あなたはひどい人(クマ)だ」といった非難が続くことが想像されます。これも関係ないことですが、パンダにとっては関係あることなので、議論が噛み合いません。
論点ズレの対策②:議論を打ち切る・相手にしない
この原因への対策は、議論を打ち切ることしかありません(または最初から相手にしない)。
私の知るかぎり、「何が論点に『関係ある』ことなのか」を明確に決める方法は存在しません。論理学などでも「人格や伝え方は、論点に関係ない」ということは学べますが、「内容のうち、何が『関係ある』のか」を汎用的に判断する方法は学べません。ここはどうしても、「常識・知識・知性」といったフワフワしたものに頼るしかない部分です。
もし論点ズレを指摘しても相手が納得しないなら、そのフワフワしたものがあなたと相手で異なるということです。それを揃える方法はおそらく存在しないし、少なくとも短時間で揃えることは100パーセント不可能です。議論するだけ時間のムダでしょう。
論点ズレの原因③:主張が固定されている
最後に、主張が固定されている相手と議論すると、論点がズレやすいです。
理由はシンプルで、相手は主張を変える気がないからです。このような相手は、議論が自分の主張に都合の悪い方向に向かったら、なんとかしてその方向から話を逸らそうとします。このときに論点がズレます(ただ、これも「わざと」なのかを確定させるのは困難)。
先ほどの議論を、「パンダは『車は社会に必要ない』という主張を譲る気はない」と仮定して読み返してみてください。パンダの言動にも、それなりに理由があるように見えてきます。
この原因への対策も、議論を打ち切ることしかありません。「主張を固定している」とは「議論をする気がない」のと同じだからです。相手にするだけ時間のムダです。
練習問題
以下の会話を分析し、論点がどのようにズレているかを説明しなさい。
以下に解答欄があるので、答えを書いてから解答例を見てください。
クマの論点は「この行為は適法か?」であるのに、パンダの論点は「この行為をみんながやっているか?」になっており、論点がズレている。
みんながやっているからといって、適法であるとは限らない。
以上、論点ズレについて説明しました。
これ以外の誤型については、以下のエントリーにまとめています。こちらも参考にしてください。