理由・根拠・エビデンス・データ・ファクトの違い

2022-11-10
Daisuke Shoka

このエントリーでは、以下の言葉の違いを説明します。

  • 理由
  • 根拠
  • データ
  • ファクト
  • エビデンス

どれも、議論するときによく聞く・見かける言葉です。「理由」と「根拠」のように似たような意味で紛らわしいものから、「エビデンス」のように人によって意味がバラバラになっている言葉まであるので、ここで整理しておきましょう。

なお、当エントリーはあくまで、上記の言葉が「一般的にどのように使われているか」、「人に誤解されないために、どのように使うべきか」といった視点での話をします。特殊な環境における用法(例:ディベート時)は説明しませんし、それぞれの言葉の意味も私の解釈に過ぎません。予めご了承ください。

では始めましょう。

理由と根拠の違い

まずは「理由」と「根拠」の違いから始めましょう。以下のスライドを見てください。

理由と根拠の違い

とりあえず、最も広い意味である「理由」をベースに考えるのがオススメです。

「理由」はこれ以上分かりやすい言葉が存在しないので、言葉ではなくイメージで捉えてください。スライドにあるように、「理由」は矢印です。あえて言葉で説明すると、何らかの主たる事象(A)があるときに、その背景にあるもの(B)を指す言葉が「理由」です。

具体的には、以下ものが「B」に該当します。

  1. 経緯・動機:なぜAをするに至ったのか
  2. 原因:なぜAが生じているのか
  3. 根拠:なぜAが「正しい」と言えるのか

お気づきのとおり、このうちの1つが「根拠」です。つまり、「根拠」は「理由」の用法の一種であるということです。「理由」は「根拠」よりも広い意味で使える言葉であり、そのうちの1つの意味(「正しさを支えるもの」)で使ったときだけ、「理由」と「根拠」は同じ意味になります。

では、理由の用法を、「根拠」に置き換えられるかという視点でチェックしていきましょう。

「理由」の用法①:経緯・動機

まず、「そうなる・そうするに至った経緯」、「そうしたくなった動機」という意味では、「理由」しか使えません。例を見てみましょう。

bear

筋トレを始めたんだ。

panda

理由は?

bear

モテたいんだ。

この「理由」を「根拠」に置き換えることはできません。

「理由」の用法②:原因

次に、「そうなっている原因」、という意味でも、「理由」しか使えません。例を見てみましょう。

bear

筋トレしても、ちっとも筋肉がつかないんだ。

panda

理由は何だろうね。

bear

追い込みが足りないのかもしれないな。

この「理由」も、「根拠」に置き換えることはできません。

「理由」の用法③:根拠

最後に、「主張の正しさを支えるもの」という意味の場合は、「理由」と「根拠」の両方が使えます。例を見てみましょう。

bear

最低でも、週に2回は筋トレしないと意味がないよ。

panda

そう言える理由は?

bear

週に1回以下のトレーニングでは、筋肥大するのに十分な刺激を得られないんだ。

この「理由」は「根拠」に置き換えられますよね。

このように、正しさに議論の余地があること(主張)の正しさを支えるための言説は、「理由」と「根拠」のどちらの呼び名も使えます。なお、「主張」、「根拠」についてはそれぞれ別エントリーで詳しく解説しているので、以下も参考にしてください。

どちらを使うか

どのように使い分けるかですが、「主張の正しさを支えるもの」という意味で使うときには、「理由」ではなく「根拠」を使ったほうがいいでしょう。「根拠」のほうがフォーマルなイメージがありますし、意味が限定されている分、「主張の正しさを支えます」ということが明確になります。先ほどの例で確認してみましょう。

bear

最低でも、週に2回は筋トレしないと意味がないよ。

panda

そう言える根拠は?

bear

週に1回以下のトレーニングでは、筋肥大するのに十分な刺激を得られないんだ。

なんとなくですが、こちらのほうがきちんと議論している感じがしますよね。これ以降、当エントリーでも「根拠」を使うことにします。

データ・ファクト・エビデンスの違い

先に進みましょう。次は以下の言葉の違いを考えてみます。

  • データ
  • ファクト
  • エビデンス

それぞれ細かい違いはありますが、ざっくりまとめると、これらはすべて「観察された事実」という意味で、「妥当な(主張の正しさを支えられるような)根拠」という意味です。まずは以下のスライドを見てください。

根拠ランキング

このように、根拠(として述べる言説)には、その妥当性に序列があります。それを表したのが上の根拠ランキングです。

ちなみに、「根拠ランキング」というのは私のネーミングですので、他で使わないよう注意してください。医療系の論文で使われる「エビデンスレベル」というものを参考にしており、こちらはどこで使っても恥ずかしくない言葉ですが、概念を簡略化・拡張した部分があるので同じ言葉を使うのは避けています。

このスライドを細かく説明しているのと終わらなくなるので、以下のポイントだけ押さえてください。

観察された事実は、そうでないもの(感情や思い込み)よりも根拠としての妥当性が高い

なぜなら、観察された事実は他の人も観察することでその「正しさ」を共有できるからです。このエントリーは言葉の意味にフォーカスするので、詳しく学びたい方は以下のリンクを読んでください。

話を戻すと、観察された事実は根拠として望ましいので、根拠を検討するときには常に「それは観察された事実なのか?」という問いがついてまわるということです。先ほどの言葉はどれも、この「観察された事実」を言い換えたものに過ぎません。

では、順に見ていきましょう。

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データ

まず、「データ」はそのまま「観察された事実」という意味に解釈していいでしょう。これは先ほどの根拠ランキングにも登場している言葉です。

根拠ランキング

ただ、一般に「データ」というときには、「数字として表された事実(定量データ)」というニュアンスが強いですね。定量データと定性データの違いは以下のとおりです。

  • 定量データ:数値として表された事実
    • 例:「このケーキは美味しい」と、100人中95人が答えた
  • 定性データ:言葉として表された事実
    • 例:「このケーキは美味しい」(というコメントそのもの)

このように、専門用語では言葉もデータなのですが、一般に「データ」というときには表やグラフで分かりやすく整理された数字のことがイメージされやすいかなと思います。

例も見ておきましょう。

bear

最低でも、週に2回は筋トレしないと意味がないよ。

panda

そう言える根拠は?

bear

週に1回以下のトレーニングでは、筋肥大するのに十分な刺激を得られないんだ。

panda

それは何かデータのある話?

bear

ユーラシア大学のオリバ教授による2020年の研究では、健康な男女を「週に1回筋トレするグループ」と「週に2回筋トレするグループ」に分けて3ヶ月観察したところ、前者は筋肥大せず、後者は15%筋肥大したんだ。

ちなみに、データは架空のものですのでご了承ください。

ファクト

次に「ファクト」を考えてみましょう。知ってのとおり、これは「事実」という言葉に該当する英語ですが、日本で横文字として使われる場合は若干クセがあります。

まず、「ファクトベースで考える」といった文脈で使う場合、この「ファクト」は先ほどの「データ」と同じ意味だと考えて問題ありません。感情や思い込みではなく、観察された事実(ファクト)に基づいて考えよう、というわけです。

他には、「それはファクトなの?」といった使い方もされますね。これはシンプルに「それは本当なの?(信用していい情報なの?)」という意味です。

余談ですが、私はこの言い回しがあまり好きではなく、あえて「それはトゥルーなの?」と言っていた時期がありました。原則としてスベりました泣。やはり素直に「それは本当なの?」でいいと思いますね。

エビデンス

最後に「エビデンス」を考えてみましょう。これも「ファクト」と同じく、かなり「データ」と近い言葉てすが、「感情や思い込み、経験則ではなく、多数の観察された事実」というニュアンスが強くなります。

どういうことでしょうか? まずは先ほどのスライドを確認してください。

根拠ランキング

見てのとおり、感情や思い込みはランキング最下位です。自分の経験というのも下から2番目ですよね。つまり、これらのことを根拠にして導かれた主張は正しくない可能性が高いです。

しかし、行政や医療業界では、そのような考え方がまかり通ってきた事実がありました。その反省として、「Evidence-based-XXX(エビデンスに基づいたXXX)」という考え方が普及し始めたのです。

ということで、まずは「エビデンス = (ある程度の数がある)定量データ」という解釈で問題ないでしょう。

さらに一歩進んだ「エビデンス」

ただ、日本語における「エビデンス」はここからさらに一歩進んで、「学術論文、およびそこに掲載されているデータ」という意味で使われていることが多い印象です。抽象化すると「議論の余地なく妥当な根拠」といった感じですね。

先述のとおり、上のスライドは医療業界で使われる「エビデンスレベル」というものを参考にしています。詳細は割愛しますが、エビデンスレベルはスライドの「有意なデータ」の部分が実験手法などによって更に細かく分類されていると考えてください。

言い換えると、エビデンス(定量データ)の中にも妥当性の序列があるということなのです。データが綺麗なグラフになっているからといって、そこから導かれる主張を無条件に信じていいわけではありません。

当たり前ですが、何かを考えているときには「より妥当な根拠」が知りたいですよね。そして、そのような根拠が掲載されているのは往々にして学術論文です。このような背景もあり、いつのころからか「正しいと認めるべき根拠・情報」という意味で「エビデンス」という言葉を使う人が増えました。

エビデンスがあれば正しいのか|神格化する「エビデンス」

では、エビデンスがあれば正しいのでしょうか?

原則的にはそのとおりです。感情や思い込みよりは、エビデンス(定量データ)に基づいて考えたほうが正しくなります。

ただ、この考え方を逆手にとって、「エビデンス」や「論文」という言葉を錦の御旗のように使い、情報弱者を騙す人が増えていると感じるので注意してください。例を見てみましょう。

bear

最低でも、週に2回は筋トレしないと意味がないよ。

panda

そう言える根拠は?

bear

そういうエビデンスがあるよ。

一見、クマはもっともらしいことを言っているように見えますが、これは何も言っていないのと同じです。煙に巻いているだけですね。

言うまでもなく、「エビデンス」や「論文」という言葉に意味があるのではなく、大事なのはその中身です。最低でも中身を検討するようにしましょう。

ちなみに、中身があったとしても、無条件に信用していいわけではありません。次の例を見てみましょう。

bear

最低でも、週に2回は筋トレしないと意味がないよ。

panda

そう言える根拠は?

bear

週に1回以下のトレーニングでは、筋肥大するのに十分な刺激を得られないんだ。

panda

それは何かエビデンスのある話?

bear

ユーラシア大学のオリバ教授による2020年の研究では、健康な男女を「週に1回筋トレするグループ」と「週に2回筋トレするグループ」に分けて3ヶ月観察したところ、前者は筋肥大せず、後者は15%筋肥大したんだ。

これならさすがにクマを認めてもよさそうですが、以下のようなリスクがあることは知っておくべきです。

  • 論文そのものに起因するリスク
    • 一般に、実験が行われる環境は実生活とは大きく異なる
    • サンプル(母集団)が自分と異なる属性であるかもしれない
      • 例:白人や黒人をサンプルに行われた実験が、日本人に当てはまるかは分からない
  • 論文の引用者に起因するリスク
    • 論文には書いてある注意事項や但し書きを割愛して、主張をだけを分かりやすく述べているかもしれない
    • 自分の主張に都合のいい論文だけを引用しているかもしれない(チェリー・ピッキング

もちろん、あらゆるケースでこんなことを疑っていたら、自分が専門家になるしかなくなります。それは現実的ではないので、ある程度のところで信用するしかないでしょう1

しかし、「エビデンス」や「論文」という言葉をやたらと使う人は、このような「学術論文の限界」を説明せず、単なる権威としてこれらの言葉を使う傾向があります。あとは、やたらと強い言葉で断言したり、他者を攻撃する傾向もあるように思います。

分かりやすく言うと、こういう人は「エビデンスに詳しい私が述べることが絶対的な真実だ」という態度なのです。あえて具体例は紹介しませんが、本屋に行けばそういう本がたくさん見つかりますよ。

このような考え方は「権威主義」であり、エビデンスを重視しようとする考え方の根底にある「科学主義/論理主義」の対極にあるものです。ミイラ取りがミイラになっているようで残念ですが、とにかくそういう事例をよく見かけるので注意してください。

以上、根拠に関連する言葉の意味を説明しました。次は話を戻して、主張と根拠の関係を立体的に捉えてみましょう。

また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。


  1. ちなみに、この例ならば「クマが信用できるか」を考えるより、自分で頻度を変えて筋トレするのがオススメです。週1回でも筋肥大するならそれでいいし、それでは筋肥大しないなら頻度を上げればよいでしょう。