このエントリーでは、経営資源としてのカネの特殊性を説明します。カネが経営資源の中で完全に異質な存在である理由を学びましょう。
なお、このエントリーは経営資源に関する一連のエントリーの一部です。以下のエントリーから順に読んでください。
では始めましょう。
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カネの特殊性
まずは経営資源の分類を確認してください。
冒頭でも述べたとおり、この中でカネは別格の存在です。正直なところ、「経営資源」という言葉はカネ以外の経営資源に対して使い、「カネと経営資源」という整理にしたほうが分かりやすいのではないかと思うくらいです。
なぜ、カネは別格なのでしょう?
カネには、ほかの経営資源が持たない以下の特徴があります。
- カネはビジネスというゲームのルールである
- カネはビジネスというゲームのゴールである
- カネはほかの経営資源を買える
順に説明します。
カネの特殊性①:カネはビジネスというゲームのルールである
まず、カネはビジネスというゲームのルールです。これがカネという経営資源を別格たらしめる、最大の特徴です。
私の知るかぎり、ビジネスというゲームにはたった1つのルールしかありません。それは、「カネがなくなったらゲームオーバー」というルールです。カネ(キャッシュ)が払えなくなることが、企業が倒産する条件なのです。
これに関しては別エントリーで「倒産の条件」として解説しているので、詳しく知りたい人は以下のリンクを読んでください。
言い換えると、カネがなくならないかぎり、何をしてもいいし1、何もしなくてもいいのがビジネスです。
これの意味するところは、経営者にとって、カネの増減はほかの経営資源の増減とは別次元の重要性を持つということです。なにせ、カネがなくなったらゲームオーバーですからね。
カネがなくなればゲームオーバーなので、カネの重要性はほかの経営資源とは次元が違う
実際、カネがなくなりそう(倒産しそう)な企業の経営者は、何よりも資金調達に奔走します。そして、資金調達が無理そうなら、カネ以外の経営資源をカネに換えます。ヒトを解雇し、有体物(特に不動産)を売り払うわけです2。無体物や知覚できない経営資源など、言わずもがなです。
そして、それで正しいのです。ゲームオーバーになればほかの経営資源に意味はないので、まずは何としてもカネをマイナスにしないことが絶対条件です。
カネの特殊性②:カネはビジネスというゲームのゴールである
次に、カネはビジネスというゲームのゴールでもあります。
理由はシンプルで、利益を出すことは企業のゴールの1つだからです。これに関しても、先ほど紹介したエントリーで説明しています。
「カネはそれ自体がゴールだ」という立場を強くとるなら、カネを経営資源として考える意味は消え去ります。「カネがある。素晴らしい」ということで、あとは株主に還元して(増配か自社株買いを行う)話は終わりです。
このように、カネには経営資源としての利用(=自社の中での利用)のほかに、「ビジネスの成果として、自社の外(株主)に還元する」という選択肢があります。つまり、カネだけはほかの経営資源と違い、純粋な経営資源として考えるわけにはいかないのです。
カネは企業のゴールなので、純粋な経営資源として扱えない
これが冒頭で「『カネと経営資源』という整理にしたほうが分かりやすいのではないか」と述べた理由です。カネは経営資源(ビジネスに役立てるモノ)以外の使い道があるので、ほかの経営資源と同列にカネを並べると、ややこしくなってしまうんですね。
ただ、実態として「経営資源」という言葉にはカネが含まれるし、これは今後も変わらないと考えられるので、当サイトでも経営資源にカネを含めています。頭の中で扱いを別格にしてください。
カネの特殊性③:カネはほかの経営資源を買える
カネの3つめの特徴は、ほかの経営資源を買えることです。
もう一度、経営資源のリストを見てください。
これらはすべて、カネで購入可能ですよね。
順に見ていきましょう。まず、ヒトはカネで買えます。「雇用」とは、ざっくり言えば人の時間をカネで買うことですからね。「ヒトはカネで買える」と書くと、どうしても嫌らしい感じになりますが、変な意味はないので誤解しないでください。
有体物が買えることは説明するまでもないでしょう。
無体物や、知覚できない経営資源も、カネで買えます。さすがに知的財産やブランドは買えないと思うかもしれませんが、それを持っている会社ごと買ってしまえばいいのです。もちろん、売りに出ない会社もあるので、「カネさえあればどんな会社でも買える」という話ではありませんが。
カネでほかの経営資源は買える
同時に、カネでほかの経営資源を買わないことには、企業は価値創造できないことも押さえてください。カネ自体は、企業の価値創造に貢献できないからです3。ヒトやソフトウェアが誰かの役に立つことはあっても、物質(紙きれ)としてのお金は誰の役にも立ちませんよね。せいぜい、世紀末が来たときに燃料として使えるくらいです。預金残高ならただの数値データなので、いよいよ何の役にも立ちません。
つまり、カネは企業の価値創造からは一歩手前にある経営資源なのです。まずカネがあり、次にカネによって調達された「カネ以外の経営資源」があります。以下のスライドで確認してください。
これは大事なことなので、逆からも言い直しておきます。まず顧客の問題があり、その問題に対する解決策(カネ以外の経営資源によって構成される)があり、その解決策を構成する経営資源を調達するためのカネがあるのです。スライドの右上から左に、矢印を逆に辿ってください。
なお、このスライドの詳細は以下のリンクで解説しています。
このように、カネはあらゆる意味でほかの経営資源とは異なります。経営資源でありながら、同時にそれ以上の存在でもある、浮いた存在なのです。ほかの経営資源と同列に扱うべきではないので注意してください。
以上、経営資源としてのカネの特殊性を説明しました。次回は、経営資源としてのヒトの特殊性を解説します(後日投稿予定)。
また、マーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
Footnotes
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もちろん、倫理にもとる行為や違法行為はNGです。ただ、おそらくそのような行為を犯したとしても、カネが残っていればゲームオーバーにはならないはずです(調べるのも馬鹿らしいので調べていませんが)。 ↩
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ただし、後述するようにカネは価値創造に貢献しないので、主要な経営資源をカネに換えてしまうと、倒産の危機は免れても事業存続が怪しくなります。 ↩
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なお、厳密には預金に利息がつくし、金融資産(株や債権)ならインカムゲインに加えてキャピタルゲインも期待できます。実際、企業が財テクをすることは普通のことですし、ファンドのように財テク自体を生業とする業界もあります。しかし、これらはすべて、資金の借り手(=カネをカネ以外の何かに換えて価値を生み出そうとする人・企業)がいるから成り立つことです。本質としては、カネは価値創造に貢献しません。カネは価値の貯蔵・交換手段です。 ↩