サンクコスト効果とは

このエントリーでは、「サンクコスト」と、それが私たちの意思決定に及ぼす影響(サンクコスト効果)について説明します。

では始めましょう。

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サンクコストとは

まず、サンクコスト(sunk cost)とは「使ってしまって、もう回収できないコスト」のことです。沈んだ(sunk)のでもう戻ってこない、と覚えてください。

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サンクコスト:もう回収できないコスト

いくつか、例を見てみましょう。

  • 返品できない買い物に費やしたお金
  • 行列に並んだ時間
  • 好きな人・物に対する思い入れ

これらはすべて、なかったことにしたいと思っても取り返せません。すべてサンクコストです。

このように、お金以外のことも「コスト」に含まれるので注意してください。コストの分類に関しては、以下の別エントリーで解説しています。

ほとんどのコストはサンクコスト

知ってのとおり、お金以外のコストが回収できることはありません。時間はどうあがいても取り返せないし、注ぎ込んだ努力や情熱をキャンセルして、別のことに振り分けることも不可能です。

ということは、以下の整理になります。

  1. お金のうち、取り返せる部分:サンクコストではない(例:中古で売っても価値の落ちない物に払ったお金)
  2. それ以外のコスト:すべてサンクコスト

つまり、ほとんどのコストは、使った時点でサンクコストになります。名前がついているからといって特別ではなく、むしろ当然のことです。この点を誤解しないでください。

サンクコスト効果とは

準備ができたので、先に進みましょう。以下のスライドを見てください。

サンクコスト効果

このように、コストを費やした対象の価値は、私たちの中で上昇します。この上昇効果が「サンクコスト効果」です。

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サンクコスト効果(広義):コストを費やした対象の心理的価値が上昇すること

分かりやすい例として、長く使っている服や食器を想像してください。それらは他者から見るとただの中古品ですが、あなたにとってはそれ以上の価値があるでしょう。これがサンクコスト効果です(「保有効果」と呼ばれることもある)。

なお、ここで説明しているのは一般的な「サンクコスト効果」より広い意味での用法になります。違いは後述するので、とりあえず先に進みましょう。

サンクコスト効果は問題なのか

(上記のように定義される)サンクコスト効果には、特に問題はありません。むしろ、私たちの人生に彩りを与えてくれるものとすら言えるでしょう。

たとえば、あなたにも大切にしている物や、大事な思い出がありますよね。それらはあなたにとって「価値がある」わけですが、すべてサンクコスト効果のおかげだと言えなくもありません。コストを注ぎ込まなかったモノが、大切になることなどないからです。

時間や情熱、お金を注ぎ込んだから、なにかが本当に価値あるものになるのです。もしサンクコスト効果がなかったら、私たちは価値を見出すことができなくなるでしょう。そんな世の中は寂しいですよね。

サンクコストが呪いになるとき

ただし、以下の2点を満たす状況においては、サンクコスト効果は呪いとなって私たちにのしかかります。

  1. すでにコストを投入した対象の継続・中止に関する意思決定をするときで、
  2. 明らかにやめたほうがいい選択肢にコストを投入しているとき

この条件下では、私たちは「明らかにやめたほうがいい選択肢」を簡単に切り捨てられません。サンクコスト効果によって、やめたほうがいい選択肢の心理的価値が上昇しているからです。スライドを確認してください。

サンクコスト効果

具体例:つまらない映画で席を立てるか

例として、映画がつまらなかったケースを考えてみましょう。チケット代は2,000円でしたが、あなたは席を立つか考えています。

まず、チケット代はサンクコストであることを確認してください。映画を見た後には、チケットは返金できません。

ということは、「席を立つか」という意思決定において、チケット代は考慮すべき要素ではないということです。席を立っても、映画を見つづけてもチケット代は帰ってこないわけですからね。純粋に、映画の残り部分に、自分の時間を使う意味があるかだけで意思決定すべきです。

映画がつまらない以上、席を立って別のことに自分の時間を使うのが合理的な意思決定でしょう。しかし、実際にそうするのは難しいですよね。チケット代を払ってしまった以上、元を取りたいと考えてしまうからです。「ここから一気に面白くなる可能性もゼロではない」と考えて、最後まで席にいてしまうものではないでしょうか。

このように、コストを投入した対象は、私たちにとって切り捨てにくいものになります。その対象が明らかなハズレだったときに、サンクコスト効果は呪いとなって私たちの意思決定を歪めるわけですね。実際、「サンクコスト効果(sunk cost fallacy)」の訳語として、「サンクコストの呪い(呪縛)」という言葉もあるくらいです。

狭義のサンクコスト効果|サンクコスト効果の別名

厳密な意味での「サンクコスト効果」は、このような「コストを投入したことによる心理的な価値上昇によって、私たちの意思決定が非合理的になること(=やめたほうがいいことをやめられないこと)」を意味します。

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サンクコスト効果(狭義):コストを費やした対象の心理的価値が上昇することで、意思決定が非合理的になること

この意味での「サンクコスト効果」には、以下の別名があります。

  • サンクコストの呪い(呪縛)
  • サンクコストバイアス
  • サンクコストの誤謬
  • コンコルド効果
    • 超音速飛行機コンコルドのプロジェクトが、経済的に見込みがないことが明らかになった後も中止できなかったことに由来

これらはどれも、「よくないこと」というニュアンスが明確に含まれます。原語は「sunk cost fallacy」なので、こちらが正式な用法でしょう。

ただ、先述のとおり「投入したコストによって心理的価値が上昇する現象」はあらゆるところで起こり、必ずしもネガティブなものではありません。その意味で、中立的なニュアンスのある「サンクコスト効果」は良い訳語だと思います。

サンクコスト効果への対策

最後に、(悪い意味での)サンクコスト効果への対策を考えましょう。以下の2つがあります。

  1. 小さく投資する
  2. 中止・撤退を仕組み化する

順に説明します。

対策①:小さく投資する

まず、小さく投資するという対策が考えられます。これが王道ですね。

投資コストが大きいほど、サンクコスト効果も大きくなる(=後に引けなくなる)のは自明です。よって、コストを上回るメリットがハッキリするまでは、投資コストを抑えるのが無難です。

言い換えると、いきなり大きく投資しないほうがいいということです。もちろん、その投資が当たればリターンも大きいですが、外れても後に引けなくなるデメリットを考えると、ほとんどの場合で割に合いません。

サンクコスト効果を逆手にとる

この対策を逆手にとって、いきなり大きく投資する(させる)ことで、後に引けなくする(させる)ことも、世の中でよく見かける手法です。

たとえば、ダイビング、テニス、楽器などの趣味では「本気なら、最初に道具にお金をかけるべき」と言われます。これは「高価な道具のほうが優れており、上達しやすい」というのが主な理由でしょうが、サンクコスト効果を逆手にとっているという考え方もできるでしょう。数十万円も払ってしまったら、簡単にはやめられないですよね。

趣味に限らず、ほとんどのことは最初がもっとも大変です。本気で続けるつもりなら、最初にある程度のお金を投入するのも1つのアイデアでしょう。

Point

コミットしたいなら、いきなり大きく投資するのも1つの手段

似たような話で、英会話やダイエットに関するサービスには、最初の契約金が数十万円するものがあります。これは事業者からすると「それだけのコストがかかっている」ことのほかに、以下のメリットを狙っている可能性があります。

  1. それだけの覚悟がある人だけを顧客にできる(顧客をふるいにかけられる)
  2. 高額を払ったことで顧客がコミットするので、きついことでも顧客に要求できる
  3. サービスを良いものだと思わせる(顧客は「高額だから良いはずだ」と思い込む)

なんとしても結果を出したいなら、このようなサービスも一考の余地があるでしょう。もちろん、単なるぼったくりである可能性もあるので、その点は注意してください。

対策②:中止・撤退を仕組み化する

次に、中止・撤退を仕組み化することが考えられます。投資をした後でサンクコスト効果に囚われるのは避けられないので、自分ではなく仕組みに中止・撤退してもらうのです。

具体的には、以下の仕組みを用意します。

  • 投資する前に、以下の2つを決めておく
    • 中止・撤退する基準
    • 中止・撤退を決断するタイミング
  • 決断するタイミングが来たら、機械的に決断・実行する
    • 自分は意思決定に関与しない(サンクコスト効果に囚われるから)
    • ルール他者に意思決定してもらい、中止・撤退するなら自動的に執行する

代表例は、金融商品(株やFX)の売買における「自動ロスカット機能」です。以下のとおり、この仕組みでは中止・撤退(損切り)が自動的に行われます。

  • 中止・撤退する基準:購入するタイミングで、「XX円以下になったら決済」と決めておく
  • 中止・撤退するタイミング:基準を満たしたタイミングで自動的に決済
    • 決済はプログラムによって自動で執行されるので、自分は何もしなくていい

実際に損失が出ているチャートを見ながら損切りするのは至難の業です。そこで、購入するタイミング(=まだ損が出ておらず、サンクコスト効果がないタイミング)で冷静に決断しておくわけですね。すべてのケースでこのような仕組みが構築できるわけではありませんが、対策の1つとして覚えておいてください。

以上、サンクコスト効果について説明しました。

また、誤型(誤謬や認知バイアス)の一覧を以下のエントリーにまとめています。こちらも参考にしてください。